トリックスター
「それでは、魔王集合、討議会、略して魔王議会を開催いたします!」
高らかに開会を告げたのは、微笑の悪夢――メリーだった。
「ちょっと待てえぇぇ!」
その直後、苛立った異論が空気を切り裂いた。
叫んだのは、蒼銀の毛並みを逆立てた蒼月の牙王――ガルムだ。
「なんで悪夢がいきなり仕切ってんだよ! 誰が許可した? あァ!?」
「あらあら、僭越ながら、この中で最も司会向きなのは私かと思いましたので……これも私の宿命……」
メリーが涼しい顔で微笑む。
「スカしたこと言ってんじゃねーよ! なんだよその態度、まるでオメェが俺の上に立つみたいじゃねーか!」
「おやおや、そんなつもりはございませんのに。そうしましたら――金色の豪鬼さん、司会をお願いできます? これは、任命」
視線を向けられたグリンは、盛大に頭を掻いた。
「ま、どうしてもって言うんならやってやらんこともないが……オレぁ、気を配って会議を進行するより、会議そのものをぶち壊す方が得意だぞ?」
「まあ、それは困りますねえ……つまり、混迷。では、冥府の女王さんはいかがですか?」
リリィは瞬時に首をぶんぶん横に振った。
無言で目も合わせない。完全拒否だ。
「でしたら――異界の竜王さん?」
ファフニルは立ち上がった瞬間、両腕と翼を広げ、天井に響く声で叫んだ。
「我、開かん! 古の強者が集い、その叡智を大宇宙へ捧ぐ魔の祭典! 来たれ混沌、芽吹け真理――今、我らは深淵を覗く!」
「やめだやめだ!」
ガルムが即座に止めに入る。
「こいつはそもそも言ってることが全部異界なんだよ!」
「では……沈黙の巨蹄さんに?」
視線を向けられたモレクは、ゆっくりと鼻息を吐いた。
「ブモォ……」
「……やっばり難しいですよね。今回初参加の新人の申人さんに司会をお願いするわけにもいきませんし、となると、やっぱり私の使命……」
「おい! まだ俺様が残ってんだろーが!」
ガルムが机を叩いて叫んだ。
「あらあら、そこまで言われるのなら、蒼月の牙王さん、司会、やってみますか?」
「おうよ! 任せとけ! いいか、今日の議会は俺が仕切る! 全員、答えはハイかイエスのみ! ここで決まったことは永久服従! 異論は――」
「意義あり」
グリンが手を挙げて一言、静かに宣告した。
「オレぁ、微笑の悪夢の司会で構わん。他の者は?」
決を取ると、ガルム以外の全員が挙手した。
「オイィィ! おめぇら全員覚えとけよォ!」
ガルムの怒号が虚しく反響した。
なんだこれ。先が思いやられる。
「では、気を取り直して最初の議題に入りましょう。本日は新しく魔王になられた申人さんが参加しています。まずは自己紹介を」
メリーの視線が、すっとこちらへ向けられた。
……俺か。
「俺はリバティ・クロキ・フリーダム。新しくできた国、アースベルの元首も兼ねている」
「へえ。噂は聞いてるぜ。あの辛気くせえサリオンを丸ごと併合したとかよ」
ガルムが鼻で笑うように言う。
絡まれたくないので、なるべく目を合わせないようにしよう。
「ところで、あなたの異名はなんと言うのでしょう?」
「異名……? そんなもの、まだないが」
「あらあら、それは困りましたね。魔王議会では異名で呼び合うのが慣わしです。それは、自明。何か心当たりは?」
「急に言われてもな……」
「じゃあ、今決めちゃいましょう。得意分野から決めることが多いですわよ?」
メリーが楽しそうに促してくる。
「俺は魔法と科学を融合させた『魔科学』を使う魔道具師なんだけど……」
「魔科学……? なんだそりゃ。奇術の一種か?」
理解できないものを見るように、グリンが眉をひそめる。
「まあ、この世界の常識では説明できないこともあって、奇術みたいに見えるかもな」
そう言うと、メリーがぱちんと手を打つように微笑んだ。
「まあ、それは面白いですね。では――『魔科学術師』という異名はどうでしょう?」
「まあ、胡散臭くていいんじゃね?」
ガルムがやる気なさそうに賛同する。
……まあ、俺も異名にこだわりはない。
「じゃあ、それでいい」
「決まりですね。それでは――本日よりあなたの異名は『魔科学術師』です。これは、命名」
こうして魔王議会での俺の異名が決定した。
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