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何だか須賀野先輩の様子がヘンです

「そこの者、止まれ!」


 須賀野先輩の一声で三人連れの生徒が魔法にでもかけられたかのように急停止した。


「これより身体検査を行う!」


 有無を言わさずに私と林さん、中ノ瀬さんがボディチェックを開始する。二人とも私と同じく須賀野先輩を敬愛する同志であり、命令があれば例え火の中だろうと水の中であろうと飛び込んでいく覚悟を持っている。


「「「怪しい持ち物はありません!」」」

「よし、次はカバンを改めろ」


 私たちはカバンをまさぐった。こちらは何も怪しいものはなかったが、中ノ瀬さんが申告した。


「このような本が見つかりました」


 色を失う生徒。見つかった本はライトノベルだったが、表紙には半裸の美少年どうしが体を寄せ合っているイラストが。星花にはその類の作品を嗜むのが少なからずいるので割とよく見つかるのだが、この本の中身は相当過激なものに違いなかった。それを先輩は堂々と広げて読む。


「ぬうっ、これは……」

「ごっ、ごめんなさい! 間違ってカバンに入れちゃったの。本は処分していいから許してください……!」


 本よりも自分の身の安全を優先するあたり、偉大なる先輩がどれだけ恐れられているかが伺える。だけど先輩はため息をついて、本を返してしまった。


「間違ったのであれば仕方ない、今日は見なかったことにしてやる。だが次はないと思え」

「あっ、ありがとうございます!!」


 何とそのまま解放してしまった。今までの先輩であれば罰していたのに、いったい何で?


 その後も検査して、何件か学校に持ち込むのにふさわしくないものが見つかったにも関わらず、全部お咎めなしにしてしまった。何で?


 風紀委員室に戻ると、風紀委員公認スパイの華視屋先輩が待っていた。


「守殿、一大事ですぞ! 調査していたらとんでもないものが!」


 華視屋先輩がカメラを見せる。東門前の道路の画像だったが、そこにはなんとおっさんがフェンスに向かって立ち小便をしている姿が。


「おのれ神聖なる学び舎を汚すとは……許せん! 直ちに画像を引き伸ばして手配書を作れ!」

「イエスマムですぞー!」


 敬礼する華視屋先輩。すっかり須賀野先輩とのやり取りが板についてきた。


 だけど気になる点がある。この二人、互いに「須賀野殿」「ピーパー」呼ばわりだったのにいつの間にか下の名前で呼び合っているのだ。それに須賀野先輩は最近、さっきの持ち物検査のときもだけど他人に対して甘くなった気がする。立ち小便のおっさんだって以前の先輩ならエアガン片手に即飛び出して行ってサーチアンドデストロイの精神で見つけ次第容赦なく撃っていただろう。


 もしかするとこれはやはり……。


「舩木、カギを頼む」

「はい。お疲れさまでした」


 今日の私はカギ当番。先輩はそのまま帰っていき、私は職員室へカギを返しに行ったが、退室すると林さんと中ノ瀬さんがいた。


「まだ帰ってなかったの?」

「話したいことがあるの、ちょっとこっちへ」


 林さんが申し出た。人に聞かれたらまずい話なのか、階段裏まで連れて行かれた。


「最近の須賀野先輩、変わったと思わない?」

「二人ともそう思う?」


 一ノ瀬さんが深刻な面持ちで言いだした。


「我々が心の底より敬愛する先輩が腑抜けになっているような気がしてならない。学園風紀を乱す反乱分子を地獄の業火に投げ込み秩序を守るのが須賀野先輩だったはず」

「確かに須賀野先輩はおかしくなった気がする。何でだと思う?」

「やはり、あの人のせいだろうな」


 二人とも、私と同じく背の小さいカメラを構えた先輩の姿を思い浮かべているらしかった。


「それで、何でそんな話を急に?」

「実はこんな会話が」


 林さんがスマートフォンを取り出して、ボイスレコーダーアプリを起動させた。


「机に入れてこっそり聞かせてもらったものだけど……」


 そこには須賀野先輩と華視屋先輩との会話が記録されていたが、内容は衝撃的なものだった。


『守殿、ちょっと』


 やはり下の名前で呼ぶ。いくら華視屋先輩が年上とはいえ、我々からすれば偉大なる御方に対して名前呼びとは恐れ多いにも程がある。


『なんだ?』

『その、今週土曜は部活が午前までなのだが……でっ、デートはどうですかな?』


「ひっ!」


 引きつった声が出てしまった。


『ああ、私もそろそろ恋人らしいことをせねばと思っていたところだ』


「ひいっ!!」


 何てことだ。悪い予感が当たってしまった。華視屋先輩は須賀野先輩とデキているのだ。


『プランは決めているのか?』

『実は気になっている店がスイーツ小径にあるのだ。ちなみにスイーツはお好きですかな?』

『久しく食べてないな。だが嫌いではないぞ。その店に行ってみよう』

『ありがとうなのだ!』

『その後はどうする?』

『えーと、そこまではまだ……』

『ならばウチに泊まりに来るか?』

『えっ!?』


「ひいいいっ!!」


 信じられない……。


 これは不純同性交遊の予感しかしない! 風紀委員たるものがなんてことを!


「須賀野先輩は華視屋にたぶらかされているのではないか」


 一ノ瀬さんは四学年も上の先輩に対する敬語を省いた。


「これは監視しないとダメだろう。丸一日かけて」

「丸一日って、まさか家の中まで?」

「そうよ」


 と、林さんが言った。


「万が一にも二人が変なことをしたら、場合によっては須賀野先輩も取り締まるわ」


 しかし学校外のことであれば、余程度を過ぎた不純な交際でもしない限りは風紀委員とて取り締まりはできない。ただし生徒の手本となる風紀委員、ましてや綱紀粛正の要たる須賀野先輩とあれば話は別で、放置していればみんなに示しがつかなくなる。


 須賀野先輩には学園の安寧と秩序を守る崇高な存在でいてほしい。


「あななたちのことだから、もう計画は作っているんでしょうね」


 二人はうなずいた。とりあえず下校時刻に差し掛かっていたので、話の続きははすぐそこの公園で聞くことにしたのであった。

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