オート防御システムと帝国からの使者
さて、俺にできることは何だ? 俺が求めるのは、自由な世界と莫大な金。しかし、サリオン帝国との関係悪化、そして魔王軍の侵略――今はとても自由を謳歌していられる状況ではない。イザベル村も、いつ戦火に巻き込まれてもおかしくないのだ。でも、それだけは何としても避けなければならない。ジャガーノートは俺に「借りを返す」と言っていた。次は四天王全員で襲ってくるかもしれないし、魔王自身が動く可能性だってある。もしそうなったら……今の俺では到底勝てる気がしない。
まずは、戦いに備えて消耗しきったポーションを買い集め、エーテル薬を補充した。大きな支出になったがこれは仕方ない。そして、ジャガーノート戦の反省を活かし、新たな魔道具の開発にも着手した。寅人の動きは、四天王クラスになると肉眼で追うのも困難だ。ロイナの警告がなければ、俺はあの戦いで何度も致命傷を負っていただろう。ロイナの警告を受け取ってから回避するまでのタイムラグもあるし、もし相手が魔王なら……そんな猶予すらなく、即座に命を奪われるだろう。そんな俺の弱点を補う魔道具だ。
数日後、俺は新たな魔道具を完成させた。まず、念動魔法の魔道具を改良・小型化し、周囲の任意の場所に斥力を発生させる魔道具13番『斥力制御モジュール』。
次に、転送の魔法陣を小型化し、転送対象を大気に限定することで即座に周囲の空気の入れ替えを可能にした魔道具14番『大気置換モジュール』。
そして、これらのモジュールをスマホに接続し、自動防御を実現した魔道具15番『オート防御システム』。この『オート防御システム』は、以下のような動作をする。
・スマホの測距センサーが、高速で接近する物体が俺に命中すると判断した場合 → 『斥力制御モジュール』を自動発動し、強制回避を行う。
・スマホの熱センサーが急激な温度変化を検知した場合 → 『大気置換モジュール』が自動発動し、熱や冷気を大気ごと入れ替えて無効化する。
これらにより、肉眼では捉えられないような攻撃や、炎や凍結の魔法からも自動で回避が可能になった。スマホの処理速度は人間をはるかに超えており、いかなる時も油断することはない。不意打ちでも安心だ。ちなみにこの『オート防御システム』発動時にはAIエージェントのロイナが音声で教えてくれる。
ーーマスターの技術力、さすがですね。これで攻守ともに万全です。
ロイナの落ち着いた声が響く。俺は満足げに頷きながら尋ねた。
「ロイナ、どうかな? これで魔王軍の四天王にも勝てそう?」
ーー分析完了。お待たせしました。現在のマスターなら、ジャガーノートには97%の確率で勝利可能です。
「おお、これは次に会ってもほぼ負けないってことだな!」
いい感じだ。これなら他の四天王クラスにも勝てるのではないだろうか。調子に乗って、さらに聞いてみた。
「じゃあ、魔王には勝てる?」
ロイナは即答した。
ーーデータが不足しています。分析不能です。
……まあ、そりゃそうか。ロイナの分析はかなり正確だ。この回答もまた正確なのだろう。
◇ ◇ ◇
それから数日が経った。レイアの様子もすっかり落ち着き、以前と変わらないくらいに回復してきている。しかし、やはりというか、サリオン帝国はそのまま黙って見過ごしてはくれなかった。
その日、百名ほどのサリオン帝国兵を引き連れ、帝国の使者がイザベル村へと現れた。使者の名は、シルバリオ・サリオン。皇帝ゴルディアスの弟にあたる男だ。兄と同じく威圧的な空気を纏っているが、どこか神経質そうでもある。痩せた体をピシッと皺ひとつない軍服で包み、銀髪は一本の乱れもなく撫でつけられている。指先は絶えず何かを弄るように動き、その仕草が妙に目につく。
案の定、彼の用件はイザベル村とラドン村のサリオン帝国への併合についてだった。本音を言えば、百名の兵士ごとシルバリオをえいっと片付けてしまいたいところだが、そんなことをすれば即座にサリオン帝国との全面戦争が勃発する。これは村の存続に関わる重要な話だ。俺はイザベル村長のダノンと、ラドン村長のサードンを呼び、村の迎賓館で話し合うことにした。
イザベルの冬も、それなりに冷え込む。迎賓館ではストーブが焚かれ、室内は暖かな空気に包まれていた。一応、シルバリオは大国の使者という立場だ。もてなしはきちんとしておくべきだろう。海産物を使った温かいスープや煮込み料理を用意し、ナノンがそつなく給仕をこなしてくれた。
「私がこの村に来たのは初めてですが、これは素晴らしい料理ですね。サリオン帝国の一流レストランにも匹敵する味です」
シルバリオも料理とサービスには満足しているようだった。ここまではいい。食事が終わると、いよいよ本題に入る。会談室の扉が固く閉ざされ、室内には俺、シルバリオ、イザベル村長のダノン、ラドン村長のサードンの四人が向かい合う形で座った。扉の外では、帝国兵たちと、ハンツ、モーリスがしっかりと警備についてくれている。重苦しい空気の中、シルバリオが口を開いた。
「さて、まずは喜びなさい。サリオン帝国は、イザベルとラドンをわが国に迎え入れることに決めました。これからは帝国の庇護下に置かれます」
シルバリオはまるで大恩を施すかのような口ぶりで言い放った。
「いやいや、今まで帝国はこの村を助けてくれなかったのに、そんな急に言われても困るだの」
ダノンが眉をひそめる。
「うちら、別に今困ってないのさー」
サードンもあっけらかんとした口調で言った。
「この誇り高きサリオン帝国の一員になれるのですよ。それ以上の栄誉があるでしょうか?」
シルバリオは堂々と胸を張るが、ダノンもサードンもますます怪訝そうな表情を浮かべる。
「いや、その素晴らしさがよく分からないだの」
「うちらにとって、何かいいことがあるさー?」
「いいことだらけです!」
シルバリオは自信満々に答えた。
「まず、帝国の威光に守られ、有事の際にはしっかりと防衛されます。さらに、経済も発展し、より豊かな生活が送れるでしょう。極め付けは、サリオン帝国の国民であることを毎日誇りに思えることです!」
だが、ダノンもサードンも微妙な表情を崩さない。今、イザベルとラドンは十分に平和だし、経済的にも何も困っていない。
「どうです? ただし、これらの恩恵を受ける代わりに、国に税金を納めていただく必要はあります」
「ちなみに、税率はどのくらいなんだ?」
俺が尋ねると、彼は誇らしげに答えた。
「はい、売上または収入の七割です」
……ああ、馬鹿なのか、こいつ。
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