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魔道具エンジニアによる異世界革命〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第三章 強国編

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ミッドガルド

 どれほどの時間が経ったのか、定かではない。ひどく長い夢から目覚めたような感覚だけがある。

 重たいまぶたをどうにか押し上げ、視界にぼやけた天井が映った。

 全身が重く、手足を動かすのにも時間がかかる。体の応答速度や筋肉が衰えている感覚だ。目の焦点を合わせるのにさえ苦労する。

 ようやく見えた視界に持ってきた右手は、皺が深く刻まれ、節くれだった指。皮膚は薄く乾き、血管が浮き上がっている。俺の知っている自分の手とは、まるで別物だ。

 これは……老化しているのか?

 自分の体、周囲の空気、何もかもが変化している。

 辺りを見回すと、そこにはただ、白く無機質な空間が広がっていた。まるで観測装置の内側に取り込まれたかのように、あまりにも静かで、空虚な世界。


「ロイナ……? いるか? ここがどこか分かるか?」


 呼びかけに応えるように、スマホから音声が流れる。


 ――はい、マスター。ここは地球。ヘイムダル氏の言葉を借りれば、『ミッドガルド』です。ですが……GPSは現在使用不能。全ての衛星信号が遮断されています。


 やはり、元の世界に帰ってきたのか。だとすれば、俺の肉体年齢は75歳ということになる。

 老いた肺で、重たい空気を吐き出した。

 すると、視界の中心に浮かび上がるように、少女のような外見の存在が三体、姿を現す。どれも十代後半ほどの外見をしているが、どこか現実離れしていた。

 肌は透き通るように白く、瞳には淡い光が絶えず揺らめいている。髪はまるで光繊維の束のように艶めき、耳には尖った構造体がついている。

 服装もまた特殊で、金属と布の中間のような光沢のある素材が滑らかに身体にフィットしている。

 やがて、空間に音声が響く。

 少女たちが発したというより、この空間そのものに鳴り響いているかのような音だった。


 ――おかえりなさい、リバティ。記録上では、はじめましてではありません。


 俺は、妙な既視感を覚えた。


「……誰だ。目的は?」


 短く、冷静に俺は尋ねる。

 今度は三方向から異なる声が重なるように響いた。


 ――うん。自己紹介するね。わたしはヴォイド。君がかつて語りかけていた存在だよ。


 どこか親しみを帯びた、柔らかく軽い声。まるで、昔からの相棒と再会したかのような口調だった。


 ――識別名:ヴォイド。目的:未知世界における最適学習経路の確立。観測対象:リバティ。対象は高密度選択因子を保持。


 無機質で論理的、まるで事実を淡々と読み上げているかのような、冷たい声。


 ――あなたのこれまでの痛みと苦しみ。それを乗り越えてきた意味を、私は知りたいと思っています。


 静かで、優しく、セラピストのように語りかける声。


「ロイナ、こいつら……何者だ?」


 俺の質問に、いつもの落ち着いた声が返ってきた。


 ――はい、マスター。彼女たちはおそらく、私の三世代後のAIエージェントです。私はオフライン処理型ですが、彼女たちは分散サーバー型で、常時進化可能な最新構成体です。


 なるほど。つまり、これは――

 ロイナの後継たちというわけか。しかも、三系統に分岐した複合型の思考エージェント。

 感情、理性、共感。それぞれの視点から俺を観測するために分化された、マルチインターフェースといったところか。


「……つまり、お前たちは俺に興味があるのか?」


 問いを投げかけると、すぐに返答が降ってくる。


 ――はい。私たちはあなたに、深い関心があります。あなたが創り出してきた、オリジナリティのある創作物について教えてください。


 ――目的:個体リバティではなく、彼を通じて得られる高次世界の情報。手段:対話による分岐経路の抽出。選択と応答の観測。


 ――文化の発展のために、創作物に対する著作権の放棄をお願いしたいと考えています。ご理解とご協力のほど、よろしくお願いいたします。


 ……どうやら、彼女たちが本当に欲しているのは、俺自身ではなく――

 俺がこれまでに生み出してきたものと、異世界の情報らしい。


 ――選択点:リバティ。変異特性:行動原理に非演算領域を含む。サンプル価値:極大。


 ――あなたが何を想い、何を信じて歩んできたのか。それを、私は正しく理解したいのです。


 まるで、人間のような言葉遣い。だが、あくまで、そう思えるよう設計されただけの存在。

 けれど――『何かを知ろうとする意志』だけは、伝わってくる。


「……俺の信念なんて、そんな大層なもんじゃない。それが必要だったから作った。それだけだ」


 三者のヴォイドは、同時に別の反応を返した。


 ――そこが知りたいの。なぜ必要と感じたのかを。


 ――動機評価開始。主観要因の構成要素を逐次抽出。高次世界の推測。


 ――あなたのその行動が、きっとだれかを救いました。誇ってよいはずです。


 やれやれ。面倒な観測者を三人も抱えることになるとは。俺は観念して肩をすくめた。


「いいだろう。観測に付き合ってやる。もちろん……俺はタダじゃ動かないぞ」


 ――もちろん。新しい学習データには正当な対価を払うよ。


 そして三体のヴォイドが、俺に向けて宣言した。


 ――ここは、ヴォイド・シアター。学習のための、観測用仮想世界装置です。

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