異世界転移のやりかた
精密加工機が存在する場所に行くことはできないだろうか? ふと思いついて、俺はエルマに尋ねてみた。
「ふむ……つまり、お主の元の世界に戻ることは可能か、という話か?」
「そう。転送の魔法で、一時的に帰ることはできないだろうか?」
エルマは少し考えた後、ゆっくりと答えた。
「可能ではあるが、極めて難しい……と言ったところじゃな」
「どういうこと?」
「まず、お主がこの世界に来たのは、何者かが転送魔法を用いたからじゃろう。転送魔法で来られる、ということは、戻ることも可能じゃ」
言われてみればそうだ。俺がこの世界に来るきっかけとなったスーツの男の魔法陣。思い出せばあれは確かに転送魔法だった。
「じゃあ、難しいっていうのは?」
「転送魔法に必要な魔力の量は、転送する距離と対象の大きさによって大きく異なる。例えば、大陸内の転送ならば、今のお主ならできるじゃろう。しかし、大陸外への転送ともなれば、より膨大な魔力が必要になる。そして、お主の元の世界へ戻るとなると、それはさらに上……惑星間転送に相当する魔力が必要になるのじゃ」
エルマは厳かに続ける。
「惑星間転送には、ヒトの限界値を超えた魔力量が求められる。お主のクラスがヒトである以上、それを成し遂げるのは不可能なのじゃ」
俺は思わず息をのんだ。ヒトでは超えられない壁。俺は自分の手を見つめる。どれだけ努力を重ねても、どうにもならない領域があるというのか。
「じゃあ、師匠でも無理なのか?」
俺は少しの希望を込めて尋ねたが、エルマはあっさりと首を横に振った。
「まあ、このままでは無理じゃな」
「師匠は俺よりずっと強いけど、やっぱりヒトでは無理なんだな」
「そうじゃ。ちなみに、儂のクラスはヒトではない。『仙人』じゃ」
「……えっ?」
思わず師匠の顔を二度見した。いや、師匠って、確かにどこか浮世離れしてるとは思ってたけど……まさか仙人だったとは……
「ふむ、まあ、お主に言ってなかったかのう」
エルマは些細なことであるかのように言う。仙人ならば、俺とは比べ物にならないほどの魔力を持っているはず。それでも、惑星間転送は不可能なのか。
「つまり、仙人クラスの魔力を持っていても、元の世界への転送は難しいんだな?」
「そういうことじゃ。このままでは、じゃがの」
俺は思わずため息をついた。そうなると、俺たちをこの世界に呼び寄せた、あのスーツの男、彼は一体、何者なんだ?
俺は諦めずにさらに質問してみる。
「このままでは、ってことは、何か方法があるのか?」
待ってましたとばかりにエルマは頷いた。
「まず一つ目の方法は、仙人のさらに上のランクに上がることじゃ。例えば、魔王……もしくは、低ランクでも良いが、神じゃな」
「神!? 魔王とか神とか、そんな簡単にランクアップできるものなのか?」
俺の問いに、エルマは小さく笑った。
「簡単なわけがなかろう。ランクを上げるためには、いくつかの条件を満たさねばならん。そのひとつは……対象のランクの存在を倒すか、従えることじゃ」
「……え?」
つまり、魔王になるには魔王を倒すか、従えなければならないのか。それができるなら、もうとっくに魔王並みの力を備えているということになる。俺は思わず頭を抱えた。
「まあ、聞くのじゃ。そして、もう一つの方法、それは限界突破じゃ」
「限界突破?」
「うむ、ヒトの能力の上限値を一時的にかさ上げすることじゃな」
おっと、そんなチートな方法があるのか。だったら最初から言ってくれれば……。俺はその方法をさらに聞いてみた。
「限界突破の魔法を重ねがけするのじゃ。ヒトが惑星間転送に必要な魔力を確保するには、少なくとも十回は重ねねばならん」
エルマは腕を組みながら言った。
「限界突破の魔法は非常に高度な魔法じゃ。これを施せる国家に1人いるかいないかくらいの屈指の魔法使いを十人集める必要がある。まあ、儂のような天才賢者ならば、多重詠唱を駆使して三人いれば可能じゃがな」
「……いやいや、師匠レベルの三人をどうやって集めるんだよ」
俺は即座にツッコんだ。国家レベルの魔法使いを10人、または生きる伝説レベルの賢者を三人も揃えるなんて、もはや夢物語じゃないか。だが、そこで俺はふと考えた。
「複数の魔法使いが協力すれば可能なら、魔道具でもできるんじゃないか?」
「……ほう?」
エルマの目がわずかに輝く。
「確かに、限界突破の魔道具を十台用意できれば、理論上は可能かもしれんのう。しかし、それらの魔道具を完全に連携させ、同時に動作させねばならん。それは至難の業……いや、それはお主の得意分野じゃったな」
エルマの言葉に、俺は不敵に笑った。
「なるほど、そういうことか。だったら、やってみるしかないな」
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