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エンジニアによる異世界革命はじめました〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第一章 開拓編

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三十年後の世界

 気がつくと、俺は元の世界に戻っていた。三十年後の世界に。体が少し重い。倦怠感というか、頭がぼうっとする感じ。まあ、六十五歳ともなれば仕方ない。それでも、まだまだ動けそうだ。

 周囲を見渡すと、ビルの屋上で、見慣れた街並みが広がっている。ここは……国分寺か。詠唱の目的地が『ユーラシア大陸の東方の島国の都』だったので、東京のちょうど真ん中に転送されたようだ。また、障害物にぶつからないように高い建物の上を指定しておいたので、うまくビルの屋上に出た。


 一緒に転送した『限界突破魔力増幅機』はあまりにも巨大で、とても持ち運べそうにない。仕方なく、何とかエレベーターを使って下ろして、深夜に人目につかなそうな場所に穴を掘り、埋めておいた。どうか誰にも見つかりませんように……。


 懐かしいようでいて、どこか違う。三十年という時間の重みを感じながら、俺はゆっくりと歩を進め、周囲の変化を確かめた。

 街並み自体は大きく変わっていないように見えるが、それでも時代の流れは確かに感じられる。


 そういえば、AIが人間の知能を超える『シンギュラリティ』と呼ばれる技術的特異点が、確か2045年頃に訪れると言われていた。今は2050年のはず。実は見た目には分からない大きな変化があるのかもしれない。


 空を見上げれば、ドローンのような機械がひっきりなしに飛び交い、荷物を自動で運んでいる。道路を走る車の運転席には人影がなく、完全自動運転が当たり前になっているようだ。確かに、人間仕事のいくつかはすでに完全にAIに置き換わっている。

 ふと、通り沿いのコンビニに立ち寄ってみた。店内には店員の姿がなく、無人化されていた。どうやら、商品を手に取ってそのまま店を出るだけで、自動的に決済される仕組みらしい。試しにいくつか商品を持って出口に向かったが――


「お客様の決済端末は対応していません」


 扉が閉まり、行く手を阻まれた。どうやら、俺のスマホはこの新しい決済システムには対応していないらしい。仕方なく、セルフレジへ向かい、精算を済ませる。やり方に慣れておらず、時間がかかってしまった。この世界は便利になったのか、それとも不便になったのか――そんなことを考えながら、俺は再び街を歩き出した。


 ひとまず、転送前に持っていた所持金を使い、かつての自宅へ戻ってみることにする。だが、そこにあったはずのアパートはすでに姿を消し、代わりに高層マンションがそびえ立っていた。まあ、三十年も経てば、そりゃあ変わるよな……。

 仕方ないとは思いつつも、自分の居場所が完全になくなったことを実感する。俺は深く息をついた。

 一応実家にも顔を出してみる。もともと母親は他界していたので、家族は父だけだったが、父の方も十年前に亡くなったそうだ。俺、失踪扱いだったんだろうな。父の気持ちを察すると、何とも申し訳ない気持ちになる。

 これで俺はこの世界では天涯孤独の身。前からそれほど人とのつながりを重視する方ではなかったが、さすがに心細さを感じる。六十五歳という年齢のせいもあるかもしれない。


 ひとまずカフェに入り、持ち帰ったノートPCの電源を入れてみる。OSのサポート期間はとうに切れていたが、幸いネットワークには接続できた。さて、精密加工機を買うにはいくら必要だろう……おそらく結構な額になりそうだ。俺はふと、昔のNISA口座を思い出し、久しぶりに確認してみることにした。


「……おおーーーっ!」


 思わず声が出る。カフェの客が驚いてこちらを見た。

 株価は毎年上下を繰り返していたものの、平均すると年間十パーセントほどの利益が出ていたらしい。結果として、俺の資産は三十年間で一億円を超えていた。

 やったー! これで夢のFIREだ!

 一瞬、歓喜に震えたが――すぐに冷静になり、現実を思い出す。……いや、ここでは俺、六十五歳じゃん。定年退職の年齢で資産が一億あっても、それは『老後資金が潤沢なリタイア』だ。これはもうFIREとは言えないなあ……


 ため息をつきながらも、ひとまず資金の心配がなくなったのは朗報だ。

 NISAの資産を現金化するのには少し手間取った。銀行口座は生きていたが、身分証の更新などが必要だった。また、証券を解約して現金が引き出せるようになるまでにも三日ほど必要だ。


 その間に俺は必要なものをリストアップし、購入計画を立てた。そして、資金が手元に入るや否や、すぐに買い出しに向かった。

 まず、最も重要な目的である 精密加工機。これは個人向けの機材ではなく、主に企業や研究機関向けのものだ。そのため価格も高く、 二千万円 ほどかかった。しかし、そもそも俺が元の世界に戻ってきたのはこれを手に入れるためなのだから、ここで出費を渋っても仕方がない。

 次に 最新のパソコンとスマホ。異世界での研究や作業効率を最大化するため、最も高性能なものを選んだ。どちらも俺が異世界にいた間にとんでもなく進化していた。処理能力はもちろんのこと、AIの性能も大幅に向上しており、もはや人間と遜色ないというか、人間以上のレベルの思考力を持つAIアシスタントがスマホに標準装備されている。さすがシンギュラリティ後の時代だ。

 他にも、異世界で役立ちそうな 工具セット、3Dプリンタ、異世界にはない植物の苗や、貴重な素材なども購入した。


「よし、これで準備は万全……かな」


 買い揃えた機材を整理しながら、俺は異世界に帰還することにした。まだ元の世界の変化をもっと見て回りたい気持ちもあったが、長居して帰れなくなったら元も子もない。俺は 無人タクシーを手配し、大量の荷物を積み込んで、帰還場所へと向かった。車内では音声アシスタントが心地よいトーンで目的地の案内をしてくれる。


「目的地の国分寺に到着しました。ご乗車ありがとうございました」


 無人でも何も困ることはない。そういえば、俺が元の世界に来てからこの数日で色々買い物をして回ったが、会話をした相手はほとんどAIだけだった。もちろん人間は街中を歩いているが、一体何の仕事しているのだろう……

 そんな疑問を抱きつつ、数日前に魔力増幅機を埋めた場所へと向かう。そして、周囲に人がいないことを確認し、慎重に掘り進めていく。


「……お、あったな」


 俺が異世界から持ち込んだ魔力増幅機は無事に掘り起こすことができた。さて、異世界に帰還しよう。少し名残惜しいが、必要ならまた来ればいい。

本当の30年後は、どんな世界になっているでしょうね。


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