二者択一である!
華視屋流々は鳩が豆鉄砲を10万発分食ったような顔をしていた。
「貴殿のカメラの腕前と情報収集力を風紀委員会のために活かせ。学内での不純交友やいじめの噂があれば調査し、逐次報告するのだ。何も難しいことはない。今まで貴殿がやってきたことの延長だ」
「いきなりそんなことを言われても困るのだ! 我が情報を集めているのは趣味のためなのだー!」
「そうか。では縁楼寺行きで良いのだな」
「ああああ、まっ、待って」
ううん、と唸る華視屋流々。私に一年間協力するか三日間の地獄を選ぶか、考えるまでもあるまいに。致し方ない、それならばムチだけでなくアメの方もやることにしよう。
「タダ働きせよとは言わん。一件報告するごとに千円やる」
「なっ!?」
「千円やると言っているのだ。良い小遣い稼ぎになるだろう」
「……」
あなたのことは信用していませんと言わんばかりのジト目だ。そりゃそうだろう、私は周りのお嬢様方と違って羽振りが良さそうに見えんからな。だが実際は贅沢ができる程の余裕はある。もっとも贅沢する気はないが。
「疑うなら前金で払ってやっても構わん」
私が財布を取り出そうとしたところで、「あっあっあっ!」と華視屋流々が止めに入った。
「須賀野殿が本気だということはわかりましたぞ。協力すれば刑は免除して貰えるのですな?」
「一年間おとなしくしていればな。もしその間に問題を起こしたら容赦なく縁楼寺に送り込む。刑期を延長してな」
「わ、わかりました……では、協力いたしましょうぞ」
華視屋流々は陥落した。私はすかさず、誓約書兼同意書を取り出した。
「では、こいつをよく読んでサインをしてもらおう」
「実に用意が良いですな……」
「こういうのはきちっとしておかねばならんからな」
華視屋流々は「一.法令と校則を遵守し、学業に勉めます。二.風紀を乱す行為を行いません……」と律儀に音読した後に、サインした。
「よろしい。時に華視屋流々。貴殿は友人からどのように呼ばれている?」
「はい? 我のあだ名ですか? 一応、みんなからは『とるこ』と呼ばれているのだ……」
「トルコ?」
「カメラで『撮る子』だから『トル子』なのだ」
「なるほど。納得した」
しかしトル子ではいまいちしまりがないな。響きが平凡すぎる。もっとかっこよく、こいつらしいニックネームを与えよう。これから我が同志となるのだからな。
「では貴殿のことは今から『ピーパー』と呼んでやろう」
「ぴ、ぴーぱー?」
「英語で『ノゾキ』という意味だ。どうだ、こっちの方が良かろう」
「ノゾキ!? うわーん、ノゾキ呼ばわりなんて酷いのだ! 我は断固拒否しますぞ! トル子の方がずっと――」
言い終わらないうちに、私は机を握りこぶしで思い切り叩いた。
「貴様っ、上官に口答えするかーっ!!」
「ひいいいいっ!? 二人称変わってるー!? しかも上官ってなんなのだー!? 我の方が先輩なのに!!」
「貴様は今から我が分隊の一員となるのだ。これからは上官たる私の指示に対してはい、もしくはイエス以外の返事は許さん」
「めっ、目がイッちゃってるのだ……」
もう一発叩いた。
「わかったなっ!!!!」
「イエス! イエスマムなのだー!!」
華視屋流々改めピーパーは震えながら敬礼した。
「よーし、では早速だが貴様に仕事をやる。星花祭が迫ってきているのは知っているな?」
「は、はい」
「昨年の星花祭は過去最高の来客者を迎えたが、その分問題も目立った。人が増えると問題も増えるのは摂理である。故に、風紀委員の役割はますます重要なものとなる」
そして今年の星花祭は、昨年度ですら比べ物にならない程の盛り上がりが予想される。なぜならば多数の芸能人がゲストとして呼ばれているからだ。星花女子学園の経営母体である天寿は芸能界にコネクションがあり、現役の生徒にも複数の芸能人がいる。マスコミも取材に訪れると聞いている。星花女子学園はすでに地方のいち女子校に収まる存在ではなくなっていた。
「ピーパー調査官に命ずる。星花祭期間中、不穏分子がいないかくまなく調査せよ。これでな」
私はピーパー愛用のカメラを返却した。受け取ろうとする手はブルブルと震えていた。武者震いだな。




