魔界の死神 推理編
「ハンツさん、モーリスさん、すみません。リバティお兄ちゃんが倒れていた部屋の中を見たとき、他に何か気づいたことはありませんでしたか?」
私は二人に尋ねました。
「うーん、俺たちすぐに気を失っちまったし、それに部屋の中は真っ暗だったんだよなぁ」
「そうそう、だからこそ、青白く光る死神がはっきり見えたんだよ」
「……つまり、部屋のランタンの灯りがすべて消されていた、ということですね?」
私は考えました。犯人はなぜ灯りを消したのでしょうか? 普通、暗闇では作業がしづらいはずです。何かを隠すためだったのか、それとも……死神は闇の中でしか呼び出せない、そんな制約があるのでしょうか?
ちょうどその時、薬屋のダガンさんが通りかかりました。
「死神に似ているが、この村には『暗黒の悪霊』の伝説がある。昔、この地に現れた悪霊を封印し、その証として石碑が建てられたんだが……」
「石碑……?」
思わぬ情報に、私は驚きました。そして、ダガンさんと一緒にその石碑を確認しに行くことにしました。
すると、そこにあったのはーー倒れている石碑でした。
「なんと、これでは封印が解かれ、悪霊が復活してしまうかもしれんのだが……」
ダガンさんが険しい表情で言いました。
「この悪霊は丸いものが大好きらしい。俺たちが子供の頃は、悪霊を見たら、穴の空いた小銭を放り投げて、悪霊がその小銭を拾っている間に逃げろって言われていたのだが……」
なるほど、これも重要な証言です。悪霊は丸いものを好む、と。そこで私は、あることに気づきました。いつもならお茶と一緒に出されるお菓子はケーキなのに、なぜ会談の時だけドーナツだったのでしょうか? 丸いものといえばドーナツです。偶然でしょうか……?
私は早速ナノンさんに確認してみました。すると、
「それは、シルバリオさんがドーナツが好きだって、帝国兵その47さんが言っていたからなの」
ナノンさんはそう答えました。いろいろなことが少しずつつながっていきます。ですが、まだ足りないピースがあります。
その時、おばちゃんたちの集団が、楽しそうにおしゃべりをしながら歩いていました。
「あらあ、そうなの? あの帝国兵その66がねぇ」
「そうそう、道案内を間違えて、シルバリオって人に酷く叩かれていたのよ」
「まぁ、それって、いわゆるパワハラってやつよねぇ」
「ほんとよねぇ。パワハラはダメよ、ダメダメ!」
おばちゃんたちの会話を聞いて、私はハッと閃きました。そうです、パワハラはいけないことなのです! 今、私の中で、すべてがつながりました。私はすぐにハンツさんとモーリスさんにお願いし、事件の関係者全員を迎賓館に集めてもらいました。
◇ ◇ ◇
やがて迎賓館の広間には、関係者たちが集まり、不安そうな表情で私を見つめています。
「皆さん、今日はお集まりいただき、本当にすみません」
私は深く一礼し、ゆっくりと顔を上げました。
「今回の事件について、私なりに考え、ある結論にたどり着きました。これからお話しするのは、その推理なんです」
静かな緊張感が広間に満ちていきます。
「すみませんが、どうか、最後まで聞いてください」
私はそう言って、大きく息を吸い、推理を始めました。
「リバティお兄ちゃんが書き残した『まかい』の文字。事件の発見者の皆さんが『死神を見た』という証言。そして、暗黒の悪霊を封印していた村の石碑が倒されていたこと。さらに、その悪霊は丸いものが好きで、会談室にはドーナツがあったこと……」
私はゆっくりと周囲を見渡しながら言葉を続けました。
「すみませんが、これらすべてが、一つの答えに結びつきます」
広間の空気が張り詰めました。関係者たちは息をのんで、私の次の言葉を待っています。
「ちなみに、帝国兵その66さんは、その日迎賓館にはいらっしゃいませんでした。しかし、彼はシルバリオさんから日常的にパワハラを受けていたそうです。そして、帝国兵その65さんはその66さんのお兄さん。帝国兵その47さんは65さんの友人です」
私は視線を帝国兵さんたちに向けました。
「47さんがナノンさんに『シルバリオさんはドーナツ好き』と伝えたことで、会談室にドーナツが持ち込まれることになりました。そして、そのドーナツが事件の引き金になった可能性が高いのです」
私は一歩前に出て、はっきりと宣言しようとしました。
「つまり……犯人は、この中にーー」
その瞬間、迎賓館の扉が勢いよく開きました。入ってきたのは、レイアお姉ちゃんとリバティお兄ちゃんでした。そして、レイアお姉ちゃんは言いました。
「犯人はこの中にいません!」
わわわ、何ということでしょう。私は色々な意味で言葉を詰まらせました。犯人はこの中にはいなかったのですね。そして、お兄ちゃんが無事で、本当に良かった。あと心からすみません……
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