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魔道具エンジニアによる異世界革命〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第三章 強国編

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知の勝敗

「わし、あのタイトルに思わず唸ったのぇん。『ヨトゥンの午後』。なんというセンス。ところで、その『午後』とは、どんな深意があるのぇん?」


 エルマは、何事もないことのように答えた。


「深い意味などない。ただ、ちょうどアフタヌーンティーを楽しんでおるときに思いついたものでな。それだけの話じゃ」


 ――えぇぇぇっ!?

 ――そんな軽いノリでつけたタイトルが名著に!?

 ――むしろその余裕がかっこいいんだがw


 ジンクスが問い直す。


「ということは、賢者様のご回答は――論文の通り、ヨトゥンヘイムが世界の滅びを招く、という解釈ぇんな?」


 しかし、エルマは静かに首を振り、掲げた回答用紙を皆に見せた。そこに記されていたのは、四つの文字。


『ヒトの力』


「……あれから、儂は考え直したのじゃ」


 その声には反省の色が含まれていた。


「実際に、儂はヨトゥンヘイムを訪れた。そこにいたのは、確かに体の大きな者たち――丑人(ちゅうじん)亥人(ゐじん)じゃった。しかし、彼らとて我らと同じく『ヒト』。その姿を前にして、儂は思った。彼らがこの世界を終わらせる存在とは、とても思えない……と」


 静まりかえる観衆の中、エルマは言葉を重ねる。


「そして、ヴォルスパの記述は、こうも解釈できた。滅びをもたらすのは、『大きなヒト』ではなく、『大きな力を持つヒト』であるとな」


 彼女の瞳が、会場をゆっくりと見渡す。


「ならば、世界を終わらせるものとは何か? それは他ならぬ、我らヒト自身の持つ力ではないじゃろうか。知識も、技術も、魔法も……本来は世界を豊かにするはずのものが、誤れば、この世を焼き尽くす業火ともなり得る……これが儂の答えじゃ」


 ――すげぇ……これ、試合じゃなくて講義だろ……

 ――気をつけないとな……


そして、すべての視線が次なる回答者――ジンクスへと向けられた。


「さあ、後攻。ジンクス様、お願いいたします!」


 ジンクスが掲げた回答用紙には、はっきりとこう書かれていた。


『ヨトゥンヘイム』


「わしの考えは、完全に伝説の……いや、エルマ殿の論文『ヨトゥンの午後』に基づいておるぇん。若き日のわしは、あの論文を何度も読み返した。そして独自の解釈を加え、後に『ヨトゥンの黄昏』や『ヨトゥン・ミッドナイト』といった論文も発表したぇん。内容は、ヨトゥンヘイムの巨人が、体の小さな種族すべてを駆逐するという予測に基づいたもの……。まさか、その大元の論文を書かれた伝説の学者ご本人を、こうして目の前にすることになろうとはぇん……」


 もはや聴衆を論破しようという意気込みは感じられなかった。言葉ににじむのは、畏敬の念のみだった。


「それでは皆さま――最終問題。どちらの回答がより真実に近かったか、ご判定をお願いするのです! 札を、どうぞ!」


 観客席に色とりどりの札が上がり、魔法スクリーンが最終結果を示した。


 エルマ:880票 

 ジンクス:120票


 ――最終的に師匠と弟子の戦いみたいになったな……

 ――あの120票、何があっても帝国に入れるんだなw


「『知』の試合、三対二でエルマ様の勝利、でございます!」


 会場は大歓声で埋め尽くされた。


「完敗ぇん……」


 ジンクスはため息をつきながらも、どこか清々しい表情を見せていた。


「そなたの事前準備、絶妙なハンデだったのじゃ。正直なところ、お主ならもっと姑息な手も使えたのではないか?」


 エルマがそう問うと、ジンクスは苦笑した。


「いかにも。聴衆の魔法的な誘導、幻惑術――色々と手はあった。だが、あのハルトのやつが言うたのぇん。『これは両国の未来を懸けた知の勝負。卑怯なことはするな』とな。まあ結局、どんな手を尽くしても、賢者様には敵わぬぇん」


「そんなこともないぞ。実のところ――少しひやりとしたのじゃ。惜しかったな」


 エルマが静かに告げると、ジンクスは一瞬目を見開いた。


「とんでもない。最初から、勝てるなどとは思っておらんぇん。身の程くらいは知っておる。この偉大なる大会(ギンヌンガ・カップ)において、わしなど歳食っただけのジジイ。ただのザコぇん」


「ならば、なぜ壇上に立ったのじゃ?」


「最初にも言った通り――純粋な興味ぇん。賢者様と、知恵比べができる。それだけで、胸が高鳴ったのぇん。それに、サリオン帝国には異世界人が三人おるが、残りの枠にも誰かが出なければならなかった。つまり、わしはただの数合わせぇん」


 ジンクスは自虐的ながらもどこか誇らしげに続けた。


「だか、わしは十分に満足しておるぇん。わしの見立てでは、アースベルの出場者の中で、元首リバティ殿に次いで厄介なのは、賢者様――そなたぇん。その国のナンバーツーと、わし如きが堂々と渡り合えた。これ以上、何を望むぇん? いやむしろ、この上ない名誉ぇん。そしてなにより……賢者様との議論、意見のぶつけ合い。あれほど心が踊ったことは、かつてなかったぇん」


 ジンクスは深く頭を下げ、静かに壇を下りようとした。その背に漂うのは、敗北の影ではなく、戦いを終えた者だけが持つ、誇りと寂しさだった。


「まあ、お主もよく頑張った。数合わせなどではなく、適任であったと思うぞ。まあ……なんじゃ……茶ぐらいならまた付き合ってやってもよいぞ」


 その声に、ジンクスの足が止まった。振り返った彼の顔には、年齢を忘れた少年のような光が宿っていた。


「なんと……それは光栄の極みぇん。賢者様とお茶……また議論ができるのかぇん?」


「うむ。儂が石になっていた六十年の間の出来事を、深い洞察込みで聞かせて欲しいからのう」


「ふぉっふぉっふぉ! わし、年甲斐もなく――ときめいてしまうぇん……長生きは、するものぇん……」


 言葉を結んだジンクスの頬を、一筋の涙が静かに伝っていた。

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