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エンジニアによる異世界革命はじめました〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第二章 立国編

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聖女とお寿司

 レイアがイザベル村に来てから、早いもので半年が経った。彼女の体調もすっかり良くなり、むしろ以前より自信にあふれているようにも見える。そして今では村人たちから絶大な信頼を寄せられている。もともと村を救った英雄の一人でもあり、加えて優れた医者でもあるからだ。ちょっとした怪我はもちろん、これまで不治の病と思われていた症状の中にも、レイアの治療によって改善したものがいくつかある。そのため、村の中には彼女の治療を『聖女の奇跡』と呼び、崇拝する者もいるほどだ。しかし、レイア自身はそんな称号にはあまり関心がない。


「これは奇跡ではなく、ただの医療技術ですよ」


 そう言って、どんな患者にも控えめに丁寧に説明してくれる。その誠実さが、村人たちの信頼をさらに高めているのだろう。


 また、診療所が休診の日には、レイアもグラーズアカデミーで講義をしてくれる。算数や数学の知識は俺にも引けを取らず、むしろ教え方は俺より断然上手い。子供たちは優しく教えてくれるレイアの授業が大好きだ。特に、生物学の講義は圧巻で、彼女の知識はまさに群を抜いている。病気の仕組みや人体の構造について、わかりやすく丁寧に説明してくれるので、子供たちも興味津々だ。難しい内容でも、レイアが話すと自然に理解できるように感じる。さすが医学部卒といったところだ。

 アカデミーの講義以外でも、レイアは衛生学や栄養学の知識について積極的にアースベルに広めてくれている。そのおかげで、村の健康状態は確実に底上げされているのを実感する。村人たちが病気になりにくい生活習慣を身につけるようになったのは、間違いなくレイアの功績だ。


 そんな大活躍のレイアだが、その日休憩の合間にふと俺に声をかけてくれた。


「アースベル元首のリバティさん、就任おめでとうございます。すっかり偉くなっちゃいましたね」

「いや、ちょっと無理やり進めた感じも否めないけど……」


 俺が照れくさそうに返答すると、そばにいたミーアが誇らしげに口を開いた。


「お兄ちゃんがここに来て6年。6年間でここはすっごく良くなったんですよ。ぜーんぶお兄ちゃんのおかげなので、当然なんです。すみません」


 確かに、ここまでくるのは色々大変だった。最初は水も食料も不足している土地だった。だけど、これは俺だけではなく、みんなの努力が実を結んだ結果だ。


「元首として、というとなんだか偉そうだけど、レイアにも感謝しないと。これまでこの村にはきちんとした医者がいなかったから、今は本当に助かってるよ。でも、いずれはサリオン帝国に戻っちゃうの?」


 俺は以前から気になっていたことを、少し遠慮がちに聞いてみた。すると、ミーアが寂しそうな顔をする。


「レイアお姉ちゃん、ずっとここにいてくれたら嬉しいです……」


 レイアはその言葉に少し困ったようにくすっと笑った。


「もう半年もサリオン帝国の診療所を開けてしまっているのは、正直気になってるの。でも、サリオン帝国には私以外にも医者がいるけど、アースベルには私しかいないのよね。それを知ってしまうと、どうしても戻りづらくなっちゃって……」


 そう言って、少しバツが悪そうに、小声で呟いた。


「それと、本音を言えば、戻りづらいのはここがとても素敵な場所だからっていうのもあるんだけどね」


 その言葉を聞いた瞬間、ミーアの顔がぱっと輝いた。


「レイアお姉ちゃんがこの村を素敵って言ってくれた!」

「うん、アースベルは本当に良い場所だと思うよ。みんな優しいし、居心地が良いし……っていうか」


 そしてレイアは満面の笑みで声を張り上げた。


「お寿司美味しすぎるでしょ!」


 突然の叫びに、俺もミーアも一瞬ポカンとしてしまったが、すぐに笑いがこみ上げてきた。イザベル村では、俺が元の世界から持ち帰った米の栽培に成功し、酢と醤油の製造もできるようになっていた。イザベルの海で獲れた新鮮な魚介類の切り身を酢飯に乗せ、醤油をつけて食べる寿司。特に、イザベルの海産物は味が濃厚で、その切り身は旨味の塊のような代物だ。


「寿司の完成がレイアを引き留めているなら、開発は大成功だな」


 俺がそう言うと、レイアが照れ笑いを浮かべた。それを聞いてミーアも幸せそうに寿司を思い浮かべているようだ。


「すみません、私もお寿司大好きです。お口の中に入れたら、とろけちゃいそうになります」

「おっ、ミーアちゃんもなかなか舌が肥えているとみましたよ」


 するとミーアが、真剣な顔で自分の舌をペロッと出して確認し始めた。


「えーっ、私のベロ、太っちゃいましたか? やっぱり最近食べ過ぎですか? すみませんすみません」


 焦るミーアの仕草に、俺もレイアも笑ってしまった。今日も平和だな。


 寿司の話題で楽しそうに盛り上がる俺たちを、影からじっと見つめる視線があったのだが、その時の俺たちには知る由もなかった。


「なぜ我が同胞が、申人などと共にいるのだ……」


 その不穏なつぶやきは、風に紛れて消えていった。

お寿司は偉大です。


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