大いなる力、ジャガーノート
「ヒャーハハ! ハカイ、ハカイ。ゼ~ンブ破壊して、ここに死の国を作るんじゃがのっと!」
ジャガーノートの陽気な声が響く中、俺は乱戦状態の戦場を避けるように迂回し、超斥力シューズを使って素早く敵軍の後方へと回り込んだ。そして、転送の魔法陣を顕現させ、魔法陣操作でジャガーノートの足元へと移動させる。
「なんじゃがのっと!」
しかし、ジャガーノートは俺の魔力の気配を即座に察知し、自らの魔法陣を重ねて俺の魔法陣を打ち消した。魔法陣は、別のより大きな魔法陣を重ねることで無効化できる。これは俺の得意技である魔法陣操作の弱点だ。
「ウヒョッ! お猿さんの子供がいるよっと! オイラに1人で挑むって、なんて命知らずなおバカさんなんじゃがのっと!」
ジャガーノートは派手な輿に座ったまま、ニヤニヤと俺を見下ろす。輿を担ぐ寅人たちは筋骨隆々の大男ばかりだ。
「まあ、心配するなよっと。君の死は決して無駄にはしない。お猿さんの子供は美味だからなぁ。じっくり、じっくり味わって喰ってやるんじゃがのっと」
ジャガーノートの声は楽しげで、その奥には狂気と獣の本能が滲んでいる。また、俺の存在に気づいた魔王軍が、次々と警戒態勢を取った。奇襲は失敗だ。
ジャガーノートの輿を担いでいた五人の寅人たちが、素早く輿を下ろし、俺に向かって飛びかかってくる。体格の差は歴然、速度も尋常ではない。
ーーマスター、五体が高速で接近します。
ロイナが冷静に状況を報告する。最新のスマホの測距センサーのおかげで、敵の動きが正確に把握できる。本当に素晴らしい技術だ。
「ホワイル5タイムズ 至れ、我が工房、顕現せよ、魔道具7番 エンド!」
俺の素早い詠唱と共に転送の魔法陣が輝き、魔道具『ヒトジゴク』が繰り返し出現する。ヒトジゴクの強力な引力により、突進してきた寅人たちの体を吸い込んでいった。
「閉門!」
そして、今回の『ヒトジゴク』には鋼鉄の蓋がついている。俺は即座に蓋を閉じ、五体の寅人を封じ込めた。その光景を見た魔王軍の兵士たちが、一斉に剣を構え、俺に殺気を向ける。俺もアダマントの剣クサナギを抜き、構えた。
「ホーホウ、待て待て、手出し無用っと。こいつはオイラがやる。奇妙な詠唱だ。どうやらただのお子様じゃなさそうじゃがのっと!」
ジャガーノートはそう言うと、輿から軽やかに飛び降り、突如として奇妙な体操を始めた。両手を上げ、腰をひねる滑稽な動き。
「ホイっ、ホイっ、ぐるりん。そしてびょーん! オイラはジャガーノート、大いなる力! オイラの進撃は、誰にも止められないんじゃがのっと!」
そのふざけた動きに、一瞬、気が緩む。しかし、次の瞬間ーー
ーー緊急回避、願います!
ロイナが早口で警告したのとほぼ同時に、ジャガーノートの姿がかき消えた。いや、消えたのではない。信じられないほどの速度で、俺の眼前に迫っていた。
「くっ!」
反射的に超斥力シューズを全開にし、俺は弾かれるように後方へ飛び退く。次の瞬間、ジャガーノートの鋭い爪が空を裂いた。あと一瞬でも遅れていたら、間違いなく引き裂かれていた。だが、勢い余った俺の体は回避の反動で地面を転がる。こいつ、ただのふざけた奴じゃない。寅人の中でも別格のスピードを持つ相手だ。
「至れ、我が工房、顕現せよ、魔道具7番!」
転がりながら、俺は素早く詠唱する。おそらくジャガーノートは一瞬の隙すら与えてくれない。予想通り、顔を上げた瞬間には、すでに目前まで迫っていた。
「発動! そして、閉門!」
俺はギリギリのタイミングで魔道具の転送を成功させ、ジャガーノートをヒトジゴクに封じ込めた。これで終わったか……?
だが、次の瞬間、中から不穏な詠唱が響いてきた。
「我、解放する。冥獄の最深層の扉ーー招来せしは、世界を穿つ破壊の衝撃!」
ーー高エネルギー反応。警戒してください。
ロイナの警告が届くと同時に、凄まじい衝撃がヒトジゴクの内部から放たれる。
『悪魔の衝撃』
瞬間、轟音と共にヒトジゴクが粉々に砕け散った。
「おいおい、これ一台作るのにいくらかかってると思ってんだよ……!」
まさか一撃で破壊されるとは……こいつの力は、本気でヤバい。
「オイオイはこっちだよっと。この魔法は何じゃがの? 精霊魔法でもなく、神聖魔法でも、念動魔法でもない……」
「これは、魔科学だ」
俺ははっきりと言い放った。
「なんじゃそれっとぉ!」
ジャガーノートが大げさに驚いてみせた次の瞬間、その姿が消えた。
ーー上から来ます、マスター。
ロイナの警告が響く。俺はすかさず詠唱に入った。
「ホワイル3タイムズ 至れ、我が工房、顕現せよ、魔道具8番 エンド!」
そして、3発の魔法サーキュラーソーを上空に向けて放つ。高速回転する円形ノコギリが空を切り裂き、狙い澄まして飛来する。
「うっひょっ! これはヤバいっと!」
ジャガーノートは空中で身体をひねり、何とか直撃を避けようとした。しかし、そのうちの一つが鋭く彼の肩をかすめた。
「ウヒョッ! 直撃してたら腕もげるっと!」
だが、この隙を俺が見逃すはずもない。
「ホワイル コール リトルフレイム エンド!」
俺自慢の小火炎の集中砲火だ。連続して繰り出される小火炎が、至近距離からジャガーノートに襲いかかる。数発は確かに命中した。だが、ジャガーノートは冷静に態勢を立て直すと、素早く間合いを取り、無数の火球を身軽にかわし始めた。
「ヒャーハハ! そんなんでオイラを焼こうってかっと? 甘いんじゃがのっと!」
ジャガーノートはまるで踊るように炎を避けている。
「ブレイク!」
俺は砲火を中断し、ジャガーノートの動きを慎重に見据える。
「接近戦でオイラとやりあえる奴がいるなんて、驚きじゃがのっと!」
ジャガーノートは楽しげに笑うが、こっちは全くそんな余裕はない。奴の動きは速すぎて、目で追うのは困難だ。ロイナのサポートがなければ、今頃俺の体は斬り刻まれていただろう。一瞬でも気を抜けば死――それがこの戦いの現実だ。
ジャガーノートとは、止めることのできない巨大な力、圧倒的破壊力を意味しますが、この敵に関しては単に見た目がジャガーだから、という理由もあります。え、知ってた?
『面白いかも!』『続きを読んでやってもいい!』と思った方は、ブックマーク登録や↓の『いいね』と『★★★★★』を入れていただけると、続きの執筆の励みになります!




