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エンジニアによる異世界革命はじめました〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第二章 立国編

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巳人たちとの戦い

 巳人の男が剣を振りかぶり、俺に振り下ろしてくる。俺は戦鎚ソードを横に構え、間合いを見極めながら、彼の剣を受け止める。刹那、キィンという甲高い音とともに、相手の剣が根元から切断された。戦鎚ソードの刃が、接触と同時に重さを極限まで高め、いなされることなく、重ねた剣の刃を切り裂いたのだ。巳人の男は、塚だけになった剣を見て立ち尽くす。何が起きたのか、思考が追いついていないようだ。


「至れ、我が工房。顕現せよ、魔道具第7番!」


 俺は即座に詠唱し、右手を地面にかざす。足元に魔法陣が走り、地面が一気に崩れた。そこから突如として現れたのは魔道具『ヒトジゴク』。抵抗の声を上げる間もなく、巳人の男はヒトジゴクの中に封じ込められた。


 だが、安心する間も無く、今度は後方にいた巳人たちが、一斉に詠唱を始めた。魔力の波が空気を振るわせ、複数の術式が展開される。多重の魔法が俺に迫った。どんな魔法かは分からないが、まあ大丈夫だろう。炎や冷気、そして毒と見なされるような魔法は俺には効かない。


 ーーマスター、警戒してください。この魔法は、温度変化、毒のいずれにも属さない可能性が高いです。


「えっ、そうなの!?」


 俺がロイナの警告に驚いたその時、


『空間⭐︎反転』


 エルマが魔法を発動させた。魔法陣が時を刻むように回転し、徐々に遅くなり、逆回転を始めた。すると空間に歪みが走り、巳人たちが放った魔法がそのまま逆流するように送り返された。自らの魔法を食らった巳人たちは、目を見開き、虚空を彷徨うような視線で次々と倒れていった。


「感覚を遮断する魔法じゃな。触覚、視覚、聴覚、すべての感覚が一時的に奪われる。油断はならんぞ。巳人の魔法は、派手ではないが厄介なものが多い」


 俺は思わず息を呑んだ。確かに恐ろしい魔法だ。しかし、それを平然と相手に跳ね返してしまう師匠の底知れなさにも、あらためて戦慄する。


「さすがは師匠。助かったよ」

「いくらでも儂を褒め称えてくれて良いぞ。おだてればおだてるほど、儂は力を発揮するタイプじゃからな」


 一瞬にして、巳人たちの半数を無力化した俺たち。リリィも確実にキマイラを追い詰めている。これなら俺たちの優位は揺るがないだろう。


「なんだあの申人たちは……強すぎるだろ……? 警戒していたとは言え、想定を遥かに超えている。我らはこれでもオルムの精鋭。それが手も足も出ないなんて……。借り受けたキマイラだって、本来なら厄災級の魔物のはずなのに……」


 動揺した巳人の一人囁いたその言葉を遮るように、重い振動と衝撃音が森に響く。キマイラの巨体が、地面に叩きつけられたのだ。リリィが空中で鋭く回転しながら、己の爪でキマイラの翼の付け根を切り裂き、飛行能力を奪ったようだ。そのしなやかで強靭な身体能力は、まさしく魔王と呼ぶに相応しい強さだ。


「炎で氷が溶かせるっていうなら、吐けなくしてやればいいにゃん」


 続け様にリリィが展開した魔法陣から、次々に巨大で鋭利な氷の槍が現れる。まず最初の一本が、正確にキマイラの獅子の口へと突き刺さる。続けざまに、他の氷槍も容赦なくキマイラの胴体、脚部、尾、そして山羊の頭へと次々に突き刺さり、その巨体を地面に縫い止めていった。


「安心するにゃん。苦しみはあとほんの一瞬にゃんよ」


 リリィが目を見開き、歓喜するような笑みをたたえると、その両手の前に、黒く禍々しい魔法陣が展開される。


「黄泉の門よ、今ここに開かれよ。冥府の深淵より来れ、終焉に潜む終焉の刃!」


 詠唱と共に、空間が軋んだ。


死の鎌(デス・サイズ)


 魔法陣から姿を現したのは、漆黒に染まった巨大な鎌。その刃は闇そのものを凝縮したような曲線だ。振り下ろされた一撃はキマイラの獅子の首と山羊の首を音もなく斬り落とした。


「おしまいにゃん。さらにおかわりくれてもいいにゃんよ」


 断ち切られた首が地面に落ちると、巳人たちは恐怖の色を浮かべて完全に戦意を喪失したように見えた。しかし、その中のリーダー格の男は冷静に命令を下した。


「もう時間は十分に稼いだ。動ける者は全員、撤退せよ!」

「時間稼ぎ?」


 一斉に踵を返す巳人たち。俺たちが後を追おうとするとその男は吐き捨てるように言い放った。


「どこまでも追ってくるがいい。我らの目的は、あくまで同族を救い出すこと」

「同族……?」


 その言葉に嫌な予感が頭をよぎった俺は、足を止めた。


「まさか……ミーアか!?」


 彼らの目的が同じ巳人のミーアだとしたら、それはまずい。今アースベルの三強が全員ここにきてしまっていて、村の守りが手薄になっている。


「くっ……!」


 俺はすぐさま村に向けて駆け出した。まさかキマイラを囮に使うとは、あまりに大胆な作戦だ。森の中を、俺たちは全力で駆け続ける。

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