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エンジニアによる異世界革命はじめました〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第一章 開拓編

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聖女の浄化と魂の洗濯

 レイアに事情を説明すると、今回も彼女は快く引き受けてくれた。


「もちろん、私の浄化の力がお役に立つなら、喜んで協力します」


 その姿に、ミーアの目がキラキラと輝く。


「レイアお姉ちゃん、ありがとうございます! ラドンの皆さんはきっと大喜びですよ!」


 レイアはそんなミーアの様子を見て微笑んでいたが、ふとエルマの存在に気づいて視線を移した。


「ああ、そうだ。紹介しておくよ。俺の師匠、エルマだ」

「ほほう、これが異世界から来た聖女様か。確かに神聖な力を感じる。儂はエルマ、賢者じゃ」

「賢者のお姉ちゃんはとっても物知りで、すごく強いんですよ!」

「うむ。何せ年季が違うからのう」


 レイアはそれを聞いて驚いている。


「賢者様ですか……まさか本物にお会いできるなんて……」


 そして、少し羨ましそうに続けた。


「そちらはどんどん賑やかになっていきますね。イザベル村への旅も大好評だって聞いています。あんなに食べ物が美味しいなら、そうでしょうね」


 レイアの目が少し寂しげに揺れた。


「レイア、どうかしたのか?」

「……それに比べて、こちらの状況はどんどん悪くなっています。魔王に対抗するために、軍事力を強化しなければならないと、税金は高くなる一で、国民の暮らしも厳しくなってきていますし、戦いで怪我をして戻ってくる人たちもたくさんいるんです。なんだか最近は、元の世界の紛争地域を思い出しちゃいました……」


 その言葉は重かった。そういえば彼女は、元の世界で救えなかった命を悔やんで、この世界に来たのだった。俺にとってこの世界の戦争は正直まだ現実味が薄いのだが、彼女にとってはそうではないのだろう。


「私は、この世界で同じ失敗はしたくないんです。助けられる人は全員、助けます。それが私の使命だと信じていますから」


   ◇ ◇ ◇


 俺たちはレイアを連れて、再びラードーン遺跡の入り口あたりまで移動した。未だにヒュドラの毒が辺り一面に充満しており、腐食した地面が黒く染まっている。

 レイアはその場に立ち、両手をゆっくりと広げた。彼女の背後に光の輪が差し込んだように見える。


「神々のおわす天の頂より、あらゆる汚れを祓い清める聖なる光」


 その声は透明で澄み渡っていて、神聖な祈りのようだった。


浄化(ピューリファイ)


 その言葉と共に、彼女の周りから眩いばかりの光が放たれた。黒く染まった地面を一瞬にして包み込み、消し去っていった。みるみるうちに空気が澄み渡り、清涼感を感じ始められる。

 レイアの浄化の力は、あらゆる汚れを祓う奇跡だ。清らかな水が流れ始め、やがて、黒く濁っていたラドンの泉の源泉も、透き通った輝きを取り戻した。


「これが、聖女の力か。さすがじゃな」


 隣でエルマも感嘆の声を漏らす。


「上手くいったみたい。これで、この地の毒は完全に浄化されました。もう、誰も苦しむことはないでしょう」


 レイアはにっこりと微笑んだ。ミーアが目を輝かせて拍手をしている。


「レイアお姉ちゃん、本当にすごいです!」


 俺も感謝の言葉を述べる。


「ありがとう、レイア。君のおかげで、ラドンの村の人々は元の生活を取り戻せる」

「私の力が役立って良かった。聖女、聖女って、みんな特別扱いしてくれるけど、実際この浄化の力が役に立つことってそんなにないのよね」


 謙遜しながらも、レイアは嬉しそうに微笑んだ。彼女の微笑みは、純粋で温かい。


「さて、ラドンの村も新たな始まりを迎えることができるじゃろう。戻るぞ、今度こそ真の温泉玉子を作るじゃ!」


 エルマの掛け声と共に、俺たちはラドンの集落へと戻った。集落でも歓声が響いている。人々が泉の変化に気づき、喜びと驚きの声を上げているのだ。浄化されたラドンの泉は、透明で美しい湯気を立ち上らせ、かつての毒々しさは跡形もなく消えていた。

 せっかく毒がなくなったのだから、この泉を堪能しない手はない。様々な温泉を巡ってきた俺の直感が告げている。これは、最高の温泉だ。

 湯に足を浸けた瞬間、ぬるりとした滑らかさが肌に心地よい。思わずため息が漏れる。


「おっ、これは……素晴らしい」


 温泉の成分が肌に馴染み、全身が包まれる感覚。筋肉をほぐし、疲労がじわじわと溶けていく。まるで体の芯から癒されるようだ。俺は湯に浸かりながら、静かに目を閉じた。これは、最高のご褒美だ。


 その日の夜、ラドンの人々は、俺たちとレイアに感謝の意を込めて、盛大な宴を開いてくれた。集会場には村人たちが集まり、温かな笑顔とともに拍手が湧き起こる。煌々と照らされたランタンの下、長い宴のテーブルには様々な山の幸が並べられていた。


「英雄様、聖女様、蛇姫様、賢者様、この地を救ってくれてありがとうさー。皆さんの功績は末代まで語り継がせていただくさー!」


 村長のサードンが声を張り上げると、村人たちの歓声が重なった。おおっ、この地にも建ってしまうかもしれない、スタチュー・オブ・リバティが。


「温泉、とっても気持ちよかったです。元の世界を思い出しました」


 レイアは頬をほんのりと赤らめ、心からリラックスしている様子だ。温泉はまさに心の洗濯だ。


「温泉が蘇ったのも皆さんのおかげさー。ささ、存分に食べていってください」


 貧しいながらも俺たちのために振る舞ってくれた料理。どれも素朴でありながら、心のこもった味わいだった。後でイザベル村から海産物をたくさん持ってきてお返ししよう。


「ラドンの村はこれから新たな温泉地として栄えるじゃろうな」


 エルマも上機嫌で杯を傾けている。


「トオルさんも、ここに来れたらいいのにね」


 不意に、レイアが呟いた。そういえば、転移組同期の彼には最近会っていない。


「トオルさんは最近どうしてるんだ?」


 俺が尋ねると、レイアは少し寂しそうに目を伏せた。


「戦いばかりみたいよ。魔王軍と戦ったり、周辺諸国に攻め入ったりもしてるみたい。皇帝の命令でね」


 レイアの言葉には、どこか影が差していた。


「でも……トオルさんも、全部納得しているわけじゃないみたい。皇帝とは意見が合わないことも多くて、あまりうまく行ってないって。だからサリオン帝国にもあまり帰ってこないの」


「そうか……」


 俺は思わずため息をついた。あのトオルが、そんな状況に置かれているとは。


「温泉にでも入れたら、少しはリフレッシュできるのにね」


 レイアが温かい笑みを浮かべる。確かに。この温泉には、他にはない特別な癒しがある。嫌なことも全部忘れられそうだ。

 そこで俺は一つ良いアイデアを思いつき、村長に提案することにした。


「サードンさん、イザベル村と提携しませんか? イザベル村には多くの観光客が訪れています。もし提携すれば、このラドンの集落にも観光客を呼び込めると思いますよ」

「それはありがたい話だが……イザベル村とはかなり距離が離れているさー。こんな遠くまで観光客が来てくれるかどうか……」


 サードンは首をかしげ、不安そうな表情を浮かべる。


「心配いりません。俺には秘策がありますから」


 俺は自信満々に笑って見せた。

温泉は、いいよね。


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