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エンジニアによる異世界革命はじめました〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第二章 立国編

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ヴァナヘイムの脅威

 平和な会談も終わりに差し掛かった頃、オージンさんがふと思い出したように、浮かない顔をした。


「そうだ、リバティさんのおかげで東のヘルヘイムの脅威はなくなったけれど、次に脅威になるかもしれないのは西のヴァナヘイムだよ」

「ヴァナヘイム?」


 初めて聞く国名だった。これまで東のサリオン帝国と魔王軍にのみ注意を向けていたので、西の情勢はあまり把握していなかった。オージンさんは真剣な表情で説明を続ける。


「強い国だよ。ヴァナヘイムには魔王はいないが、上級神がいると聞くよ。ただ、その神は神聖な神ではなく、邪神らしい。もっとも、神様が表舞台に出てくることはめったにないようだけどね」


 邪神か……できれば関わりたくない言葉の響きだ。


「ヴァナヘイムの主な種族は半身が蛇の巳人(みじん)と、翼を持つ酉人(ゆうじん)だ。どちらも強力な加護を持っていて、魔法に長けた者が多いよ」


 半身が蛇の巳人。ミーアと同じ種族だ。サリオン帝国の人々からはとても恐れられている。


「それに……」


 オージンさんは少し言いにくそうに続けた。


「実は、この国、サリオン帝国は過去に巳人の村を何度か襲撃したことがあってね。そのため巳人の多いヴァナヘイムとの関係も良くないんだ」


 この国が巳人の村を襲撃した話は俺も知っている。ミーアもその被害者だ。オージンさんはさらに続ける。


「そして、ヴァナヘイムとサリオン帝国の間には……」


 そう、イザベル村がある。


 ヴァナヘイムがもし申人を攻撃するとしたら、最初に狙われるのはイザベル村になるかもれない。俺は思わず唾を飲み込んだ。


「十分に気をつけるんだよ。何かあった時には、私も力になるからね」


 オージンさんのその言葉からは、俺とイザベル村を本当に気にかけてくれていることが伝わってきた。


 会談が終わると、オージンさんと王妃になったリッグさんは、わざわざ城の外まで出てきて、俺が見えなくなるまで手を振って見送ってくれた。リッグさん手作りのお菓子のお土産まで持たせてくれて、本当に昔と変わらない。この温かさが、今度はサリオン帝国全体を包むことになるのだ。


 ◇ ◇ ◇


 サリオン帝国との関係はひとまず整理がついた。だが、オージンさんに言われた通り、今度は西のヴァナヘイムの存在が気になり始めた。その他にも、周辺にはいくつかの小国の脅威もある。このままイザベル村が無防備でいるのは危険だ。

 そこで俺は、イザベル村、北のラドン村、そしてマッキィがテーマパークを建設しているその間に広がる荒野を含めた、南北に細長い地域を一つの国として宣言する準備を進めることにした。だが、国にはくをつけるためには、俺自身が『魔王』になってしまうのが手っ取り早い。その準備として、すでに魔王リリィを魔道具の力で無理やり支配下に置いたわけだが、これだけで十分なのかは分からない。そもそも、魔王になるためには何が必要なのか? 考えたところで答えは出ないだろう。魔王のことは、魔王に聞くのが一番だ。俺は早速、リリィを呼び出して尋ねてみた。


「ひとつ聞いてもいいか? どうやったら魔王になれるんだ?」


 リリィはあきれたように尻尾を揺らしながら、鼻を鳴らした。


「どうやったら魔王になれるかってにゃん? 質問の唐突さに呆れるにゃん。フン、無知で人でなしのご主人様にも仕方ないから教えてやるにゃん。といっても、条件さえ満たされていれば『フェオ』を使って誰でもなれるにゃんよ」


 相変わらず、リリィの言い方にはトゲがあるが、最近ではもう慣れてしまった。もちろん、支配の首輪に『他者を(さげすま)せるような言葉を使うな』と命令を追加することもできるが、さすがにそこまで言論を縛るのは大人気ない気がする。なので、リリィの憎まれ口はもうそういう個性だとして受け入れることにした。


「それで、フェオって何だ?」


 リリィは面倒くさそうに答える。


「あー、愚民に一から説明するのは面倒にゃん……ヒトに残された基礎魔法、目を凝らすと能力値が見えるあれにゃん」


 ああ、なるほど。自分のステータスが見られる通常『シカク』と呼ばれている、あれのことか。フェオという名前があったことを初めて知った。俺は魔力を目に集中させ、視界に浮かび上がるステータス画面を確認した。


 [名前] リバティ・クロキ・フリーダム

 [レベル] 99

 [クラス] ヒト

 [種族] 申人(しんじん)

 [職業] 魔道具師

 [体力] 820/820

 [魔力] 650/650

 [加護] 毒無効(極)

 [魔法] 小火炎 転送

 [特技] 魔法陣操作


 相変わらず、見慣れた俺のステータスだ。魔王軍との激戦を経たにも関わらず、数値には特に変化がない。既にクラス『ヒト』の上限値にまで達しているからだ。これ以上強くなるには、クラスアップするしかない。


「クラスを上げたいなら、クラスのところを注視するにゃん」


 リリィに言われた通り、俺はクラスの部分をじっと見つめた。すると、新たな情報が表示された。


クラスアップ先

・超人

・仙人

・菩薩

・魔王

・聖王

・神


 表示されたクラスアップ先の候補はどれも暗い色で表示されている。


「どれも暗く表示されているけど……これ、どういうことだ?」


 リリィはため息をつきながら、呆れたように答える。


「それは当然にゃん。そんな簡単にクラスアップできるわけがないにゃん。すべてのクラスにはそれぞれ条件があって、それを満たせば候補が輝き出すにゃんよ。でも、生きている間にクラスアップできるヒトなんて、百万人に一人くらいにゃん」


 そんなに難しいのか。改めて、仙人クラスのエルマや魔王クラスのリリィがどれだけ特別な存在か思い知らされた。

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