好々爺による魔法基礎講座
外には青空が広がり、風が心地よく吹き抜ける。異世界の生活は、平和だった。元の世界でいつも忙しく働いていたのか嘘のようだ。ああ、こんな生活があるのだなぁ、としみじみ思う。だが家はボロい。俺の面倒を見てくれているのは、貴族にはとても見えない老夫婦だった。やっぱり家はボロい。
「おじいさん、嬉しいねえ。何だか子供ができたみたいだねえ」
「おばあさん、異世界からの客人に失礼だよ。まあでもうちに来てくれるなんてありがたいねえ」
二人とも、笑顔で俺を迎えてくれる。おじいさんのオージンさんは、髪と髭が真っ白な好々爺で、親しみやすい雰囲気を漂わせている。おばあさんのリッグさんは、優しく世話好きで、やたらと俺にお茶やお菓子を勧めてくれた。
まあ、二人とも悪い人ではなさそうだから、家がどうとか文句を言うのは失礼かもしれない。俺は素直にこの状況を受け入れ、この世界について色々なことを老夫婦に聞いてみた。二人は喜んで答えてくれた。
この世界では魔法が発展している。ヒトが持っている魔力を使って魔法陣を顕現させ、詠唱することで様々な奇跡が起こせるらしい。逆に、科学はあまり発展していないようだ。だが、エンジニアというものは好奇心が旺盛。科学でなくても新しいものには興味がある。オージンさんは、幾つか魔法が使えるらしいので、俺がお願いすると、快くその使い方を教えてくれた。
まず、誰でも使える魔法が二つある。通称、『シカク』と『マル』。
まずは『シカク』。ほんの少し魔力を込めて目を凝らすと、四角い半透明のパネルが見える。これで自分の状態を確認できるらしい。俺もこれはすぐにできた。
[名前] ユージ・クロキ
[レベル] 1
[クラス] ヒト
[職業] 無職
[体力] 8/8
[魔力] 5/5
[加護] 毒耐性
これが俺の今の状態。うむ、我ながらいかにも弱そうだ。それと、名前がリバティになっていないのも気に入らない。どうにか変える方法はないだろうか。また、このシカクは、通常自分の状態しか見ることはできない。ただ、他人の状態も見ることのできる『解析』という特技を持つ者もいるらしい。
そして、もう一つの魔法『マル』は、両手に少し多めの魔力を込めると、手の前に薄く輝くサークルが浮かび上がる。ただし、それだけでは特に役立つことはない。
次に、そのサークルに特別な魔力の込め方をすると、その中に幾何学模様が現れる。例えば五芒星や六芒星の形で、いわゆる魔法陣と呼ばれるものだ。模様はそのほかにもいくつか存在するらしい。これらの魔法陣では物理的な効果、引力や斥力などを発生させることができる。ただし、その効果はそれほど強くはなく、正直なところ、攻撃に使うなら、直接殴った方が強そうだ。だが、魔力の大きい者であれば、それなりの力を発揮できるという。これを『念動魔法』と呼ぶそうだ。
これまでの説明で、基礎的な魔法の仕組みがわかってきた。ここまでの魔法は『無詠唱魔法』と呼ばれ、呪文の詠唱なしで行うものだが、それほど強力ではないということも理解した。
そこまでオージンさんが説明を終えると、リッグさんは新しいお茶を入れてくれた。温かいお茶を一口すすり、大丈夫、今のところついていけている、とホッとする。
次に、オージンさんは詠唱魔法の説明に入った。実演してくれるというので、俺たちは外に出ることになった。ちょうどその時、少し可愛らしい水色の球体が蠢いていた。
「スライムか。まあ、相手としてはちょうどいいな」
初めて見る異世界の魔物、スライムだ。その出会いに少し感動もしたが、スライムは畑を荒らす厄介者でもあり、見つけたら駆除しないといけないらしい。オージンさんはそれを的にして、魔法の実演を始めた。
オージンさんが魔力を手に込めると、マルのサークルが三重になった。一番内側のサークルには六芒星が現れ、一番外側と二番目のサークルの間にも、不思議な幾何学模様が刻まれている。そして、オージンさんは厳かに呟き始めた。
「我解放する。至れ、オルフェスのプロメテ火山、顕現せしは炎の精霊の火……」
その詠唱と共に、魔法陣の二番目と三番目のサークルの間に不思議な文字が次々と刻まれていく。
「放て、小火炎!」
オージンさんが叫ぶと、完成した魔法陣が光り輝き、炎の塊が飛び出してスライムに命中した。スライムはまるで溶けるように消えていった。
「これが、小火炎の魔法だよ」
カッコイイ!
目の前で見た魔法に、思わず声が漏れる。これこそが本物の魔法だ。
「小火炎はそんなに強い魔法ではないが、スライムくらいなら一発で倒せる」
オージンさんは控えめに言ったが、俺は目を輝かせていた。
「オージンさん、凄いっす! これ、俺にもできるんですか?」
「ああ、初歩の魔法だから、練習すればきっとできるようになるよ」
オージンさんはにっこりと微笑み、さらに詳しく説明してくれた。どうやら、この魔法は精霊の力を借りて奇跡を起こすものとされ、『精霊魔法』と呼ばれるカテゴリに入るらしい。
その日から、俺の魔法特訓が始まった。オージンさんからは魔力の注ぎ方と魔法陣の描き方、詠唱のタイミングまで、細かい指導を受けながら、何度も何度も練習を重ねた。
……それから半年が過ぎた。
[名前] ユージ・クロキ
[レベル] 2
[クラス] ヒト
[職業] 無職
[体力] 10/10
[魔力] 7/7
[魔法] 小火炎
[加護] 毒耐性
ついに、俺は小火炎の魔法を習得した。火球をスライムに向けて放ち、倒した瞬間、俺のレベルが2に上がった。
「さすがだな、リバティさん。物覚えがいいねぇ」
オージンさんはニコニコと褒めてくれた。俺もとても嬉しかった。
……が、後で知ったことだが、小火炎は魔法の中でも最も基本的なもので、習得難易度は非常に低いらしい。学び始めてわずか一日や二日で使えるようになる者もいるとのこと。俺は詠唱に関しては難なく習得できたものの、魔法陣の構築がどうしても苦手だった。感覚で掴むものらしいが、俺はこの手のロジカルに説明できないものは苦手なのだ。
要するに、俺には絶望的なまでに魔法の才能がない、ということだ……
異世界ものでは既にあることになっている魔法、詠唱といったものを自分なりに説明してみました。
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