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エンジニアによる異世界革命はじめました〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第二章 立国編

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魔剣ダーインスレイヴとオーバーライド

 俺は即座に戦鎚ソードを引き抜き、構えを取った。その低く響く声、やはり男のようだ。二メートルを超える大柄な体躯は、ただ立っているだけで圧迫感がある。そして、その堂々たる佇まい。


「ほう……この一撃をかわすとは。なるほど、やはり只者ではありませんな。素晴らしい目をもっておられる」


 男の声音は落ち着いている。むしろ愉しんでいるようですらあった。


「目? 閉じていても避けられるさ」


 ――オート回避だしな。こっちは。


「ふふ……達人の境地ですな。では、次はいかがかな?」


 その手に握られた漆黒の剣が、こちらへとまっすぐに向けられる。そして、次の瞬間だった。黒い剣が、光を裂くように一閃。

 速い――速すぎる。

 目ではとても追えない。あのリリィの斬撃よりも、速さだけなら上かもしれない


 ――オート回避、再度発動します。


 ロイナの声と共に、俺の体は強制的に横へ弾き飛ばされた。緊急回避用の斥力による反動で地面を転がりながら、俺は即座に詠唱を開始する。


「ホワイル ファイブ タイムズ。至れ、我が工房、顕現せよ。魔道具七番、八番 エンド!」


 ずらりと並んだ魔法陣から五体ずつ二種類の魔道具が姿を現す。俺自慢の戦闘用主力魔道具、ヒトジゴクと魔法サーキュラーソーだ。


「面妖な……だが、これしきで我が剣は止められぬ」


 黒剣がうなり、そして、魔道具たちが一瞬にして両断された。金属製の魔道具が、まるで紙束でも斬るように、バラバラになり、地面に崩れ落ちる。奴の剣の腕も、剣そのものも、異常すぎる。


「これは、魔剣ダーインスレイヴ。この剣に、斬れぬものはなく。そして、少しでも斬られたなら、その傷は決して癒えることがない」


 自信を帯びた声が響いた。その剣は、まるで呪いそのものが、鋼に形を変えてそこに有るかのようだ。黒く鈍く光るその刃は、見る者の本能に『決して触れてはならない』と訴えかけてくる。その名も姿も、明らかに危険なものを感じさせる。

 だが……魔科学と伝説級の武器を組み合わせた俺の戦鎚ソードと、どちらが上か――それを確かめたくなるのが、ヒトの性というものだ。しかし、その考えが甘かったと知るのに、時間はかからなかった。

 俺は斬撃を受け止める覚悟で、戦鎚ソードを掲げたのだが、その一度の動作の間に、五つの斬撃が飛ぶ。俺にはダーインスレイヴと刀身を重ねることすら、許されなかった。

 その間にオート回避は幾度も発動し、斥力が俺の体を次々と弾く。回避、回避、また回避。これでは俺はまるで男の剣圧に弄ばれているボールのようだ。しかし、俺はまだ冷静だった。男の剣撃がいかに早くとも、スマホの処理スピードには及んでいない。ならば――回避の反動で宙を舞う中、俺は魔力を込め、魔法言語の詠唱を開始する。


「オーバーライド オン・オートプロテクション ベクター P トランスファー チャージドバッテリー アットP……!」


 詠唱が完了した瞬間、俺が仕掛けたカウターが作動し始める。男の剣が閃くと、その軌道上の空間が歪み、そこに帯電済みの高圧バッテリーモジュールが転送される。男の剣がそれを真っ二つに斬り裂いた、その一瞬。


 バリバリバリバリッ!


「ぐっ……!」


 男の体に激しい電流が走る。これには堪らず体勢を崩し、膝をついた。

 俺が唱えた詠唱は、魔法言語によるオーバーライド。既存の機能を継承した上で、一部を上書きし、新たな動作を割り込ませる処理のことだ。俺は、オーバーライドを使って、オート防御システムの反応位置に対し、感電トラップを出現させるように処理を書き換えた。言わば、オートカウンターだ。しかし――


「……ほう。これは痛い。だが、我が剣は決して止まらぬ」


 男は、すぐに剣を構え直し切り込んでくる。


 バリバリバリバリッ!


 斬るたびに電流が走る。常人ならとっくに昏倒しているだろう。それでも、彼は動きを止めなかった。この耐久力、尋常じゃない……


「仕方ない。こんなところで使う予定はなかったが、最新の魔道具を試すか……」


 俺は覚悟を決め次の詠唱へ。


「至れ、我が工房――顕現せよ。魔道具、二十――」


 まさにその時だった。


「ご主人様、ビャコウ――そこまでにするにゃん!」


 リリィの声が、夜の静寂を切り裂くように鋭く響いた。

 その瞬間、男の動きが、ぴたりと止まった。まるで嵐が凪いだかのように、張り詰めていた剣気がすうっと引いていく。


「……魔王様、仰せのままに」


 ビャコウと呼ばれた男は恭しく頭を垂れ、黒き魔剣ダーインスレイヴを音もなく鞘に納める。そして、静かに片膝をつき、ゆっくりとフードを取った。

 現れたのは、白銀の毛並みに覆われた顔。その輪郭は獣のものながら、目には知性と誇りが宿っていた。鋭く光る琥珀色の瞳が、リリィを見つめている。それは、白い虎――そう、彼は寅人(いんじん)だった。その堂々たる立ち姿には、猛獣のような迫力と、騎士のような礼節が同居していた。

ビャコウの名前は、四聖獣の白虎から。

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