イザベル観光ツアー
あれから半年が経過したが、新しい魔法習得の修行はまだ道半ばだった。最も簡単な小火炎の習得に半年も要した俺に、そう簡単に新しい魔法の習得ができるとは思っていない。焦ることはない。少しずつ前進している実感はある。
ーーレベルが50になりました。
そしてこの期間で、俺のレベルは50に達した。今も稼働しているスライムホイホイのおかげだ。寝ていてもレベルが上がるシステムは本当に素晴らしい。
[名前] リバティ・クロキ・フリーダム
[レベル] 50
[クラス] ヒト
[職業] 魔道具師
[体力] 400/400
[魔力] 320/320
[魔法] 小火炎 転送
[加護] 毒無効
また、エルマとの修行を続ける傍ら、魔道具の開発も手を抜かずに進めてきた。これまでは、持ち運びに便利で簡単に使える魔道具を中心に開発してきたが、転送の魔法を習得したことで、大きな装置も俺の工房から必要な時に転送して使えるようになった。これからは、より強力で大きな魔道具の開発にも挑戦しようと思っている。
だが、新しい魔道具を開発するためには、やはり先立つものが必要だ。そこで、そろそろ再びあれを集め始めようと思う。そう、俺にとっては命より大切な『お金』だ。今のイザベル村には、豊かで珍しい海産物や栽培したイモ、他にも様々なものがある。これらをうまく流通できれば稼ぐことができるかもしれない。
流通の問題を解決できる男といえば、ハルトが頭に浮かぶ。再び彼に頼んでみるのが最適な気がする。
俺は魔道車を走らせてサリオン帝国へ向かった。俺がサリオン帝国を去ってからもう二年半が経過している。その間、ハルトの商会は目覚ましい成長を遂げ、この国で最も大きな商会へと発展していた。商会のトップであるハルトは、今や俺が簡単に会えるような存在ではなくなっているのではないかと不安がよぎる。だが、商会に到着し、ハルトへの面会をお願いすると、彼は以前と変わらず温かく迎えてくれた。
「リバティさん、お久しぶりです。お元気ですか? こちらを去られたことはレイアさんから聞いていました。私が事前に魔道具の税金に関する情報を調べていれば、あんなことにはならなかったかもしれません。申し訳ありませんでした」
相変わらずハルトは誰に対しても腰が低く、丁寧な対応をしてくれる。その姿勢に、改めて感心する。あれだけ大きな商会を取り仕切っているというのに、どこまでも謙虚だ。素晴らしい人物だなと、しみじみ感じる。本当に偉い人物は偉そうに見えない、というのは本当だ。逆に偉そうに見える人物は小物なのだろう、と思ったところで、ふとある皇帝の顔が頭をよぎる。
「いやいや、ハルトさんは悪くない。それより、見て欲しいものがあるんだ」
軽く答えて、俺はイザベル村で取れた海産物、ポテチなどを見せた。ハルトは驚き、興味深そうにそれらを眺める。
「イザベルは不毛の土地と聞いていましたが、これはまた素晴らしい食材ですね。私個人的にも大量に買いたいくらいです。しかし、国外からの輸入となると、この国ではまた多くの関税がかかってしまうのです。頑張って流通させても利益のほとんどは持っていかれてしまうでしょう」
そういえば、ここが重税大国だったことを俺も思い出した。ハルトは少し思案して答えた。
「イザベル村へのツアーを組む、というのはどうでしょうか? 近場ですし、イザベル村に対しては皆良くも悪くもミステリアスな印象を持っています。このような素晴らしい食べ物があるなら、きっと良い旅先になることでしょう。それに、旅の途中でツアー客が買い物をしても、今の法律ではサリオン帝国の税金はかかりません」
確かにそれはお互いに良いかも知れない。俺は早速イザベルツアーの準備に取り掛かった。
今のイザベル村にあるのは、海産物とイモだけではない。他にも多くの新しい発展がある。エルマの指導のもと、村の農業も大きく変わった。お茶の葉を始めとする新しい作物の栽培と、酪農が始まり、生クリームやチーズなどの乳製品も作られるようになった。そして、ナノンは村の食堂を増築してケーキ屋をオープンし、エルマから作り方を教わったケーキを販売している。その美味しさは評判を呼び、村にとって新たな魅力となっていた。
また、ダノンの兄であるダガンは、石化から戻ってからというもの、その薬師としての腕を活かして、質の高い薬を扱う薬屋を再開。村の人々はもちろん、近隣からもその評判を聞きつけて人が訪れるようになった。
加えて、元々海岸沿いにあったイザベル村は、海岸の整備が進み、海水浴が楽しめるビーチも新たに設けられた。リゾート地としての魅力も加わり、村の活気が一層増している。俺が来てからの数年で、イザベル村は大きな成長を遂げ、生活に困窮していた以前の面影はなくなり、希望に満ちた活気ある村に生まれ変わっていた。これなら、多くの観光客を見込めるに違いない。
『面白いかも!』『続きを読んでやってもいい!』と思った方は、ブックマーク登録や↓の『いいね』と『★★★★★』を入れていただけると、続きの執筆の励みになります!




