A man DYED in madness 4
二人は狭い個室を与えられたが、ベッドのシーツは清潔で壁はヒビ一つ入っておらず、安宿よりも快適な空間が広がっていた。
夕食の準備中、ジュリーは鼎の部屋で話をしていた。
「ダイさんのことをどう思います?」
「そうだねえ……」
ジュリーは部屋の中をぐるぐると歩き回りながら答えた。
「ダイさんはやたらと『家族』を強調していたが、集落全員があの人の『家族』というのは間違いないだろうね」
「大人はみんな妻で子どもはみんな娘、ということですか」
「いや、そいういう区別もないだろう。須賀野さん、この国は一夫多妻制だって知ってるかい?」
「ええ。でも確か人数制限があったはず」
「その通り。本来なら集落の大人全員を妻になんてできやしない。だけどここでは誰も妻の扱いを受けていない。アリーさんですら」
「どうしてわかるんです?」
「この国には既婚者の女性はブレスレットをつける風習がある。だけどアリーさんも他の大人も、誰もブレスレットをつけていなかった。夫を亡くしたのもいる、と言っていたけどブレスレットは夫とどういう形で別れようが外すもんじゃないんだ」
「なるほど。もしかするとダイさん、この国の風習を良く思っていないのかもしれませんね」
先程のダイには男尊女卑の風習に嫌悪する言動があった。それに内戦の犠牲者でもある。戦争を起こした男たちに対する憎しみを女性への救済へと転化させているのかもしれない。
受け入れた女性たちを妻、姉妹、娘と分けることなく「家族」と呼んでいるのも、古い女性観を打破するための試みなのだろうか。
やがて、夕食の準備が整ったという知らせがあった。
二人が連れてこられたのは広場であった。集落の者たちが一斉に集まって歓迎パーティーが催されたのである。歓迎しようとは言われたがパーティーを開かれるとは思っておらず、数時間前まで二人に小銃を突きつけていたのが嘘のような歓迎ムードに困惑を隠せなかった。
「何だか変な気分だねえ……」
ジュリーはひとりごちたが、変なのは空気だけではなかった。食事は日本食のいなり寿司が出されていた。ダイによると犠牲になった彼の本当の家族の好物だったというが、米がジャポニカ米ではないせいか味と歯ごたえは日本人が知るものとは似ても似つかぬものになっている。
他にも肉料理が出されていたが、この国の肉料理では野生動物の肉を使うために臭みが酷く、現地人以外が食べようとするなら慣れが必要である。ところが出された料理はスパイスやハーブが効いていて臭みをほとんど感じなかった。住民たちもすすんで食していたことから、自分たちの分だけ食べやすいようわざわざ上品な味付けをしてくれたとは考えられない。ただその気遣いはジュリーにとっては余計であった。臭みに慣れきっていたせいで逆に食べにくかったからだ。
さらに少女たちが火を囲んで歌いながら踊っていたが、曲と振り付けは何と日本の盆踊りそのものであった。
「♪トーキョートーキョーダーイトーキョー」
歌詞の意味を知っているのかどうかはともかく、大東京音頭を流暢に歌う少女たちの声は澄んでいた。
「みんなお上手ですね。これもダイさんが教えたんですよね」
「ああ。パーティーをやるときはいつも盆踊りをするんだ」
鼎とダイのやり取りをよそに、ジュリーは違和感を拭いきれなかった。傭兵時代には戦勝祝いを何度か経験したが、男たちによる部族の戦士由来の力強い踊りと、魚の煮汁で炊いた米料理に臭みが強い野生動物の肉料理が定番であった。この国の宴には必ずと言っていいほど出てくる伝統料理である。
だがダイはやはりこの国の風習をよしと思っていないのであろう。集落をどう発展させるつもりなのかはわからないが、少なくとも文化を作り変えるつもりでいるのは確かだ。その思想は、現地住民と共に戦う内に現地に溶け込んだジュリーにとっては理解しがたいものであった。
歓迎パーティーはあっという間に終わり、ジュリーたちはダイの家に戻った。
「俺は周辺を見回ってくるから、適当に寝てくれ」
ダイはそう言って出かけていった。
「ではさっさと寝ることにしましょうか。長居するわけにいかないので早めに集落を出ます」
「そうだね。村の連中も心配しているだろうしね」
ジュリーたちはお互いの部屋に戻って、ベッドに潜り込んだ。
シングルサイズのベッドはジュリーの巨体にフィットしていなかったが、いつも特注の寝袋で寝ている身からすれば天国のような心地で、すぐさま深い眠りに入っていった。




