異世界への帰還と魔科学の幕開け
深夜の公園で、俺は周囲を警戒しながら、魔力増幅機を稼働させ、異世界への転送のための魔法陣を顕現させた。詠唱を始める。この様子を誰かが見てたら完全に怪しい儀式だな。
「至れ、創造神ティアノスが創りし彼方の世界、偉大なる大地のイザベル、ポータル十七号。導くは我と所持品、魔道具十番——!」
魔法陣が光を放ち始める。だが、どこか頼りない。輝きが足りず、転移の発動には至らなかった。
「……足りないのか」
どうやら、持ち帰る荷物が多すぎて、魔力増幅機に残っていた魔力だけでは賄えないらしい。荷物の数を減らせば解決しそうだが、どれも異世界では貴重な品ばかりだ。せっかく持ってきたものを、ここで諦めるのはもったいない。俺は万が一の備えとして持ち込んでいたエーテル薬に手を伸ばした。限界突破された魔力の上限まで回復するために、惜しみながらも二十本を消費する。そして、再び転送を試みた。
「……いける!」
今度は魔法陣が眩い光を放ち、空間が歪み始めた。次の瞬間、俺の視界は真っ白に染まった。
◇ ◇ ◇
目を開けると、目の前には見慣れたイザベル村の風景が広がっていた。転送先は専用に用意した転送ポータルだ。
「戻ってきたな……」
体を動かしてみると、手も足も軽い。頭も冴えている。また若返っている! やっぱり若いって素晴らしいな。
俺の工房に戻ると、エルマとミーアが俺を待っていた。向こうの世界では約一週間滞在していたが、こっちでは二日も経っていないようだ。
「おお、帰ってきたのじゃ。思ったより早かったのう」
エルマがいつもの調子で出迎えてくれる。
「お兄ちゃん、良かった……!」
ミーアがぱっと表情を輝かせ、俺に駆け寄った。
「向こうの世界の方が良くなって、もう帰ってこなかったらどうしようって……すみません」
ミーアは申し訳なさそうにそう呟いた。
「そんなわけないだろ。ちゃんと戻ってくるって言ったじゃないか」
俺はミーアの頭を軽く撫でながら笑った。まずはお土産として、ミーアとエルマにマカロンの詰め合わせを手渡した。
「わわわ、すっごく綺麗な色です! どれも美味しそう!」
ミーアが目を輝かせながら箱を覗き込む。
「ほほう、なんともカラフルなお菓子じゃのう。これは儂のアフタヌーンティーにぴったりではないか!」
エルマも満足げに微笑みながら、手に取って眺めている。どうやら、二人とも気に入ってくれたようで何よりだ。
「さて、他にも色々持ち帰ってきたぞ。これでさらに面白いことができそうだ」
まずは、元の世界から持ち帰った精密加工機を稼働させよう。魔道具2番『魔法充電器』を改造し、精密加工機の電源として使えるように調整する。無事に電源が入り、動作を開始した。
パソコンで設計データを作成すると、その通りに精密加工機が刻んでくれる。さすが30年後の技術だけあって、性能は圧倒的だ。ナノメートル単位での加工が可能になり、魔法陣を細かく刻む作業も簡単にできる。
そのまま俺は、詠法の魔道具の小型化に着手した。作業すること一晩――ついに完成!
魔道具十一番『魔法言語ペンダント』。
首にかけられるほどのコンパクトなサイズに収められたこの魔道具は、俺の独自の詠唱を定義し、自在に扱えるようにするものだ。かつて部屋いっぱいに広がっていた魔道具が、手のひらサイズに収まったのだから、驚異的な小型化と言える。
俺は達成感に満たされ、思わず久々の『俺絶好調ダンス』を踊り出した。
「水を差すようで悪いのじゃが、そこまでして完成させたその魔法言語とやら、一体どんな役に立つのじゃ?」
エルマが少し冷めた目で俺を見ている。
「ふっふっふ。これこそ、俺が生み出した、魔法と科学の融合、『魔科学』とでも呼ぶべき新時代の始まりなのだ!」
俺は自信たっぷりに胸を張る。だが、言葉だけでは伝わらないので実演してみよう。
「まあ、見ててください」
そう言って、俺は古代魔法『輪廻』の魔法陣を顕現させ、『魔法言語』の魔道具とリンクさせる。そして、詠唱を開始した。
「フォー アイ 0 トゥー 100 スウィッチ アイ%4 ケース 0 オアー 1 オアー 2 コール トランスファー ウッドボックス ケース 3 コール トランスファー ベル エンド スリープ0.5 エンド!」
輪廻の魔法陣に、俺の独自詠唱が刻まれていく。
「発動!」
魔力を込めると、魔法陣が眩く輝き、転移の魔法陣が次々に作動する。そして、俺が買い集めた木魚のようなウッドボックスと小さなベルが規則正しく出現し、このような音を立てた。
ポク、ポク、ポク、チーン
ポク、ポク、ポク、チーン
ポク、ポク、ポク、チーン
ポク、ポク、ポク、チーン
……
「大ッ成功ォォォ!」
俺は両手を突き上げ、歓喜の雄叫びを上げた。完璧だ!
詠唱による俺の独自のプログラムが正しく作動し、規則的な繰り返しと条件分岐、そして関数呼び出しが成功したのだ。この偉業、まさに新時代の新たな一歩!
だが、俺の興奮とは対照的に、エルマはどう反応すべきか分からないといった顔をして、呟いた。
「……まさに、紙一重じゃな……」
え、何が?
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