年齢不詳の賢者に弟子入り
古代遺跡から無事に戻った俺たちは、イザベル村の食堂で一息ついていた。この食堂では、ダノンさんの孫のナノンがお手伝いをしている。
「この村の名物だよ。さ、食べて」
テーブルには、新鮮な海産物が並んでいる。エビ、カニ、イカ、タコの浜焼きに、フライドポテト、ポテトチップス。
「おお、そうそう、こうやって優雅な午後のひと時を過ごすのが至福の楽しみ……って、昼間っから居酒屋かーい! 酒の肴みたいなのばっかじゃぁー」
エルマがタコの大きな足をもぐもぐしながら叫んでいる。
「違うんじゃあ。儂が今求めているのはアフターヌーンティーじゃ。ティーとケーキなんじゃあ!」
そう言われても、この村には海産物とイモしかない。もうちょっと前なんて、野草くらいしか食べるのものがなかったというのに。
「賢者のお姉ちゃん、このお料理、美味しいですよ」
ミーアはにこやかに言うが、エルマはタコの足を口からはみ出させながら不満げな顔をしている。
「まあ、見た目の割には確かに美味しいんじゃが……しかし、なんというか、エレガントさがないのう。オシャレなスイーツ的なものはないのか?」
スイーツ……ケーキの材料、となると小麦粉だ。最近、村で麦の栽培を始めたので、麦は手に入るが、ケーキを作ったことはない。
「ないなら儂が作ってやるぞ。何せ、賢い者と書いて賢者じゃ。ケーキの作り方くらい心得ておるわ。ほれ、そこの店員、手伝ってくれ」
「えっ、私、なの?」
ナノンが驚きつつも、エルマに無理やり巻き込まれてケーキ作りが始まった。エルマが指示を出しながら、麦を引いて小麦粉を作り、卵と砂糖と油を混ぜていく。焼き上げるとシフォンケーキの完成だ。ふわっとした香りが店内に広がる。
「わあ、ふわふわで美味しそうなの!」
ナノンが驚きながらも笑顔で言った。エルマも得意げに頷く。
「じゃろ? 儂の午後にはこういうエレガントな食べ物こそふさわしい。さて、このケーキに合う飲み物はないのかのう?」
「蒸留装置で作った焼酎ならあるけどーー」
「じゃから昼間っから居酒屋かーい!」
エルマのツッコミがこだました。
ティーはなかったので、代わりにその辺に生えていたタンポポを煎じて一息ついてもらった。ひとまずこれでエルマも満足できたようで、自分のことについて話し始めた。
エルマは魔法について類稀なる才能を持って生まれ、若干十五歳にして古代魔法を再発見、使いこなすことに成功した。その力を使って自らの肉体の時間を十五歳のまま止め、若さを保っているというのだ。ということは、実際の年齢はどのくらいなのだろう……怖くて聞けない。
そして彼女はこれまで、世界中の古代遺跡を巡り、失われた技術を集めてきた。一方で、神々の一部はその古代技術が完全に失われることを望んでおり、遺跡を封印して回っていた。エルマと神は、偶然にもイザベルの遺跡で鉢合わせし、石にされてしまったらしい。
「ところで、イザベルの古代遺跡で、こんな魔法陣を見たんだ。これ、何かわかる?」
俺は、遺跡で脳内に刻まれた魔法陣を再現してみた。すぐにはうまくできないが、自分の魔力を使ってその形に近いものを浮かび上がらせる。
「ほう、そなたもウロボロス古代遺跡の叡智に触れたのか」
と、エルマは驚きながら言った。
「その魔法陣は、古代魔法の一つ『輪廻』じゃ」
「輪廻?」
「そう、儂もその魔法陣を得た直後に封印されてしまったゆえ、まだ完全に使いこなすには至っておらんが、輪廻の魔法陣には物事を循環させる力があると言われておる」
「循環……か」
「まあ、派手な魔法ではないが、上手く使えば非常に役立つはずじゃ」
そして俺はもう一つ、気になっていたことを尋ねた。
「そもそも、古代魔法って、何なんだ?」
エルマは少し考えた後、ゆっくりと答えた。
「一言で言えば、『時空を操る魔法』じゃな。古代の一部の者たちはその力を行使することができた。しかし、あまりにもその力が強大であったため、秩序を重んじる神々によってそれらのほとんどは隠ぺいされたのじゃ。残された一部が、今お前たちが知っている魔法に繋がっている」
そういうことならつまり、俺が使える魔法も、古代魔法の一部ってことになる。
「じゃあ、他の古代魔法は、魔道具師である俺にも使えるものなのか?」
俺は期待を込めてエルマに聞いてみた。
「ふむ、訓練すれば使えるかもしれんな。ただし、習得の難易度は普通の魔法とは比べ物にならんほど難しい。そう簡単には使いこなせんぞ」
その言葉を聞いて、少し気持ちは怯んだが、俺はこれまでの戦いを思い出した。バジリスクや遺跡の守護者との激闘。あの戦いで、俺はもっと強くならなければならないことを痛感していた。
「頼む、エルマ、俺に古代魔法を教えてくれ」
エルマはしばらく俺を見つめた後に言った。
「つまり、儂に弟子入りするということか。まあ、神の呪いから救ってもらった恩人でもあるし、むげに断るのも気が引ける。いいじゃろう、超特大サービスじゃ。教えてやるとしよう」
「師匠、お願いします!」
こうして、俺は賢者エルマに弟子入りすることになった。
お茶目な賢者との修行の日々が始まります。
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