大会最終戦を控えて
そして――明日は、ついに偉大なる大会最終日。
最後の競技は『力』。言葉通り、力と力のぶつかり合い。
ルールはほぼ存在せず、魔法でも武器でも、何を使っても構わない。相手を倒せば勝ち。ただそれだけの、極めて分かりやすい決闘だ。
その最後の舞台に立つのは――俺とトオル。魔王と勇者の対決となった。
明日、俺が勝てば、百億ルーン獲得。負ければ、アースベルはサリオン帝国に吸収され、国としての独立を失う。
実にシンプル。だが、背負っているものはとても重い。
「私が……私があの時、勝っていれば……もうアースベルの勝ちだったのに……すみません、すみません……」
ぽつりと、ミーアがうつむいたまま呟いた。
「……我も不甲斐ない。まさか……あそこまで力の差があるとは……」
続けて、ビャコウも悔しげに言葉を落とす。
肩を落とす二人を見ながら、俺は静かに首を振った。
「気にするな。相手が悪すぎた。あいつら……本気で、強かった」
五大老に、ハルト。正直、俺が思っていた以上に強敵だった。俺が少しサリオン帝国を甘く見ていたことは否めない。
「二対二。儂はいい流れじゃと思うぞ。勝つも負けるもリバティ、お主次第。己の蒔いた種、最後まで責任を持って自分で刈り取ることじゃ」
いつもの調子で、エルマが厳しい言葉を投げてくる。
けれど、彼女の言う通りだ。俺の身勝手で始めたにも関わらず、ここまで仲間たちが必死でつないでくれた。これで俺が力を出さないわけにはいかない。
「明日、お主が勝てばよし。負ければ……アースベルは消える。それだけの話じゃ」
エルマは淡々と告げたあと、肩をすくめるように言い足す。
「さて、アースベルが消えたら、儂は、旅にでも出ようかのう。久しぶりに一人で、また気ままに風に吹かれてみるのも悪くないじゃろう」
「……えっ、師匠、出て行っちゃうの!?」
思わず声が漏れる。まさか、本気でそんなことを言うとは。
エルマはちらりとこちらを見やり、涼しい顔で言い放った。
「この国がなくなれば、大臣もクビになるじゃろ? それに、しょぼくれた弟子の顔を眺めていたくもないからのう」
軽口とも、皮肉ともとれない口調。
けれど――俺には分かっていた。こういう時のエルマは、笑っていても、本気で言っている。
だから……その言葉が、胸に刺さる。
優しさなのか、突き放しなのかは分からない。だが、覚悟を促す師の意志は伝わった。
負けられない。絶対に。
ここまで共に戦ってくれた仲間たちのため、アースベルの未来のため。そして、自分自身の誇りのために。
その時だった。
重苦しい沈黙を裂くように、扉が勢いよく開かれる。
「失礼いたしますぞ!」
現れたのは、子人の王――スミンテウス。
裾を翻し、彼は真っ直ぐこちらへと歩み寄ってきた。
「リバティ殿。ドラウプニルの腕輪に関与していた者が……判明いたしましたぞ」
スミンテウスが提供してくれた記録と資料――それは、俺の仮説を裏付けるものだった。
「……ありがとう、スミンテウス王」
俺はゆっくりと礼を述べる。
「なんのなんの。今回のアースベルでのもてなしを思えば、お安いものですぞ」
穏やかな笑みを浮かべるスミンテウスに一礼し、俺はそのまま隣に立つ二人へと視線を向けた。
「ビャコウ、ミーア――頼みがある」
その一言で、場の空気がぴんと張り詰める。
二人はすぐに察し、真剣な面持ちで身を乗り出した。
「調べてほしいことがある。できるだけ早く、慎重に。頼めるか?」
「わわわ、わかりましたっ! 任せてください!」
「承知した」
ミーアが勢いよく応じ、ビャコウは短く、力強く頷いた。
しかし、この調査結果はとても気になるものの、その前に、俺は明日の決戦で勝たなければならない。その後、すべての謎を解き明かすのだ。
まず今日は、余計な思考を断ち切り、可能な限り心身を整えておきたい。
……とはいえ、今日はまだひとつ、片づけておかねばならない重要な用事が残っている。
◇ ◇ ◇
迎賓館の扉を開けると、そこにいたのは見覚えのある人物だった。
黒のスーツに、真っ直ぐなネクタイ。足元にはまぶしく光る黒革の靴。この世界ではあまりにも異質な服装。
その男は、俺たちをこの世界へと送り込んだ張本人――ヘイムダルだった。
「……お久しぶりです。リバティ様」
薄く笑ったその顔は、あの時とまったく変わっていなかった。
時間に縛られぬ存在――そう思わせる人間離れした静けさをまとっている。
「お会いするのは、八年ぶりくらいでしょうか。……この短期間で魔王にクラスチェンジし、一国の元首となられるとは。やはり――私の目に狂いはなかったようですね」




