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デートですぞ!

「うーん……これがベストですかなあ」


 我は人生初のデートに着ていく服を選んでいたが、私服はおしゃれなものよりも動きやすいものばかり買っていたから今ひとつしっくりこず、結局はパーカーにデニムという格好になった。飾り気はないが守殿の性格なら気にしなさそうではある。


 そういうわけで学園前駅で待ち合わせをしていたのだが、守殿の私服を見た我はギョッとした。


「来たか」


 守殿は迷彩服を着ていた。自衛隊員が着てるような本格的なものを。


「あの、サバゲーでもしに行くおつもりですかな……?」

「これが私服だ。街中でいつ戦闘になるやもしれぬからな」


 ああ、若干狂気面に落ちかけている……もしかすると、我とのデートで気分が高まっているせいであろうか?


「では行こう。スイーツ小径とやらは行ったことがないのでな、案内を頼む」

「イエスマムなのだ!」


 ふざけて敬礼したら、男女のカップルが横目でチラッと見てきてクスクス笑い出した。すると守殿が急に般若のような顔つきになって、


「何がおかしい貴様らッ!!」

「ひいいー! すみませんでしたっ!」


 カップルは走って逃げ出した。


「あ、あ、あの守殿? 今日はデートなのでできるだけ穏便にですな……」

「すまん。だがお前が笑われているのが許せなかった」


 気持ちはありがたいのだが、笑われたのはあなたの方だと思いますぞなどと言えるはずはなかった。


 *


『中ノ瀬から本部へ。ターゲットが今上り線に乗った。予定通り空の宮中央駅まで向かう模様。このまま追尾を続ける』

「本部了解。くれぐれも気取られないよう慎重に追尾願いたい」

『中ノ瀬了解』


 スマホで中ノ瀬さんとのやり取りを終えたところで、林さんが部屋に入ってきた。両手で鍋を持っている。


「舩木さん、大家さんから差し入れ」

「何これ?」

「かぼちゃの煮物だって」

「かぼちゃか……私あんまり好きじゃないから中ノ瀬さんと二人で食べて」

「私もなんだけど」

「……中ノ瀬さんの晩ごはんにするか」


 私は作業を続行する。モニターの電源を入れ、しばらくすると画像が鮮明に映し出された。


「よし、動作良好」


 映っているのは、今私たちがいる部屋と同じ間取り。中には物騒なものがたくさん置かれていた。


 エアガンと竹刀と木刀がインテリア感覚でずらりと並べられているのだ。


 この部屋の主はそう、我らが敬愛する須賀野先輩だった。


 先輩が住んでいるアパートは築50年で、駅前にも関わらず居住者が先輩含めて三人しかいない。そのため大家さんに勉強合宿用の部屋として一日だけ貸して欲しい、と三ヶ月分の賃貸料を添えてお願いしたら快く了承してくれた。私は自分で言うのも何だが、実家がかなり太いのでお金はどうとでもなったのだ。大金は「あまり余計な詮索をしないで」という無言のメッセージとなり、大家さんは疑いもしなかった。


 そういうわけで、私たちは須賀野先輩の隣の部屋を借りることができた。今日一日、須賀野先輩と華視屋先輩が変なことをしないか見張るのが私たちの役目だ。


「それにしても須賀野先輩がここまで不用心だなんて思わなかったわ。まさかカギをかけずに家を出ていくなんて」

「例え泥棒が入ってきてもビビって逃げ出すよ、こんな武器庫みたいなのを見せられたら」


 須賀野先輩はエアガンを大量に持っていると聞いていたが、一個小隊はゆうに編成できるほどの量がある。木刀や竹刀も一緒に、大量に陳列されていたら危険人物が住んでいるとしか思われない。


「あれ?」


 林さんが眉をひそめた。


「どうしたの?」

「何かぼんやりと白いものが一瞬映っていた気がしたんだけど……」

「あー、やっぱ出るのかな」

「出るって何が?」

「実は須賀野先輩の部屋、事故物件なんだよ。空の宮市親子餓死事件って聞いたことない?」

「な、何? 初耳なんだけど」


 20年前、空の宮市内で年老いた母親と病気の息子が餓死するという痛ましい事件が起きた。日本で起きた過去の重大事件を扱ったサイトでこの事件を知ったのだが、日本の福祉の限界を思い知らされて陰鬱な気分になったのを今でも覚えている。


 事件が起きた場所はこのアパートで、それも須賀野先輩の部屋だった。事件が事件だけにアパートへの風評被害は大きかっただろうし、普通なら取り壊されるか、最低限でも部屋を封印するかしてもおかしくない。しかしどういうわけか今も使われ続けている。ただ、噂では事件後何人かが家賃の安さに惹かれて入居したものの、怪奇現象に見舞われてみんな一ヶ月持たずに出ていってしまったとか。そんな場所に須賀野先輩は半年ほど住み続けている。さすがとしか言いようがない。


「何だか、須賀野先輩の監視というか一昔前に流行った心霊番組の撮影みたいになりそうなんだけど、憑かれたりしない……?」

「大丈夫。こんなこともあろうかと」


 取り出したるは「お清め塩」と書かれている袋。林さんは何か言いたげな顔をしているけど塩の力を侮ってはいけない。


 *


 空の宮中央駅の中央口付近にある飲食店街、スイーツ小径。ありとあらゆるスイーツが揃っており女性客で賑わっているグルメスポットである。


 その中で「RIN」と書かれたうぐいす色の看板が立ててある店があるが、ここが我が前から行きたかった店である。


「ふむ、派手過ぎぬ店構えがいいな」


 守殿も気に入った様子。


「では参るのだ」


 中に入ると見事に、予想通り女性の団体客しかいなかった。店構えは派手ではないとはいえ、一人では入りづらいので守殿を誘った次第である。


 窓側の二人席に案内されると早速、メニューに目を通した。


「ここは抹茶パフェが人気らしいですぞ」

「ふむ。だがその前に飯だな。今朝はあまり食べておらんから腹が減って仕方がない」

「あらら、守殿はしっかり食べるイメージなのに」

「デートのためだ。貴様との食事で食べきれなかったら恥ずかしいだろうが」

「う、うーん……お気持ちはありがたいですが三食はきちんと取って頂きたいですぞ。さて何にしますかな?」

「ドリアが美味そうだな。スイーツとセットメニューがあるようだ。抹茶パフェとセットで注文しよう」

「では我も同じで」


 呼び出し用のチャイムを鳴らすと、すぐに店員さんが来てくれた。


「お伺いします」

「ドリアと抹茶パフェのセットを二人前でお願い……」


 我が注文をしている最中、急に守殿が立ち上がった。店員さんが驚いてのけぞる。


「ど、どうしたのだ!?」

「外から何やらただならぬ殺気が……!」

「あー、()()()まで晴れてたのに雨が降るかもしれないと? 天気予報では一日中晴れだったから大丈夫、ということでドリアと抹茶パフェのセット二人前をお願いします、なのだ!」

「ド、ドリアと抹茶パフェパフェのセットをお二つですね」


 何とかごまかして店員さんを下がらせた後、我は初めて守殿を注意する立場に立った。


「人が大勢いる前だからもう少し慎重に行動して欲しいですぞ……」

「すまん。だが確かに外から殺気を感じたのだ。気のせいだといいが……」

「腹が減って気が立っているだけかもしれませんぞ。そうだ、写真部の後輩が良い風景写真を撮ってきたから見ませんかな?」


 *


『中ノ瀬から本部へ。ターゲットは現在スイーツ小径のカフェ「RIN」で食事を開始した』

「本部了解。何を食べているかわかる?」

『えー、恐らくドリアと思われる。なお「RIN」は口コミサイトでのスイーツの評価が高いため、デザートでスイーツを追加する可能性あり』

「本部了解。ターゲットに気づかれる可能性があるため、長居せず適当に切り上げて場所を移動されたい」

『中ノ瀬了解』


 中ノ瀬さんは「RIN」の向かい側にあるカフェで張り込みを行っている。華視屋先輩が注文を取っている最中にいきなり須賀野先輩が立ち上がって中ノ瀬さんの方にキッと振り向いてきたと連絡が入ったときは肝を冷やしたが、上手くごまかしたようで今の所は順調に張り込みを続けられている。


「先輩がドリアを食べている姿が想像できないわ」

「全く」


 林さんの言うことに私も同意した。


 ちなみに私たちも食事中である。牛乳とあんぱんという刑事の張り込みの定番メニューだ。実際張り込みしているのは中ノ瀬さんだけど。


 そういえば華視屋先輩は焼いたあんぱんが好きという情報があったな、とふと思い出した。焼いたらカリカリになるらしいのでトースターがあったら試してみたかった。

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