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エンジニアによる異世界革命はじめました〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第二章 立国編

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思考の檻の聖女

 私は白石麗愛、医者です。私は幼い頃から、少し変わった子どもだったと思います。周囲の子たちが楽しそうに笑ったり、無邪気にはしゃいでいる姿を、私はいつも少し離れた場所から静かに眺めていました。


『どうして、あんなに楽しそうにできるのだろう?』


 そんな疑問が、幼いころから心の中にありました。みんなは、ほんのちょっとした出来事でもドキドキしたり、ワクワクしたりするのに、私はなぜかそういった感情が湧いてこなかったのです。

 今になって考えると、おそらく私は脳内のドーパミンの分泌量が少なかったのだろうと思います。ドーパミンが足りないと、同じ出来事に対しても、他者と同じように幸せに感じたり、楽しく感じたりできない体質になります。理屈ではそう説明できますが、当時の私にとっては、世界の中で自分だけがズレていることに戸惑っていました。

 そんな傾向もあって、私はずっと『自分は、何のために存在しているのだろう?』ということをよく考えていました。『人間』という言葉は、『人の間に生きる』であるとよく言われます。人の中にいて、誰かの役に立つことで、自分の存在は初めて意味を持つ――そんなふうに、私は自分なりの答えを無理やりにでも導き出そうとしました。だからこそ、人を助ける仕事に就きたいと思ったのです。そして、自然と『医者』という職業に惹かれていきました。

 医者になるために、私はもちろん、それなりに努力を重ねてきました。厳しい受験を乗り越え、ようやく白衣に袖を通して働き始めたとき、周囲からは『すごいね』と言われました。その言葉が嬉しくなかったわけではありません。けれど、大学病院の勤務医という立場で多忙な日々を送る中、私はすぐに思い知らされました。現実は、私が思い描いていたものとは大きく違っているということを。

 勤務医の仕事は、常に時間に追われています。一人ひとりにじっくり向き合う余裕などなく、目の前の患者さんたちを次から次へと診なければなりません。カルテに目を通し、検査結果を確認し、症状を聞いて、治療方針を決める――そういった処置を、まるで流れ作業のようにこなしていく毎日でした。その作業は、医師の力量はあまり関係なく、極端に言えば、救える命は最初から救える命で、救えない命もまた、出会ったときにはある程度結果が見えている『変えられない運命』のようにも思えました。そんな現場に身を置きながら、私は次第に、変化を求めるようになりました。ただ作業をこなすだけの毎日ではなく、自分の手で未来を選び取れるような場所に行きたい。

 そして私は、思い切って行動を起こし、紛争地域や被災地で活動する医師団に応募しました。私の知識と経験があれば、もっと多くの人を救えるはずだと、思い込んでいたのです。けれど、現実はそんなに甘くありませんでした。私は、自惚れていただけだと気づかされました。そして――挫折しました。


 こうして私は、この異世界へと辿り着きました。とても幸いなことに、授かった加護のおかげで聖女と呼ばれ、みんなから大切にしてもらえました。けれど結局のところ、自分が何も成長していなかったことを改めて思い知らされただけでした。それでも、この世界で出会った人々や出来事が、少しずつ私を変えてくれました。医療の知識だけでは守れないものがあること。誰かを本当に救うためには、それ以上の力が必要だということ。私は、今、初めてその事実に向き合い、新たな一歩を踏み出しました。そのための新しい魔法の訓練は、私にとってかつてない体験でした。感じたことのないような高揚感が伴うのです。その感覚に溺れないように友人と訓練を続けながら、もちろん、アースベルの医者として診療も行い、合間にはグラーズアカデミーで子どもたちに勉強を教えるという日々を送っています。


 その日も、教室にはいつも通り子どもたちの元気な声が響いていました。黒板の前で問題を出すと、皆が一斉に手を挙げて答えてくれます。笑顔と笑い声に囲まれたこの教室は、私にとっても大切な場所です。けれど――その穏やかな時間は、突然破られました。

 外から、騒ぎ声と物々しい音が聞こえてきたのです。授業中だった私は急いで窓から外を見て、外の様子を確認しました。遠くに、土煙が立ち上っているのが見えました。目を凝らすと、その中に見えたのは、巳人たちの姿でした。半身が蛇の姿を持つ、ミーアと同じ種族の人々です。村の入り口は自警団によって守られているはずですが、彼らはすでに突破されていました。巳人たちの数は……おそらく50人近く。小国アースベルの自警団の人数を優に上回っています。

 巳人たちは家々を荒らすこともなく、まっすぐこちらの方向に進んできているようでした。私はすぐに教室へ戻り、子どもたちの避難を指示しました。怯えて泣きそうな子もいましたが、皆が落ち着いて動いてくれました。ただ、ミーアだけは様子が違っていました。その顔色は青く、視線は落ち着きを失っていました。彼女もまた巳人。目の前に現れたのは、自分と同じ種族の者たちです。その存在に、彼女はきっと何か特別なものを感じていたのでしょう。

レイア視点のお話は初です。ここはミーア視点にするか、レイア視点にするか迷いました。


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