目指せ夢の国
「な、なにこれ! 支配の首輪に似てるけど、何百倍にも強度と邪悪さが増している! 一体どうやったらこんなことができるの? それに、この見たこともない金属は何なの!?」
マッキィは興奮のあまり耳をぴょこぴょこと動かしながら、リリィの首輪を食い入るように見つめている。その手元では、メモ帳に走るペンが止まらない。
「す、すごいっ! すごすぎる! これを作ったのって、もしかして……神? あなた、神ですか!?」
マッキィの瞳はキラキラと輝き、まるで崇拝するかのようにこちらを見上げている。俺は苦笑しつつ、手を振って否定した。
「いやいや、これは君が作った支配の首輪を元に、ちょっと魔改造しただけなんだ。強度を上げるために、異世界の金属『タングステン』を使っているんだよ」
「タングステン!? そんな金属、初めて聞いたよ! それって、どんな性質があるの?」
マッキィは顔をぐっと近づけ、期待に満ちた目を向けている。その勢いに少し気圧されながらも、俺は答えた。
「タングステンは、異世界では最も耐久性が高くて重い金属なんだ。高温にも強くて、溶かそうと思ったら3400度以上の溶鉱炉に首を突っ込むしかない。だから、たとえ魔王でも簡単には外せないってわけだ」
俺がリリィの首輪を指差して、細かく説明していると、リリィがむっとして抗議してきた。
「ほんとうにいまいましい首輪にゃん。それから、そんなにジロジロ見ないでほしいにゃん! 恐怖の魔王に『にゃん』とか言わせて喜んでいるご主人様の変態さがうつるにゃん!」
「いや、変態はうつらないって……いや違う、そもそも俺は変態じゃない! ただの魔道具師だ!」
リリィの反論に俺はやや怯んだが、マッキィのテンションは最高潮だ。
「ただの魔道具師って、これで? この技術力、どこの工房でも真似できないよ! まさに伝説の秘宝級だよ!」
「まあまあ、でもこれは君の元の魔道具があってこそ完成したものだし。元々の構造がしっかりしてたから、強化もしやすかったんだよ」
「いやぁ、ボクの魔道具が凄いのはその通りなんだけど……キミ、やっぱり凄すぎるね!」
マッキィは感心したようにうなずきながら、リリィの首輪を観察し続けている。俺たちは技術談義に夢中になり、互いの知識を交換し合っていると、リリィが退屈そうにあくびをし、
「あーあ、世界なんて早く滅んでしまえばいいにゃん」
と呟いた。
俺は他の魔道具も次々と召喚し、マッキィに見せた。中でもマッキィが特に興味を示したのは、魔道具11番、魔法言語ペンダントだった。異世界の精密加工機を使って作ったこの魔道具には、子人のマッキィの手でも到底刻めないような、極めて細かい魔法陣が彫り込まれている。
「いやぁ、これ、すごくいいね! こんなに細かい魔法陣、どうやって彫ったの? ボクも軍事用途の魔道具ばかりじゃなくて、こういう面白い魔道具を作りたいなあ!」
「もう戦争も終わったし、軍事用の魔道具を作らなくてもいいんじゃないか? なあ、リリィ、そうだろ?」
リリィはやる気のない声で返事をした。
「はいはい、いいにゃん。っていうか、もう全部どうでもいいにゃん」
投げやりではあるが、どうやら異論はないらしい。俺はマッキィに話を戻した。
「それにしても、マッキィはどんな魔道具を作りたいんだ?」
「そうだね……ボクの夢は、みんなが楽しめる魔道具を作ることかな。例えば、夢のような体験が味わえる乗り物とか!」
マッキィは瞳を輝かせて無邪気に笑う。まるで遊園地のアトラクションみたいな発想だ。
「ボクの夢はね、夢の国を作ることなんだよ!」
マッキィの言葉には、まっすぐな情熱が込められていた。それは彼女が本当に目指している夢なのだろう。
「夢の国か……いいね。それは邪悪な支配の首輪とは正反対の発想だな。でも、多くの人を楽しませるっていうのは素晴らしいことだ。ぜひ一緒に開発しよう!」
俺が目指すのは『自由の国』だ。そこに夢があるのなら、さらに望ましい。
「本当? それは嬉しいな! でも、人が乗れるような乗り物となると、開発費が結構かかるよね……」
マッキィが少し心配そうに眉をひそめる。俺は笑って肩を叩いた。
「それなら、イザベル村から支援するよ。村の発展にもなるし、面白い場所ができたら、きっとみんな喜ぶだろうしな」
「えっ、ほんとに!? ありがとう、リバティ!」
マッキィは嬉しそうに顔を輝かせた。その無邪気な笑顔と情熱に触発され、俺もつい意気込んでしまう。
そうして、話はとんとん拍子に進み、マッキィによるアトラクション開発が本格的にスタートした。どうせやるなら、大きなテーマパークにしてしまおうという話になり、イザベル村とラドン村の間に広がる広大な荒野を利用して、『夢の国』のようなテーマパークを作る計画を立てた。
村人たちに計画を話したところ、人々はマッキィの情熱に心を打たれ、「新しい観光地として面白そうだ」と賛同してくれた。資材や作業人員の確保もスムーズに進み、俺たちはテーマパーク建設に向けて動き始めた。マッキィはイザベル村の工房にこもり、遊びの魔道具をいくつも作り始めた。小さな身体で巨大な図面を広げ、一心不乱に設計を練っている姿は、まさに職人そのものだ。リリィはそんな彼女の様子を、
「ふん、まったく馬鹿げた夢にゃん」
と呟きながらも、工房の隅から興味深そうに眺めていた。
『面白いかも!』『続きを読んでやってもいい!』と思った方は、ブックマーク登録や↓の『いいね』と『★★★★★』を入れていただけると、続きの執筆の励みになります!




