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A man DYED in madness 1

・この番外編は須賀野守の両親の出会いを書いたお話で百合要素は一切ありません。百合以外興味ねえんじゃって方はごめんなさい。

・閲覧にあたり、まず壊れ始めたラジオ様作『Delete Ill Earth』を読むことをオススメします。いろいろと悲しい男のお話です。

 https://book1.adouzi.eu.org/n8284ex/

・同じく壊れ始めたラジオ様作『百合ing A to Z 〜ゆりんぐ・えー・とぅー・ぜっと〜』を読むことをオススメします。悲しい男が何をしてきたかがわかります。

・藤田大腸は狂ったキャラがだいすきです(唐突な告白)

 これはまだ、須賀野守が生を受ける遥か前のお話。


 その国は二度に渡る内戦の末に荒廃した。だが新政府樹立から少しずつ政情が安定に向かいつつあった。


 首都から南に100キロほど下ったところにあるガルドン村。小さな村ではあるが、戦いの爪痕が建物に残る銃弾の跡や、郊外に建てられた無数の墓という形で生々しく残っていた。


 村に一台の軽トラックが入ってきた。荷台には穀物袋が積み込まれ、車体には「有限会社まるやま商店」と日本語で書かれている。日本で使い倒されて遥か遠い地に流れ着いても、丈夫な日本製であることを示すために日本語表記が消されていないのである。


 だが、中から降りてきたのは紛れもない日本人である。


「おーい、食糧が手に入ったよ!」


 村民が歓声を上げる。


「ジュリー、ありがとう!」

「はっはっはー、いい子にしてたかい?」


 ジュリーと呼ばれた女性は子どもを片手一本で持ち上げた。体格は女性離れ、いや、日本人離れしていた。身長は推定2m以上、全身は筋肉の鎧で固められており、さながら業務用冷蔵庫に手足が生えているかのようである。


 ジュリーはついこの前まで傭兵として戦地を渡り歩いていた。反政府側、つまり今の新政府に雇われていたのだが、終戦とともに多額の報酬を渡され、契約解除となった。


 だがまだ旧政府軍の残党がまだゲリラ戦を展開していることもあって、村に請われて用心棒として留まっていた。世話になった村への恩返しもあったが、そもそも日本に戻ったところでいつ死ぬかわからないひりついた感覚を味わえることができないので、言われずともこの国に残るつもりではあった。


 そんなある日のことである。ジュリーが井戸水の組み上げを手伝っていたところ、村人の一人が息を切らしながら駆け寄ってきた。


「ジュリー! 君の国の軍隊が村の方に近づいてきている!」

「なんだって?」

「とにかく来てくれ。あいつらの目的が何なのか調べてきてほしい!」


 日本の政治的事情を知らない村人には自衛隊と軍隊の違いを区別できようもない。それはともかくとして、まるやま商店の軽トラックに乗って村人に案内してもらった。


 もちろん、万が一に備えて武器を携えて。


「あれだよ!」


 村人が指差した方向には、確かに車体に日の丸マークを貼り付けた自衛隊の1/2tトラックがあった。だがたった一台のみである。「軍隊」というからには最低でも一個小隊ぐらいの規模を想定していたから拍子抜けした。


 ジュリーは拳銃だけ持って降りることにした。決して油断しているわけではなく、実戦経験が皆無に等しい自衛官相手なら近接格闘で倒せる自信があったからだ。事実、彼女は近接格闘だけでも数々の兵士を何人も倒している。


 1/2tトラックから迷彩服姿の自衛官が降りてきた。


「何の用だ!」


 巨体から威圧的な大声を震わせて自衛官に問いかけたが、相手は全く動じず逆に笑顔を見せた。


「すみません、もしかして日本の方ですか?」


 自分よりも高い声に、頭二つ以上も低い背丈。しかし襟の階級章を見て、風貌との釣り合わなさに逆に驚いた。


「あんた、三佐さんかい?」

「はい。PKO司令部の須賀野(かなえ)と申します」

「PKOか。自衛隊が来たってことはここら辺は安全とみなされたってことかね」

「そういうわけではありませんが、ところであなたはなぜここに?」

「まずはあんたの用件を聞きたいね」

「この先にある村の現状を調査しに来ました。案内して頂けないでしょうか」


 ジュリーは話を聞きながら、須賀野鼎という人物を品定めしていた。顔つきも男か女かわからず、そもそも幹部自衛官というのが信じがたい。


 言葉で聞くよりも、自分の手で試してみることにした。性別と力量、両方見極めるのにてっとり早い方法を。


 ジュリーは相手の後ろに回り込み、相手を掴みにかかった。豪快な巨体とは裏腹に敏捷性があり、屈強な男ですら一撃で地面に組み倒されるか、または後ろからナイフで喉を掻っ切られるかのどちらかであった。


 だが、ジュリーの手が相手に触れる前に、視界の天と地が逆転した。ズドンという轟音とともに背中に衝撃が走り、青空が目に飛び込んできたのである。そこににゅっと横から笑顔が覗き込む。


「すみません。あなたみたいに触って調べたがる人が大勢いるものですから、つい防衛本能が働いて体が勝手に動くようになってしまいまして」


 合気道の要領で投げ飛ばされたのだとようやく理解した。


「古い型なのに新品みたいだ。よく手入れされてますね」


 しかも、拳銃がいつの間にか相手の手に渡っている。これが実戦であればどうなっていたか想像に難くない。


「くくっ……あーっはっはっは!」


 いくつもの窮地を乗り越えて勝利を重ねてきたジュリーが初めて味わった完全敗北だが、気分は最上であった。


「大したヤツだよ、こんな強者が自衛隊にいたなんてね。気に入った!」


 ジュリーはネックスプリングで跳ね起きると、砂塵が舞い上がった。


「あたしのことはジュリーと呼んでくれ、須賀野さん」

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