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あくまでも尋問である!

 私が風紀委員になった折、風紀委員会の司令官たる雪川先輩から要注意人物のリストを見せてもらったことがあった。その中の一人が今目の前で縮こまっている華視屋流々である。


 風紀委員が把握しているだけでも前科14犯。風紀紊乱の常習犯がなぜ学業と部活に秀でた者だけが入ることを許される菊花寮に住み続けられているのか。なぜならば厄介なことに教師はこの者に悪印象を持っておらず、いつも庇っては委員が軽微な処分で済ませてきたのである。


 しかし馴れ合いは今日で終わりだ。信賞必罰を明らかにしなければ示しがつかぬ。何としてでも盗撮の証拠を手に入れ、より重い処分をくださねばならぬ。


 とはいえ、矯正のチャンスを与えてこなかった我々の責任もある。停学にするよりはきつーいお灸を据えて正しい道に戻すのが良かろう。人は私を鬼呼ばわりするが、私とて最低限の人情はあるのだ。


 しかし、証拠を手に入れるためには情けなどかけてはおられなかった。


「舩木! 林! 中ノ瀬! アレをもってこい!」

「「「Yes, ma'am!!」」」


 我が須賀野分隊に所属する中等部一年の風紀委員三人。この者たちは星花女子学園の風紀を改善せんとする我が理想に賛同する忠実な部下であり、かけがえのない同志である。


 三人がアレを机の上に置いた瞬間、華視屋流々の顔から生気が失せた。


「ぬああっ!? これはっ……!」

「華視屋流々。私が調べたところによると、貴殿は鶏ササミと茄子とメロンパンが大嫌いだそうだな?」


 鶏ササミが入った小鉢。茄子の柴漬けが乗った小皿。そしてメロンパン。質問に答えずとも、慄いた反応を見れば明らかである。


「今一度問おう。SDカードをどこに隠した? 言え」

「しっ、知りません! 我は知りませんぞー!」


 これから何をされるのかわかっているのだろう、明らかに態度に余裕がなくなっている。ここで認めてしまえば楽になるのにシラを切ってしまうとは、よほど撮影したものが大事と見える。


「仕方ない。ならば存分に味わって貰おう、華視屋定食をな。やれ」

「Yes, ma'am!!」


 中ノ瀬が手際よく華視屋流々の体を椅子に縛り付ける。私はメロンパンを手にし、一口サイズにちぎった。


「やめてー!! メロンパンのベタベタは勘弁してほしいのだーっ!!」

「口を開けろっ!」

「んんんんっ!!」


 口を閉じて必死に抵抗する華視屋流々。そこへ舩木と林がヤツの脇腹をくすぐる。


「ひゃーはははは!! こそばゆいのだー!!」

「よし口が開いた! じっくりと味わえ!」

「んぐっ!!」


 メロンパンが口に入ると、吐き出そうとする前に頭とアゴを抑えてよく咀嚼させた。ヤツはんぐんぐ呻きながらも噛んで、しばらくしてゴクッ、と喉が鳴った。


「うぐえええっ!! 口の中が気持ち悪いのだー!!」

「ははは、ちゃんと食べられたではないか」

「捕虜虐待なのだー!! あなたは戦犯として裁かれるべきなのだー!!」

「フン、従軍記者ならともかく、盗撮魔なんぞジュネーブ条約の保護対象になっとらん!」

「ひえええ!!」

「さあ、次は茄子の柴漬けを食わしてやる。須賀野家秘伝の製法で作った柴漬けだ、絶品だぞ」

「わ、わかりました!! SDカードを渡すから許してほしいのだー!!」


 落ちたか。もう少し根性があるかと思っていたが存外そうでもなかったな。情けない。


 SDカードは靴下の中に隠されていた。ヤツのカメラに入れて中を確かめると、やはり盗撮された生徒たちが映っていた。


「もう言い逃れはできんな。カメラは没収する。明日までに反省文を原稿用紙10枚分書いて私に提出せよ。その場で正式な処分を下す」

「ほえええっ!? 反省文で終わりではない!?」

「当たり前だ。過去に14回も処分対象になっておきながら今まで野放しになっていたのがおかしいのだ。なあに、停学以上までは下さんから安心しろ。その分たっぷりと生き地獄を味わって貰うがな」

「ひいいい……」

「行ってよし!!」


 中ノ瀬が拘束を解くと、華視屋流々は一目散に逃げ出した。


「貴様ら、食べていいぞ」

「「「Yes, ma'am!!」」」


 華視屋定食の余り物に手をつける忠実な配下三人。私は茄子の柴漬けを一つだけつまんだ。うむ、よく漬かっている。ヤツが茄子嫌いとはもったいない。


「しかし、よく撮れているな」


 華視屋流々の撮影した生徒たちは、軽く微笑んで見つめ合っていた。写真のことは全くわからぬが、光加減が絶妙で美しく見せているのは素人目にもわかった。他の画像データを見たが、全て出来が良かった。華視屋流々が持っていたのがカメラではなくスナイパーライフルであったら、名射手になれたに違いない。


 にわかに、華視屋流々の腕前が惜しくなった。私は考えた。逆にヤツを綱紀粛正に利用できないだろうか、と。


 *


 翌日、華視屋流々は言い渡した通り反省文を持参してきた。徹夜で書き上げたのであろう、目の下にはクマができていた。


「ご苦労」

「寛大な処分を求めますなのだ……」


 反省文と呼ぶには稚拙な文章だが、きちんと10枚埋めてきたな。その点は褒めてやろう。


「では、貴殿に処分を言い渡す」

「ごくっ」

「華視屋流々は縁楼寺(えんろうじ)で三日間修行の刑とする」

「ぎゃああ!?」


 ほう、縁楼寺送りの刑の恐ろしさを知っていると見えるな。


 縁楼寺は空の宮市北部にある寺で、厳しい修行で知られている。一般人も泊りがけで最長一週間の修行体験ができるが、体験した人たちはみな辛かったが心が洗われたようになった、と一様に語る程である。実は私は縁楼寺の住職と個人的に知り合いで、コネを活かして問題を起こした生徒を何人か放り込んだことがある。校内で堂々と不純交友をした者。りんりん学校で私を罠にかけようとした者。二泊三日と短い修行体験でも、二度と過ちを犯すまいと心に誓わせる程度にまで矯正できた。それだけあの寺の修行は厳しいのである。私も一週間フルで体験したことがあるが、お嬢様学校の生徒にとっては地獄に感じられるであろう。私にとってはとても充実した心の鍛錬になったがな。


 本来ならば当然、華視屋流々も縁楼寺で心を叩き直さねばならぬところである。しかしこのときばかりは、私は実利の方を選んだ。


「ただし、私の言うことに従えば刑の執行を一年間猶予してやる」

「ほえ……?」

「華視屋流々。『孤高の情報屋』の日々は終わりだ。今から我が風紀委員会のスパイとなれ」

「……………………なんですとーっ!?」

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