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地獄の黙示録ですかな?

 星花祭は待ってましたのお待ちかね、美滝百合葉殿のライブが開かれようとしていた。今回は動画配信に加えてマスメディア各社も駆けつけており、多数のテレビカメラがステージに向けられていた。


 我はいつの間にか最前列の席にいて、両手にサイリウムを持ち百合葉殿の登場を待っていた。


 そのときであった。アイドルのライブに似つかわしくない、緊迫感のある弦楽器の演奏が流れ出したのは。それは音楽の授業で聴いたことがある『ワルキューレの騎行』であった。


 ステージ奥にもうもうとスモークが漂い、人影が浮かび上がる。そこから現れたのは、なんと漆黒の軍服を身にまとった須賀野守殿であった。続いて風紀委員たちもゾロゾロと出てきたが、これまた軍服姿で、しかも小銃を持っていた。


 どよめきが起こる中、須賀野殿は「貴様ら聞けい!!」と雷のような怒声を発した。


「たった今、反政府ゲリラを捕らえた。見よ! これが破壊活動により政府を転覆せんとした愚か者どもである!」


 いつの間にかステージに、柱に縛られた二人が現れていた。それはフライドポテトの屋台でクレームをつけたおっさんと、百合葉殿の血を欲していた頭のおかしい女であった。二人とも猿づくわをかまされて悶えていた。


「ライブを始めるにあたり、我が風紀委員が前座を披露しよう。ただ今より工作員の処刑を執行する!」

「ほえー!?」


 我はニワトリの鳴き声のような叫び声を上げてしまった。全世界に公開処刑を配信したら国際問題になってしまう。


「すっ、須賀野殿ー! はやまってはいけませんぞー!」


 我は訴えたが、須賀野殿の耳に届いていなかった。


「だがその前にだ。もう一人処刑せねばならん者がおる。我が軍の風紀を大いに乱し士気を大いに下げた愚か者。その名前は……華視屋流々!」

「え!?」


 何者かにがしっ、と両腕と首根っこを掴まれた。舩木殿林殿中ノ瀬殿であった。そのままステージに引っ張り上げられて、無理やり座らされた。


「華視屋流々。貴様はあれほど警告を受けたにも関わらず盗撮を繰り返していた。そうだな?」


 複数枚の写真を無造作に我の目の前に投げつけてきた。どれも星花祭を楽しむ女の子たちで、イチャイチャしているエモい場面。しかし全く撮った覚えがない。我が撮ったのは雪川先輩と火蔵先輩だけだ。

 

「し、知らないのだー! 無実なのだー!」

「問答無用!! 貴様は盗撮、治安紊乱行為その他諸々の罪で銃殺刑に処す!! 引っ立てい!!」

「ぎょえええ!!」


 我はたちまち柱にくくりつけられてしまった。しかしここで不思議なことが起きた。全くわけがわからないのだが、我の哀れな姿を我は観客席側から見ていた。つまり我の意識は体から離れていたのだ。それなのに縛られる感触はしている。なんとも摩訶不思議で気色が悪い。


「構えいッッ!!」


 須賀野殿が右手を上げて、銃殺隊と化した風紀委員が小銃を構える。おっさんはお漏らししながら泣き喚くし女はゆりりんバンザイと叫んで狂乱するし、もうメチャクチャである。我だけは不思議なことに冷静であった。


 須賀野殿に殺されるなら仕方ないですかな、とそんなことさえ考えていた。なぜだかわからないが。


 もしかしたらこれが諦めの境地、というやつなのかもしれない。


「打ていッッ!!」


 須賀野殿の手が振り下ろされると、小銃が一斉に火を吹いた――


 *


「ひっ!?」

「む、起きたか」


 視界に飛び込んできたのは須賀野殿であった。いつもの制服姿である。全てが悪い夢だと悟るまで時間はかからなかった。


「須賀野殿? ここは……?」

「風紀委員室だ。保健室のベッドを使わせてやりたかったが、祭の熱気に当てられて熱中症になった観客で埋まってしまってな」

「ああ、言われてみれば……」


 我は床の上に敷いたマットレスに寝かされていた。部屋には我と須賀野殿以外誰もいないし、当然小銃もない。とりあえず夢のことは忘れることにしよう……。


 壁時計を見たら午後4時半過ぎ。慌てて飛び起きた我は窓から校庭を眺めたが、ライブのテージを片付けている業者と後夜祭のキャンプファイヤーの準備を進めている生徒たちの姿が見えた。あれだけいた観客は一人も残っていない。


「ああ、祭りが終わってしまったのだ……」

「おい貴様、こっち向け」

「!?」


 須賀野殿は我の両肩に力強く手をかけた。二つの目をギラギラと輝かせながら。


「よくやったぞピーパー!」

「はい?」

「御神本先輩と橘から聞いた。貴様が反政府ゲリラを足止めして時間稼ぎをしておらねば数千もの人々が犠牲になるところであった、とな。あのゲリラは過去に何度か百合葉閣下を害せんと企んでいたようで、所属事務所からも感謝の言葉が届いている。貴様はまさしく救国の英雄だ! 勲章ものだ!」

「お、お、お」


 須賀野殿は肩をゆさゆさと揺すぶってきた。体を張った甲斐があったというものだが、嬉しさよりも困惑が勝った。須賀野殿にこんなに褒められたのは初めてのことだ。


「あっ、ありがとうございますなのだ」


 としか答えようがなかった。須賀野殿もなかなかトチ狂ってはいるが、あの女の狂気を目の当たりにした後では遥かにまともに見える。ちなみに女は秘密裏に警察に突き出されたとのこと。おそらく新聞沙汰にならず無かったことにされるであろう。


「そうだ、貴様に謝礼を渡さねばな。生徒の不祥事報告一件ごとに千円やると言ったが、その程度では足りるまい。これだけやろう」


 須賀野殿は手の形をパーにして我に見せた。


「五千円……?」

「馬鹿者、五万円だ」

「五万円!? いや、ちょっとそれは……」


 女子高生が気軽に口にする金額ではないが、須賀野殿は冗談を言っている感じではない。


「その、気持ちはありがたいのだが我はお金のためにやったのではないのだ……」

「うむ、殊勝な心がけである。しかし信賞必罰という言葉がある。功績にはきちんと報いがなければならぬ。ましてや貴様は大勢の人命を救ったのだから五万円でも安い方だ」


 須賀野殿の言うことももっともだ。だけど我はお金で報いてほしいとは思わなかった。今なら面と向かってはっきりと言える。


「では、代わりに五万円分教えて欲しいのだ。須賀野殿のことをいろいろと」

「私のことを、だと?」


 一瞬間が空いて、須賀野殿は笑いだした。


 この御方は全く笑わない人ではないが、笑うときはなかなかサディスティックである。かつて我を拷問……もとい尋問したときがそうであった。でも今の須賀野殿の笑い方は普通であり、見ていて気持ちの良いものであった。


「なんだ、そんなことで良いのか。よかろう、では存分に私を取材するが良い。シルバーウィークに実家に帰るから一緒に来い」

「ありがとうございます、なのだ!」


 実家に帰るから一緒に来い。その言葉がもう一度頭の中で繰り返されて、我は大声を上げたのであった。

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