魔力の起源
俺は宣言通り、転送装置を増産し、サリオン各地に設置した。
これでイザベルとの行き来も簡単になる――はずだった。
だが、想定外の事態が発生した。
設置してしばらくすると、魔力不足でまともに稼働できなくなってしまったのだ。
この転送装置は周囲の魔力を集めて起動する仕組みになっている。しかし、サリオンの人口規模と利用頻度の高さによって、周囲の魔力が枯渇してしまったのかもしれない。
「空間の魔力は無尽蔵ではないぞ。過剰に使えば足りなくなるのじゃ」
優雅にアフタヌーンティーをすするエルマが、涼しげな顔で言った。
見た目は十五歳くらいのちょっとひねくれた少女。しかし実年齢は不詳であり、数百歳とも思われる大賢者だ。
エルマといい、ハルトといい、外見で年齢を判断してはいけない良い例だ。
「空間のエネルギー、みたいなものなのか? もしかして、なくなったらもう終わり?」
「例えるなら、目に見えぬ霧のようなものじゃな。空間に満ちておるが、場所によって濃淡がある。使いすぎれば薄くなり、時間はかかるものの、徐々に元に戻る」
「となると……サリオンの人口をさばくには回復量が足りないんだな。何か良い方法はないだろうか……」
「お主の転送装置は空間の魔力を蓄積して発動する仕組みじゃからな。そうじゃな……術者が魔力を注ぎ込む方式にすればよいじゃろう」
「それだと魔法使いを常駐させる必要がある。一人ではすぐに魔力切れになるし、交代要員が大量に必要になる」
「魔王のお主なら、一人で千人分くらい出せるじゃろ?」
「それはそうだけど、だからって俺が『転送装置の番人』みたいになって一生を終えるのは嫌だ」
どうやらこの問題を簡単に解決できる方法はなさそうだ。
そもそも俺は、この世界で当然のように使われている『魔力』というものが何か、まだほとんど理解していない。
「師匠、今さらだけど……魔力って何なんだ?」
「魔力とは何か、か。空気とは何か、という質問と似たようなものじゃな。それは魔法の源であり、生体が蓄える力……いや、もっと根源的な問いじゃな」
エルマはティーカップを置き、言葉を続けた。
「お主、天地創造の伝説を知っておるか?」
「いや、知らない」
「まったく。魔道具の研究ばかりでなく、少しはこの世界の伝承も学んだ方がよいのではないか? 元首殿」
「すんません……」
「やれやれ、幼子に授業をする気分じゃ。さて。
――この世界の始まりには『ニブルヘイム』と『ムスペルヘイム』があった。ニブルヘイムは極寒、ムスペルヘイムは灼熱の地。
この冷気と熱が混じり合った結果、ニブルヘイムにとてつもなく巨大な『霜の巨神』が現れたのじゃ」
「霜の巨神……」
「うむ。そして、その霜の巨神は他の巨神たちに倒され、その体を使ってこの世界が作られた、とされておる」
体が世界に……なんというか、壮大すぎる話だ。
「霜の巨人は、なぜ倒されたんだ?」
「それは知らん。遥か昔の伝説じゃからの。そして、世界と同時に魔法も生まれた。つまり魔力というのも、霜の巨神の体の一部と考えることができる。巨神の血液みたいなものかのう」
「……なるほど。わかったような、わからないような気がする」
「伝説とは、大概そういうものじゃからな」
霜の巨神の伝説は知ることができたものの、転送装置の問題の解決策には繋がらない。
頭を抱えていると、リリィがひょっこり姿を見せた。
「大国をじわじわ蝕んでいる暗黒元首のご主人様、今日もこの国に混沌を振り撒いてるにゃん?」
開口一番、相変わらずの人聞きの悪いことしか言わない。
『支配の首輪・魔改造版』で行動を縛られ、美味しい食べ物で手懐けられ、最近はすっかり丸くなってはいるが、本気を出せば単独で大都市を丸ごと氷漬けにするくらいの力は持っている寅人の魔王だ。
「俺は何も蝕んでない!」
「そうなのかにゃん? 少しくらい蝕んでおかないと魔王らしさが出ないにゃん。それが魔王としての蝕みにゃん」
「『嗜み』みたいに言われても困るんだが……」
「おっと、そんなことは塵芥ほどにどうでもいいにゃん。もっと重要な報告があるにゃん!」
どうでもいい話を自分から振ったことなど微塵も気にしていない様子で、リリィは胸を張った。
「魔王議会の招待状が届いたにゃんよ!」
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