最強の毒コンビと詠法の魔法
咄嗟に転送の魔法陣を操作し、魔法サーキュラーソーを出現させる。超高速で回転する円形ノコギリが、ヒュドラの首を切り裂いた。これでまた一本首が増えてしまう。だが、この状況では仕方がないだろう。だが、その時、
『石化邪眼!』
ミーアが素早く反応し、石化光線をヒュドラの首の切断面に浴びせた。
カッチカチ。
みるみるうちに切断面が灰色に変色し、石化していく。鱗のない切断面には石化が有効だったのだ。石化した切断面からは、首が再生してこない。もっと早く気づくべきだった。
「お兄ちゃん、これなら、やれるかもしれません!」
俺はその言葉にうなずいた。
「ミーア、偉いぞ! 同じように一本ずつ首を切り落として、石化させていこう!」
俺は転送の魔法陣を操作して、同様に魔法サーキュラーソーでヒュドラの首を切断し、同時にミーアは石化光線を浴びる。一本、また一本と、ヒュドラの首を減らして行った。
「これで終わりだ!」
最後の一本も切断し、ミーアが石化邪眼を浴びせる。すべての首の切断面を石化させ、しばらくすると、ヒュドラはついに完全に動かなくなった。
「お兄ちゃん、やりましたね! ヒュドラさん、ごめんなさい……」
俺も安堵の息を吐いた。
「よし、これでラードーン遺跡へ進めるぞ。まずはひと休み……って、ミーア?」
何やらミーアがもじもじと落ち着かない様子だ。顔を赤らめて、目を泳がせている。
「お兄ちゃん、すみません。この蛇さんも、食べなきゃいけない気がします」
……そうか。ミーアは蛇系統の魔物を食べることでその力を取り込むことができるのだった。でも、この究極の毒蛇を食べるのは相当勇気が要るだろうなぁ。でも仕方がない。
「じゃあ、クッキングタイムだ!」
俺は比較的食べやすそうな尻尾の部分を切り落とすことにした。魔道具サーキュラーソーを転送して、尻尾を切断しようとする。
――ガキンッ!
「ん?」
刃が何かにぶつかり、跳ね返った。固い。まるで金属のような感触だ。
「骨か……? いや、これは……」
尻尾の中から何かが出てきた。それは、不思議な光を放つ剣だった。
「ヤマタノオロチみたいな蛇の尻尾から出てきた剣って、草薙の剣?」
ただの剣ではなさそうだ。ひとまず持ち帰ろう。剣を大切にしまい込み、改めて尻尾の部分を調理する。適当な大きさに切り分け、食べやすいように火を通す。
「はい、ミーア、召し上がれ」
「いただきます!」
ミーアがそれを口に入れた次の瞬間、ミーアの姿が変わり、ヒュドラモードになった。同時にミーアはヒュドラの毒霧の能力も手に入れた。黒く輝くそのその姿は、毒の女王のように神々しかった。
ーーレベル五十五になりました。
ーー毒無効の加護が、毒無効(大)になりました。
[名前] リバティ・クロキ・フリーダム
[レベル] 55
[クラス] ヒト
[職業] 魔道具師
[体力] 440/440
[魔力] 360/360
[加護] 毒無効(大)
[魔法] 小火炎 転送
[特技] 魔法陣操作
同時に状態音声ナビが俺の成長を告げる。ヒュドラを倒したことでレベルが一つ上がり、さらに強烈な毒霧に晒され続けたことで、毒無効の加護が進化した。今まで防ぎきれなかった酸などの毒に付随する物理的なダメージも、受け付けなくなったようだ。俺とミーアはもう最強の毒コンビだ。
しかし、ヒュドラを倒しても毒霧はすぐには晴れなかった。長年この地を汚染し続けた毒が、大地に深く染み込んでしまっているのだ。俺とミーアにとってはこの毒霧はもはやただの空気と変わらないが、エルマや他の人間がここに来るのはまだ厳しいだろう。そこで俺とミーアはそのまま、ラードーン古代遺跡に足を踏み入れることにした。
山頂のカルデラに、古代遺跡の入り口がひっそりと佇んでいた。周囲の大地は毒霧によって溶け、異様な光景が広がっているが、幸いなことに遺跡の中はその影響を受けていなかった。遺跡を構成する不思議な金属は、前回の遺跡のものと同じで、強酸にも溶けることのない物質のようだ。
俺たちはそのまま遺跡の内部へと足を踏み入れた。先に進むと前回と同じように複数の守護者が現れ、赤い目を輝かせながらこちらに向かってくる。しかし、
「すみません、ちょっと固まっていてください」
ミーアが邪眼を一閃。石化光線を浴びた守護者たちは、次々に石像と化していった。ミーアが強すぎて、遺跡の防衛システムはもはや敵にならない。俺たちは、固まった守護者たちを後にして、古代遺跡の奥へと進んでいった。
そして、巨大な扉が目の前に立ちはだかった。百の頭を持つ竜の精密な彫刻が扉全体を覆っている。
「ここが最深部みたいだな」
俺は緊張感を持って扉に触れると、それは簡単に開いた。その先に広がる空間の中心に台座があり、ひとつのキューブが浮かんでいた。
「おそらくこれが、古代の叡智……」
俺は手を伸ばし、キューブに触れた。瞬間、脳内に強烈なイメージが流れ込んでくる。無数の線と点が繋がり、複雑な幾何学模様を描いていく。おそらくこれがエルマの言っていた『詠法』の魔法陣……
「お兄ちゃん、大丈夫ですか?」
「……ああ、大丈夫だ。これで、『詠法』の魔法陣が頭に刻み込まれた」
無事に目的を達成した俺たちは、遺跡を後にし、ラドンの集落へと向かった。
◇ ◇ ◇
「なんと、ヒュドラを倒し、その力を得た上に、『詠法』の魔法陣まで刻み込んできたのか。上出来じゃ。さすがは儂の弟子、と褒めてやろう」
エルマは満足げに俺の肩をポンと叩いた。エルマに褒められるのは珍しいことだ。思わず顔が緩んでしまう。
「これも師匠の指導のおかげだよ」
「またまた、見え透いた社交辞令の定型文じゃな。その調子で……じゃが調子には乗らず、これからも励むのじゃ」
そして、ラドンの集落の人々にヒュドラを倒したことを伝えると、彼らは歓喜に沸いた。
「ヒュドラを倒してくれたなんて、まるで伝説の英雄みたいさー!」
俺は少し照れくさくなりながらも、ふと視線を山頂の方に向ける。ヒュドラを倒したとはいえ、長年に渡って毒に侵されたこの地が完全に浄化されるには、まだまだ時間がかかるだろう。以前のように美しい自然を取り戻すためには、もっと強力な浄化の力が必要だ。
「浄化、か……」
俺の脳裏に一人の人物が浮かぶ。転移組の同期の聖女、レイアなら、浄化の力で自然を癒し、ラドンの泉を本来の姿に戻すことができるかもしれない。
「師匠、ミーア、サリオン帝国の聖女レイアのところに行こうと思う。彼女ならこの地をすぐに浄化できるかもしれない」
「わわわ、レイアお姉ちゃんですね! 私も会いたいです!」
「ほう、聖女とな。なるほどのう。確かに、聖女なら浄化はお手の物じゃろうな」
そうと決まれば、俺たちは早速、魔法車でサリオン帝国のレイアの医院へと向かうことにした。
やっぱり困った時は、聖女ですよね。
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