共闘の提案
どうやら丑人たちとの衝突は、避けて通れなさそうだ。だがふと、一方的に亥人に肩入れして良いものか、という疑問も浮かんだ。
「……魔王モレクの目的は何なんだ? なぜ鉱山を占拠したんだ?」
俺の問いにグリンは拳を握り、唸るように答えた。
「難しい話じゃねえ。オレら亥人の領土を、じわじわ削るつもりなんだ。鉱山だけじゃねえ。狩場、水源……必要な場所を、徐々に押さえながら進行してやがる。いずれは、このホグフォードまで攻め込むつもりだろうよ。その頃には、オレらは干上がってるかもしれねえな」
「……亥人の征服が目的ってことか?」
グリンは頷いたが、少し言葉を濁すように付け加えた。
「だが、オレらを支配下におきたいとか、そういうことじゃねえんだ。奴の本当の目的は――生贄だ」
「生贄……?」
「モレクは命を消費して自分の力に変える。……つまり、奴にとっちゃ、自分以外の生物すべてが力の燃料ってわけだ。人だけじゃねえ。巨獣や竜でさえ、奴に取っては例外じゃねえ」
その言葉で場の温度が下がったように感じた。
「わわわ……生命を薪にして、己に焚べる存在……。それは、まさに恐怖の魔王ですね……」
ミーアは身を縮めながらも、その声には恐怖と好奇が入り混じった響きがある。
「同族以外を顧みない魔王は、別に珍しくないにゃん。でも……同族まで平然と生贄に捧げるのは、さすがにご主人様にも匹敵する非道と言わざるをえないにゃん」
なぜか俺が比較対象に引きずり出されたが、そこは黙殺した。
ここまで聞かされてしまうと、もはや他種族の問題と看過することもできない。
そして、俺たちが次に目指すのは、革新魔法を宿すティアマト古代遺跡。そこは今まさに、丑人たちの厳重な警戒下に置かれている場所だった。
俺はグリンと視線を交わし、短く切り出す。
「――共闘の提案だ」
こちらの狙いは、丑人の目を掻い潜り、ティアマト古代遺跡へ侵入すること。
一方グリンの目的は、奪われた鉱山の奪還。
そして幸いにも、鉱山と古代遺跡は地理的に近い。
「……だから、同時に動いて、合流する」
鉱山で大きな騒ぎを起こせば、遺跡を守る丑人たちは戦力を割かざるを得ない。
その隙を突き、俺たちは遺跡へ滑り込む。
役割分担としては、俺とエルマが、古代遺跡へ。
リリィ、メリー、ミーアはグリンに加勢し、鉱山奪還に協力する。
三人の魔王を相手にすれば、さすがにモレクも苦しいに違いない。
遺跡では無駄な戦いは避ける。
俺が古代の叡智に触れさえすれば、それで十分だ。
迅速に目的を果たし、その後は、鉱山側へ合流すればいい。
……戦力差を冷静に考えれば、正直なところ、モレクには少し気の毒なくらいだ。
俺は戦いに備え、数日をかけて錆びた鉄を還元して鍛え直した武器をさらに用意した。
そして、武装した亥人の軍団を整えた俺たちは丑人の縄張りへ向かった。
◇ ◇ ◇
丑人たちは――とにかく、でかかった。
亥人も十分に巨体だが、丑人はそのさらに上をいく。
俺の身長など、小さめの丑人のせいぜい腰の高さ。亥人でさえ、並べば子供に見えるほどだ。
ミノタウロスとも呼ばれる、丑人は、牛の頭部に、岩のような筋肉を纏った上半身。
太い首、盛り上がった肩、そして足先には地面を踏み砕く蹄。
まさに異形の巨人。
俺たちはできるだけ音を立てずに鉱山に近づいたつもりだったが、さすがに手前で気づかれた。
重い足音とともに、丑人たちが次々と集まってくる。
「オレぁ、金色の豪鬼|、グリン・ブルスティ! この山を――返してもらいに来た!」
グリンは臆すこともなく、高々と名乗りを上げ、三又の槍を振り上げる。
次の瞬間。強烈な踏み込みと、突撃。
自分よりも大きな丑人を、正面から軽々と吹き飛ばした。
岩が転がるような音を立てて、巨体が宙を舞う。
――始まった。
『面白いかも!』『続きが気になる』と思った方、ブックマーク登録や↓の『いいね』と『★★★★★』をポチッとしていただけたら、それだけで作者は歓喜に満ち溢れ執筆の励みになります!




