賢者エルマと古代魔法
遺跡の中を進み続けていると、しばらくして一つの石像が目に入った。その姿は十四、五歳くらいの女の子に見える。おそらく呪いによって石にされてしまった人間なのだろう。後でミーアに戻してもらおうと思いつつ、ここは先に進むことにした。
ズシーン、ズシーン――
するとまた聞き覚えのある重い音が聴こえる。今度は複数だ。すると間も無く、目の前に三体の守護者が現れた。なんということだ。一体でも手強いのに、今度は三体か……。
俺の存在を確認すると、それぞれの守護者が俺に向けて赤い視線を向けてくる。おそらくあの熱線が来る……だが、三体同時の攻撃、どう避ければいい?
俺が身構えたその時、
カッチカチ。
突然、守護者たちの体が石に変わり、動かなくなった。
「お兄ちゃん、無事でよかった!」
その声と共に、バジリスクモードに変身したミーアが現れた。彼女は石化邪眼の力で守護者たちをすべて石にしてしまったようだ。
「ミーアこそ無事で安心したよ」
言ってはみたものの、明らかに俺よりミーアの方が強い……我が妹ながら、恐ろしいほどの力を持っている。
「そうだ、ミーア、これを見てくれ」
そこで俺は思い出し、先ほどの少女の石像をミーアに見せた。彼女は驚きの表情を浮かべた。
「わわわ、このお姉ちゃんも石にされちゃったのかな。かわいそう」
「ミーア、君のバジリスクの変身能力で、石化を解除できるようになっただろ? この石像も戻せるかな?」
ミーアは少し考えてから、頷いた。
「うーん、わからないけど、やってみるね」
ミーアが石像をじっと見つめる。
『石化解除』
その瞬間、石化が解け、少女が蘇った。彼女は変化に戸惑っている様子で、しばらく自分の手足をじっと見つめていたが、やがてこちらに気づき、驚きの表情を浮かべた。
「おお、もしや、そなたらが助けてくれたのか? まずは礼を言わねばならんな」
彼女の声は落ち着いていて、年齢に似合わない威厳があった。その瞳はサファイヤのような青で、深い輝きを放ち、肩まで流れる銀色の髪は、月光のように淡く輝いている。彼女の服装は、落ち着いた淡い緑と青のローブで、気品を漂わせていた。
「儂の名は、エルマ・フェリル。賢者じゃ」
その言葉には、彼女の外見からは想像もできないほどの重みが感じられる。ただの少女ではない。
「俺はリバティ。魔道具師だ。それと、こっちはミーア」
「ふむ、シン人と巳人の子供か。だが……お主の中身は子供ではなさそうじゃな」
エルマは、俺たちをじっと見つめて言った。その眼差しに、一瞬で全てを見透かされたような気がして、身が引き締まる感覚があった。それと、『シン人』ってなんだっけ……
「それにしてもあの神め。自分の都合だけで、この儂を封印しおって。石になって65年後というところかのう」
エルマは怒りを滲ませ、不満そうに呟いた。どうやら神の怒りを買った賢者というのは彼女に間違いなさそうだ。今のところ、あまり悪い人物には見えないが……
「石化していた時間が分かるなんて、まさか、石になっている間、ひたすら秒数を数え続けていたとか?」
「いや、脳内BGMの再生回数じゃ。数を数えるだけではつまらんじゃろう?」
……まあ、確かに。
「それにしても、言い伝えでは神の怒りを買ったと聞いているんだけど、何をしたんだ?」
俺が尋ねると、エルマは軽く肩をすくめて答えた。
「まあ、その話をすると長くなる。ここで長話するのもなんじゃ。どうせ話すなら、ほれ、美味しいお茶とお菓子でも欲しいのう。まずはここを出るぞ」
エルマに促され、俺たちは遺跡から出ることにした。さらに上へ上へと進み、最初に俺が落下した洞窟の崖の辺りまで来たが、そこにはもう橋がなく、渡ることができそうにない。
「これって、俺たちもう二度と出られなかったりしないか?」
しかし、エルマは何事もなさそうに、前に歩みを進めた。
「特別に、儂の古代魔法を見せてやろう」
エルマが無詠唱で、見たこともない魔法陣をいくつも浮かび上がらせた。魔法陣は、空間そのものを歪めるように、ぐにゃりと曲がり始めた。遥か遠くに見えた崖の向こう側が徐々に近づき、目の前に現れた。
「空間湾曲じゃ。ほれ、いくぞ」
エルマは軽々と飛び越えて、崖の向こう側に着地した。俺たちもその後を追った。
「解除!」
エルマが魔法を解除すると、空間の歪みは元に戻り、崖の向こう側との距離が元通りになる。エルマが難なく使った古代魔法を目の当たりにして、俺はその力に圧倒されたのだった。
重要人物エルマの登場です。
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