死闘バジリスク
『浄化』
ミーアが長い海蛇の体に変わり、尾を巻きつけて慎重に石像になったトオルの体を引き寄せた。そのままレイアの元へと運び、レイアが浄化の力を使ってトオルを元に戻した。
「もう、あんなのに真正面から行くなんて一体何を考えているんですか!」
レイアが少し怒ったように言った。
「だは、面目ナッシング……」
頭をかきながら情けなく謝るトオルに、俺は対バジリスク用に用意した鏡の盾を渡した。
「トオルさん、これを持った方がいい」
「おっ、これはお前の新しい魔道具か?」
「いや、魔道具というほどのものじゃない。ただ盾に鏡を貼っただけだ。バジリスクの石化光線は、鏡で反射できるらしいんだ」
「なんだ、こんないいものがあるならもっと早く言ってくれよお!」
トオルはなんだか嬉しそうに俺の背中をバンバン叩いてくる。いるよな、こういう体育会系……
「いや、最初から渡そうと思ってたんだが……これで石化光線から少しは身を守れるはずだ」
「おお、そうだ! これで反射させた石化光線をバジリスクに当てれば、あいつの方が石化するんじゃないか?」
そこでトオルはいかにも良いことを思いついたかのように叫んだ。
「名付けて、自業自得大作戦!」
なんとか神話でありがちな展開だとは思うが、果たして石化光線を出してくる相手に石化が効くものだろうか。
「うーん、そううまくいくかわからないけど、いずれにしても慎重に行った方が良い。盾は体全身を覆うほど大きくもないしーー」
「だーははは! 盾を持って勇者再び参上!」
聞いちゃいない。トオルはハンマーを肩に担ぎ直し、鏡の盾を手に、バジリスクに向かって踏み込んだ。本当に勇者だな。悪い意味で。バジリスクはその大きな目をひらき、怒ったようにトオルを睨んだ。そして、その目から放たれる石化光線が、まっすぐトオルへと向かってきた。だが、トオルは慌てず、鏡の盾を前に掲げた。光線が盾に当たると、すぐに反射し、バジリスクの鱗に当たった。
「やったぞ! 俺の知略の勝ーー」
と思った瞬間、光線は鱗でさらに反射されて、トオルの足を貫いていた。
カッチカチ。
彼はまたしても石になっていた。
◇ ◇ ◇
『浄化』
「いい加減、私の魔力も尽きるわよ……」
レイアの声には明らかな苛立ちが含まれていた。
「すみません、トオルお兄ちゃん、無謀すぎです……」
ミーアもちょっと呆れた顔でトオルを見ている。
「俺としたことが、もはや返す言葉もナッシング」
反省してるんだかしてないんだか。
「トオルさん、盾があっても正面から行くのは良くない。俺がバジリスクの気を引く。その間にこっそり後ろから近づいて」
「お、おう……」
トオルは渋々俺の提案に同意した。
そこで俺はすぐに魔法車をモードチェンジする。対バジリスク用に用意した鏡張りモードだ。車の外装が鏡で埋め尽くされ、バジリスクの石化光線がどこから来ても反射できる。
俺は鏡張りの魔法車を走らせ、バジリスクに向かって進んでいった。バジリスクは俺に向けて次々と石化光線を放ってくるが、光線は鏡に反射され、無駄に終わる。俺はその隙に、車の正面に取り付けた小火炎の魔道具から次々に火炎を放つ。幾つかはバジリスクに命中し、鱗をわずかに焦がしたが、やはり最弱魔法の威力では、あまり効いていないようだ。
バジリスクは、うるさい虫を追い払うかのように、尾を振り回してくる。俺は上手く車を操縦してそれをかわすが、あの巨体の尾に激突されたら魔法車など簡単に壊れてしまうだろう。
「頼む、トオル……」
俺は心の中で祈る。幸いにも、俺が魔法車でバジリスクの目を引いている間に、トオルはうまく背後に回り込んでくれていた。トオルはバジリスクの背後にある石化した木に気づかれないように登っている。よし、これなら行ける!
「だーははは! かかったな、俺はここだ! イー・アル・サンダァー!」
そこで何故かトオルが突如、声を張り上げて叫ぶ。気づかれないようにって言ったのに……。そして、トオルは破壊の鉄槌を振り下ろしながら、バジリスクの脳天目掛けて木のてっぺんから飛び降りた。トオルのその声に機敏に反応してバジリスクが振り向き、石化光線を放つ。
「どわっ!」
カッチカチ。
トオルの声も虚しく、またもや光線が直撃。トオルは再び石化してしまった。だが、運命のいたずらか、その石化した体は勢いそのまま落下し、石化の重量分の威力が上乗せされた『破壊の戦鎚』の打撃がバジリスクの脳天に見事直撃する。
メギョ。
それは凄まじい威力だった。気持ちの悪い衝撃音と共に、バジリスクの頭部が陥没した。バジリスクは激しくのたうちまわった後、あるところで糸が切れたかのように地面に倒れ、動かなくなった。
トオルは前職の影響で、常にパフォーマンスしてしまう体質なのです……
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