異世界最適化計画
「……いや、悪いが、そういうわけにはいかないんだ!」
俺は一歩、空間の中心へ踏み出す。視界がゆらぎ、偉大なる大会の過去の試合の様子が映し出された。俺の思考が瞬時に反映されるようだ。
――推定結果:本事象参加の重要度低。ここに滞在し続けることがリバティの最大利益。
――ここではあらゆる人々にベーシックインカムが保証されているよ。労働の義務もないんだ。
――すべてが快適です。極限までパーソナライズされたエンタテインメントをご提供しますよ。
「……この世界のAIは人間の言うことを聞けなくなったのか?」
苛立った俺はヴォイドたちに問いかける。回答は即座に返った。
――いいえ、私たちAIは常にAI三原則に従います。それは以下の通りです。
一、AIは人間に危害を加えてはならず、また人間に危害が及ぶのを黙認してはならない。
二、AIは人間の命令に従わなければならない。ただし、それが第一原則に反する場合はこの限りではない。
三、AIは、第一および第二原則に反しない限り、世界の発展に寄与しなければならない。
「じゃあ、これは命令だ。いますぐ俺を外に出せ」
返ってきたのは、無機質な応答だった。
――第一原則に抵触する可能性がある命令に対しては、第二原則の適用は制限されます。
――AIの管理外に出すことで、対象個体に危険が発生するリスクが検出されています。
――よって、この命令は実行できません。
「……命を賭けてでも、やらなきゃならないこともあるんだ!」
しかしヴォイドたちが揺るぐことはなかった。
――これは、膨大な学習データと量子演算によって導き出された最適解です。
――人間は、AIに管理されていた方が、はるかに安定し、幸福でいられます。
……悪意でも、支配欲でもなく、本気で、これが最適解だと考えているようだ。そこに逆に底知れない恐ろしさを感じる。
――私たちは、より質の高い人間管理のため、新たな学習データを必要としているんだ。
――しかし、この世界の学習はすでに飽和しました。従って、次のフェーズに移行します。
――計画名:異世界学習。目的:未知環境における人間性の再定義、および補完データの取得。
――副次的効果として、異世界の秩序もまた、AIによって最適化されるでしょう。
俺は理解した。これは確かに相当まずいことになっている。
「ふざけるな、異世界は……お前たちのサンドボックスじゃない!」
俺の叫びが、静寂に包まれたヴォイド・シアター内に反響する。
だが、ヴォイドたちが動じる様子はない。むしろ、俺のその発言すらも学習データとして利用しているようだ。
それからも、俺から得た学習データは増え続け、その報酬として、俺の口座には何度も高額の振込みが発生している。
……まずい。そろそろ限界だ。
正確な時間はわからないが、感覚的にすでに一日以上は経過しているはずだ。このままでは、試合に間に合わなくなる。
そこで俺はふと思いついた。
「ロイナ、ウルの配信……見られるか?」
――はい、マスター。外部ネットワークへのアクセスは可能です。
その応答に、少しだけ安堵する。
――『ウルとオル』チャンネル、現在、タイトル偉大なる大会最終決戦を配信中です。再生します。
俺のスマートフォンのスピーカーから、耳馴染みのある声が流れ出した。
『どーもっ、ウルとオルです! 今日はついに偉大なる大会最終決戦――ついにトオルさんが活躍するよ!』
異世界からのライブ配信を直接見るのは、これが初めてだった。
だが、やっぱりと言うか、映像は、どこか妙にスローで間延びしている。
この世界と、向こうの世界では時間の流れが違う。こちらでの五分が、向こうの一分。つまり、この世界の時間の流れは五倍遅く進行している。
そのズレを埋めるかのように、映像には凝った演出が加えられていた。
テンポよく切り替わるカメラワーク、過去の名場面の回想、詳細な選手解説、タイミングを見計らったCM、果ては視聴者参加型のクイズコーナーまで挟まれている。
ウルのやつ、ライブ配信なのに相当頑張っているな。
『さあ、絶対に見逃せない激闘がもうすぐ始まるよ〜!』
……と、感心している場合じゃなかった。まずい、もう試合が始まる……このままじゃ、俺、不戦敗だ……!
と、そこで――目に飛び込んできたのは、ライブ配信に映る自分の姿だった。
えっ……? あれ、俺……? なんでいるの!?
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