狂気の沙汰ですぞ!
須賀野殿の奇人変人ぶりはりんりん学校でも相変わらずであった。
みんなが海で泳ぎビーチバレーに興じている間、須賀野殿は奇声を上げながら木刀の素振りをするし、夕食後の自由時間でも一人筋トレを続けて周りをドン引きさせていた。二日目のハイキングでは偵察と称してどんどん先に行ってしまい、急な坂も軽々と登っていく体力お化けぶりには逆に感心さえ覚えたものである。
その日の夜、りんりん学校の伝統行事たる肝試しがやってきた……というのは名目で、実際は恋人どうしが幽霊にも見せつけてやるとばかりに草むらであんなことやこんなことをする淫靡なイベントと化していた。だがこれでもれっきとした生徒会の主催イベント、風紀委員はこのときばかりは不純交友を見逃してくれる。
とはいえ昨年は現風紀委員長の雪川静流先輩が取り締まろうと躍起になっていた。しかしあろうことか本人が肝試し中に本物のお化けと出くわしたらしく、そのまま気絶してしまい、結局その後はいつも通りの逢瀬が繰り広げられたのであった。
我はというとこの一大イベントを毎年泣く泣く遠慮せざるを得なかった。なぜかって? 我はお化けが大の苦手なのだ! 現に雪川先輩もお化けと遭遇しているし、今年も我は宿泊所内でおとなしくせざるを得なかった。
しかし肝試しをいろんな意味で楽しみにしていたカップルたちは、今年は失意のどん底に陥っていた。理由は須賀野殿の存在に他ならなかった。
だが須賀野殿に果敢に抵抗しようとする者たちがいた。日頃から須賀野殿を快く思っていないアンチたちが、肝試しを利用して須賀野殿をシメようと計略を練ったのだ。シメると言っても脅かすといった生易しいものではなく、かなりえげつない手段を取った。
内容はこうだ。お化け役を買って出たアンチが須賀野殿を本来のルートとは違う獣道に誘導し、その先に仕掛けた落とし穴に落として、頭から下を埋めて身動きを取れなくする。そのまま泣こうが喚こう許しを請おうが一晩放置する。そうやって生意気な風紀委員を懲らしめ、肝試しの名を借りたディープラブイベントを邪魔する者を排除した上で、思う存分宴を楽しむ。というわけである。下手を打てば事故に繋がるのだが、それだけ須賀野殿が恨みを買っていたことがわかる。
もちろんこんな計略は生徒会に知られるわけにいかなかった。アンチたちはまず須賀野殿を参加させるために、「国際科新設記念肝試し大会」という形で国際科の生徒を全員参加させるよう、真の目的を生徒会に伏せた上で提案した。生徒会側は提案に乗ってしまい、国際科の生徒たちは陰謀に巻き込まれる形で強制参加となった。国際科は他クラスと比べ恋人がいる生徒がごく少なく、相手がいない生徒たちにとっては迷惑だと感じる者がほとんどで士気は低かった。
さて迎えた肝試し本番、まず須賀野殿が斥候として一番先に一人で山に向かうことになった。もちろんこれはアンチがそそのかしたからであったが、須賀野殿は安全安心な肝試しを行うためならば、と喜んで引き受けた。
果たしてアンチたちの目論見はどうなったのか。結論から言うと、彼女たちの方が埋められてしまった……。
人伝いに聞いたところによると、須賀野殿は最初はアンチたちの誘導に上手く乗ってくれたのだが落とし穴の手前で急に止まって、
「土から殺意がみなぎっている……」
と呟くなり、そこらへんに落ちていた木の枝を拾って地面を突っついた。ボコッとくぼむ地面。上手くカモフラージュできていたのに、罠をいとも簡単に看破されたアンチたちは皆あんぐりと口を開けて見ていたそうだ。
そしてついに、須賀野殿の狂気メーターが限界まで振り切れてしまった。
「ゲリラどもめ!! こんなブービートラップにかかると思ったか!!」
山での肝試しが夜間戦闘に切り替わった瞬間であった。四散するアンチたち。だけどお化けもびっくりの体力お化けぶりを発揮した須賀野殿から逃げ切れずはずもなく、全員捕らえられて落とし穴に放り込まれ、首から下まで生き埋めにされてしまったのであった。
そこへ異常を察知した他のお化け役がやってきたが、生き埋めになって泣き喚くアンチたちと、ランボーのように狂った目つきをした須賀野殿見て腰を抜かしたという。
「ゲリラどもが占拠していた山を奪還した! これより残党の掃討戦に移る!」
須賀野殿は誰もおらぬ山中へと消えていき、生徒会の判断で肝試しは中止になってしまった。「悲鳴と嬌声の夜」と呼ばれる愛の行事の伝統が潰えた瞬間であった。強制参加でやる気がなかった国際科の生徒だけは喜んでいたが。
その代わり海でのキャンプファイヤーの場で、もう我慢できないとばかりに愛し合うカップルが続出して「嬌声の夜」だけは行われることができた。あちこちで堂々と致すものだからかえってカメラを向けることがはばかられて、結局我は一枚も撮らずに終わってしまった。
須賀野殿はというと山中で一夜を過ごし、早朝になって泥まみれになって帰ってきた。何と戦ったのか知らないが泥まみれになっていて、その姿はさながら潜伏していたジャングルから投降してきた旧日本兵のようであった。
りんりん学校での事件以降、須賀野殿に逆らえる者はすっかりいなくなった。誰だって生き埋めにされたくはないものだ。
そして今、我は入学して半年も経たないのに数々の伝説を残した須賀野殿から取り調べを受けている。きっと彼女の心は今、捕虜を尋問する軍人とシンクロしているに違いない。我とて尋問を受ける捕虜の気持ちになった気がた。




