AIエージェントの安藤さん
エルマは一応理解してくれたようだが、俺の『魔法言語』は、輪廻の魔法陣の繰り返し条件を、俺独自のプログラミング言語で再定義することで実現したものだ。つまり、詠唱によるプログラミングが可能になったというわけだ。これは画期的なことだとは思わないか?
また、精密加工機の導入によって、『詠法』の魔道具を小型化できただけでなく、大きくなりがちな複雑な構造を持つ魔道具全般を小型化することができるようになった。まさに、これは最高の魔道具製造機だ。
さらに、俺は元の世界から持ち帰ったさまざまなものを試し始めた。
まず手をつけたのは、魔道具4番『状態音声ナビ』のアップグレードだ。これまでは簡単な音声通知をするだけだったが、接続先を古いスマホから最新の高性能スマホに変更。このスマホには、サーバー不要で動作するAIが搭載されている。つまり、これまでのように単に状態変化を告げるだけではなく、状況に応じたアドバイスを提供してくれたり、俺と会話をすることすら可能になった。
ーーおはようございます、マスター。今日も調子が良さそうですね。新しい魔道具のテストをしますか?
もう、ほとんど生きている相手と会話しているような気がしてくる。俺はこのAIに『ロイナ』という名前を付けた。デフォルトだと『オシリス』だが、しっくりこなくて。ちなみにこれも俺が勝手に付けたのだが、彼女の苗字は『安藤』だ。
それから、持ち帰った米の稲の苗。やっぱり、米が食べたいよな。俺はダノンさんに頼んでイザベル村で稲作を始めてもらうことにした。米が育ったら、次は米酢も作ろう。そうすれば、この地の新鮮な海産物を使って、寿司を作ることができる。異世界で寿司を食べる日も、そう遠くはなさそうだ。
さらに、元の世界で最も硬いとされる金属、タングステンの塊を使った実験。タングステンはダイヤモンドに次ぐ硬度を誇る金属だ。せっかくだから、アダマント製の剣『クサナギ』とどちらが硬いか、試してみることにした。結果は――タングステンの塊に、『クサナギ』は傷を付けた。つまり、アダマントの方が硬度が上だったのだ。さすが、異世界最強の金属……。俺は思わず、クサナギをなでなでした。
ーーマスター、お客様が来られたようです。
ロイナが来客を告げる。俺が元の世界から持ち帰った品々を試し、存分に楽しんでいるところへ、ハルトが訪ねてきたのだ。今やサリオン帝国で1番の商会のトップである彼が、直接俺を訪ねてくるのは珍しいことだ。何かただならぬ様子を感じ、俺は手を止めた。
ハルトはとても申し訳なさそうな顔をして、静かに切り出した。
「リバティさん、すみません。実は、イザベルとラドンのツアー客の一部が、ここにリバティさんが滞在していることを知ってしまいまして……。私もこれは恐れていたことなのですが、その情報がゴルディアス皇帝の耳に入り、皇帝がどうしてもリバティさんをサリオン城へ召喚したいと言っているんです」
俺は少し考え込みながら問い返す。正直、あの皇帝の顔は二度と見たくない。
「……行かなかったら?」
ハルトは困ったように目を伏せ、言いづらそうに続けた。
「その場合、あまり良い状況にはならないでしょう。最悪の場合、皇帝はイザベル村に兵を差し向けて、村ごと制圧しようとするかもしれません……」
それはずいぶんと強引な手段だ。だが、彼の言う通り、あのゴルディアス皇帝なら十分に想定される出来事だ。まったく、俺はただ静かに研究を続けたいだけなのに。ため息をついた俺を見て、エルマが口を開いた。
「ふむ、穏やかではないのう。儂も同行しようか?」
エルマの申し出は頼もしいが、俺はすぐに首を振った。
「いや、師匠はここに残ってもらった方がいい。もし本当に帝国が兵を差し向けてきたら、ここを守る戦力が必要になる」
「うむ……分かった。今のお主なら心配は要らんと思うが、気をつけるのじゃぞ」
ミーアも心配そうに俺を見つめている。
「お兄ちゃん、大丈夫ですよね……? 酷い目にあったりしませんよね?」
ミーアはサリオン帝国で酷い扱いを受けた過去がある。トラウマになっていても不思議はない。それに、巳人は帝国の人々からとても恐れられている。彼女も同行させるわけにはいかない。
「大丈夫さ。ちょっと話をつけてくるだけだ」
そう言いながらも、心の奥では警戒感を強めていた。ゴルディアス皇帝がわざわざ俺を呼びつけるなんて、世間話で住むとは到底思えない。もう嫌な予感しかしない。
「イザベル村を頼むよ、師匠、ミーア」
俺はそう言い残し、ハルトと共に、サリオン帝国へ向かうことにした。
安藤ロイナさんの登場です。デフォルトの名前は「お尻」みたいに聞こえて微妙だったようです。
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