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エンジニアによる異世界革命はじめました〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第二章 立国編

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神の足音

 フレイの身体は重力に引かれ、落下していった。俺たちは、ただ彼の残像を見届けるように、地に伏したその姿を見下ろしていた。倒れ伏したフレイの瞳は、それでもなお空を見上げていた。無機質なその目がわずかに揺れ、掠れた声が漏れる。


「……なぜだ……なぜ……未来が……見えない……」


 その問いに、俺は静かに応じた。


「お前が未来を読むたびに、未来が変わるプログラムを組んだからだ」


 フレイの目が、微かに見開かれる。


「俺たちが使った転送魔法は、あらかじめ六つの転送先候補を決めていた。そして、どこに飛ぶかは『お前の現在位置』によって決定するようにしたんだ」


 俺は分かりやすく説明できるように言葉を選びながら続ける。


「こんなことをしても、お前が未来を読まなければ未来は変わらない。だけど、お前が未来を読んで、俺たちの転移先を知った場合、お前はそれに備えて動き、お前の現在位置が変わる。すると、それによって俺たちの転移先も変わるんだ。つまり、お前が未来を読むたびに、未来もまた、変わることになる」


 沈黙のまま、フレイは何かを理解しようと空を見ていた。

 もう少し補足すると、俺の魔道具ホーミングユニットが、フレイの位置をミリメートル単位で常に測定する。俺が組んだプログラムは、その位置に応じて転送位置を0から6の数字として表示するものだった。フレイがほんの少しでも動けばこの数字は変化する。エルマとは事前に打ち合わせたうえで、転送先をフレイの真後ろ、左、右、上、下、そしてやや後方の六箇所に決めておいた。エルマは表示されている数字を見て、その瞬間に対応する位置へと俺たちを転送した、ということだ。種明かしをしてしまえば単純だが、未来を読めなくさせる魔法プログラムとしてきちんと動作した。

 俺はさらに付け加えた。


「それから、転送した直後にリリィが攻撃するまでのタイムラグは五百ミリ秒以下。お前の未来視でも、さすがに一秒未満の変化にまでは対応できなかったようだな」


 風が吹き抜ける。砂塵が舞い、フレイの斬り裂かれた身体の上に降り注ぐ。そして、沈黙の中、残された神の軍勢たち、酉人と巳人の混成部隊は、明らかに戦意を喪失していた。天使フレイという象徴の喪失が、彼らの士気に深い影を落としたのだ。皆、ただ遠巻きに、こちらを警戒しているだけだった。そんな中、ただ一人、静かに地上へと降り立つ者がいた。


 天使フレイアだ。


 彼女は微笑みを失い、静かにフレイの傍に膝をつく。その長い髪が、風にたなびいた。


「……なんと酷いことをなさるのですか」


 その声には、怒りではなく、確かな哀しみがにじんでいた。


「まだ、生きているようだけど?」

「私たち天使は、コアを破壊されない限り完全には死にません。けれど、痛みは、あなたたちと同じように感じます」


 その一言が、胸に刺さった。誰かの苦しみに、まっすぐに心を寄せる――それは、レイアの在り方とまるで同じだった。


「でも、先にアースベルを脅かしたのは、そっちだ」

「私たちの目的はあくまで、神器レーヴァテインと、仲間デルピュネの魂の回収。それさえ叶えば、誰かを傷つけるつもりなど、ありませんでした」


 その言葉には確かな信念があった。少なくとも俺には、その言葉に偽りはないと感じられた。


「さ、ご主人様。さっきと同じように、この天使フレイアもさっさと破壊して魂を回収するにゃん」


 リリィが当然のように言う。その手には、再び冥府の魔力が脈打っていた。


「……そう、だな」


 俺は答えたものの、迷いは消せない。フレイを庇うように立ち塞がるフレイア。誰かを助けようとするその姿は、やはりレイアそのものだった。あの優しさ、あの真っ直ぐな瞳――すべてが重なって見える。


「……痛みを感じるって……言ったよな」


 胸が苦しい。今手を下せば、レイアの魂を取り戻せる。けれどそのために、まるでレイアと同じように振る舞う清らかなこの天使を……俺の手で、壊すことが正しいのか……


「……悪い。フレイアを、今壊すのは――無理だ」


 俺の言葉に、沈黙が落ちた。すぐさまリリィが噛みつくように言う。


「ご主人様、正気にゃんか!? この天使を壊さなければ、聖女の魂は戻らないにゃん! レイアも戻って来ないにゃんよ!」


 わかっている。頭では、すべて理解しているんだ。だけど――


 その時だった。空気が、変わった。

 冷たい風のような寒気が背筋を撫でるように通り抜ける。皮膚が粟立つ。説明できない、圧のようななにか。これは……

 俺が言葉を探すよりも早く、師匠エルマが険しく呟いた。


「……来おったか」


 その声は、明らかに緊張を孕んでいた。


「神ニョルズじゃ。忘れもしない奴の気配、間違いなくこの場に向かっておる……!」


 彼女の蒼い瞳が、西の空を鋭く射抜くように見据えている。その名が告げられた瞬間、空気が凍りついたように感じた。風が唸るように吹き荒れる。雲は激しく流れ、やがて満月が、姿を現した。その月明かりに照らし出される影。かつてエルマを封印したという神、ニョルズ。

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