若返った転移者と、この素晴らしき加護の力
男は一段と偉そうな口調で話し始めた。その声は威圧感を感じさせる。
「余はここ、サリオン帝国の皇帝、ゴルディアス・サリオン。そなたたちに来てもらったのは、その力を余のために役立ててもらうため」
彼が皇帝なのか。納得した。どうりで、この部屋で一番豪華な服を着ているわけだ。そして、何とも威圧的な態度。
「最初は皆戸惑うだろう。この世界とそなたたちの元の世界は時間の流れが違うらしく、異世界からここにきた者は皆若返る」
そうか――つまり、俺たちは元の年齢よりもずっと若返っていたのだ。レスラーの徹と医者の麗愛は、今や6、7歳くらいに見える。小学校の一年生くらいだ。2人とも、身体が縮んで、服はブカブカだ。つまり、2人と同じくらいの年齢だった俺も7歳くらいの見た目になっているということか……。
唯一服がジャストフィットしているのが、大企業の創始者である晴人だ。90歳だった彼はここでは18歳くらいに見える。どうやら年齢はおおよそ元の五分の一くらいになっているようだ。
皇帝ゴルディアスは一瞬の間を置き、次の言葉を続けた。
「そなたたちはそれぞれ、類まれなる才能を持っていると聞いておる。そして、この世界に来るとき、加護を授かっているはずだ。まずは、そなたたちの名前と得意なことを教えてくれ。そして、この魔道具、『解析の水晶』に手を当て、どんな加護を持っているのか見せてもらおう」
静まり返る部屋の中、最初に動いたのは晴人だった。老人の面影はもはやなく、その姿は才気あふれる青年だった。車椅子はもう必要ないようだ。体が軽く、自由に動けることを心から喜んでいる様子が伝わってくる。
「私は晴人。この世界にお誘いいただき、ありがとうございます。若返ったおかげで、体が軽く、自由に動けるようになりました。それに、頭も冴えている。素晴らしいことです」
ゴルディアスは満足げに頷いた。
「うむ、それは何よりだな。さて、ハルトよ、得意なことは何だ?」
ハルトは一歩前に出て、明快に答えた。
「前の世界では会社を経営していました」
「ほう、会社とは何か?」
「多くの人々を集め、役に立つものを提供して利益を出す組織です」
ゴルディアスは興味深そうに問いを続ける。
「商売をして利益を得る、つまり商会だな。して、そなたが扱っていた役に立つものとは何だ?」
ハルトは少し考えてから答える。
「生活に役立つ道具や珍しい食べ物、遊具など、さまざまなものを提供してきました。皆が欲しがるものは、時代や環境によって変わります。私は、皆が今何を課題に思い、何を求めているのかを見抜くことが得意です」
「なるほど」
ゴルディアスは頷きながら続けた。
「確かに、それは素晴らしい才能だな。このサリオン帝国の繁栄のために大いに役立ちそうだ」
ハルトはその言葉に感謝の意を込めるように一礼した。ゴルディアスはすぐに次の指示を出した。
「では、この水晶に手を当て、そなたの加護を見せてくれ」
ハルトは頷き、言われた通りに水晶に手を当てる。やがて水晶が鮮やかに輝き始めた。部屋の中に集まっていた者たちから、感嘆の声が漏れた。
「おお、これは先導者の加護!」
「そなたは、この加護によって多くの者を導くであろう。商会を設立するにあたって、これほどふさわしい加護はない」
水晶の輝きがやや落ち着いた後、ゴルディアスがハルトを見つめながら、声をかけた。
「ハルトよ、見事だ。これからはその加護を活かして、帝国の発展に貢献してくれ」
ハルトはその言葉に静かに頷いた。
「では次の者」
ゴルディアスの声が響く中、次に麗愛が一歩前に進み出た。ブカブカになった服を体に巻き付け、今はメガネも外している。外見はかなり幼くなり、すっかり可憐な少女になっているが、聡明そうな眼差しはそのままだ。彼女は落ち着いた様子で自己紹介を始めた。
「私は麗愛。医者をしていました。得意なことと言いますか、私の使命は多くの人々の命を救うことです。それが私の役目だと考えています」
ゴルディアスはその言葉に感心した様子で頷きながら答える。
「おお、医者か。レイアとやら、それはまた貴重な才能だ。それに信念も見事だ。さあ、加護を見せてくれ」
レイアは静かに水晶に手をかざした。その瞬間、再び部屋の中に大きな歓声が上がった。水晶は優しく輝く。
「これは、聖女の加護!」
「その加護は呪いを浄化し、回復をもたらす。まさに、世界を癒す者だ。だれもが求める、国に一人は欲しい人材だ」
ゴルディアスはその加護を賞賛し、満足げに微笑んだ。
「素晴らしい。そなたの加護は、この帝国にとって非常に重要な力となるだろう。邪を祓い、人々を癒す者として、活躍してくれることを期待している」
レイアも自分に与えられた加護を再認識し、静かに頷いた。新たな使命への決意を宿しているようにも見えた。
次は、レスラーの徹が前に出た。子供の姿になり、豪快だった彼も可愛くなっている。だが、やはり見かけの歳の割に体は大きい。
「だーははは! 俺は徹。レスリングのチャンピオンだ!」
彼の豪快な、だが幼い声が部屋に響き渡り、部屋の堅苦しい空気が打ち破られた。子供になっても彼の存在感は圧倒的だ。ゴルディアスは興味深そうに彼を見つめながら言った。
「トオルとやら、レスリングのチャンピオンとは、何かな?」
トオルは余裕のある笑みを浮かべながら答える。
「フン、レスリングとは、最強の格闘技だ。そして俺は、その中でも最強だってことさ」
「トオルとやら、何と素晴らしい。そなたこそ余が待ち望んでいた人材ではないか。」
ゴルディアスの目が輝く。期待の色が色濃く浮かんでいる。
「さあ、加護を見せてくれ!」
トオルは豪快に笑いながら、水晶に手をかざす。すると、水晶が一瞬で眩い光を放ち、部屋の中に衝撃が走った。その光は、これまで見たこともないほど強烈で、部屋全体がその輝きに包まれる。全員がその光景に驚き、思わず息を呑んだ。
「な、なんと、これは、勇者の加護!」
周囲の者たちが一斉に、これまでにない大歓声を上げる。その声には、尊敬の念が込められている。
「勇者は闘志のある限り不滅。魔王に対抗できる存在……」
「ついに、ついに勇者が現れた…!」
トオルはその反応を楽しむように、ニヤリと笑う。
「おお、俺の加護はそんなに凄えんだな。何せ元々凄えからな。つまり、やっぱり俺はどこでも最強ってことだ」
彼は自分の力を誇示するかのように、堂々と胸を張った。
ゴルディアスは、目を細めながら満足げに頷く。
「トオルよ、期待しておるぞ。そなたがおれば、この国も安泰だ」
その言葉から、トオルの力を心から信じていることが伝わってきた。
まだ興奮冷めやらぬ中、皇帝ゴルディアスは最後に俺を見た。
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