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スナイプですぞ!

 須賀野殿と火蔵先輩との間にバトル勃発!


 騒ぎを聞きつけた野次馬が続々と集まってきて、殺気じみたオーラを発している須賀野殿のことをうまく距離を取って見つめている。挑発してきたのは火蔵先輩の方からだが、もはやこうなってしまっては収まりはつかない。


「わかったわ。だけどあなたがが失敗したら、静流と一週間公然でいちゃついても検挙されない権利をちょうだい」


 雪川先輩は「え?」と驚いた顔つきで火蔵先輩を見た。


「私への罰は無くてもいいのか?」

「その方がやりやすいでしょ? わたくしはあなたと違って寛大ですもの」


 火蔵先輩はにこにこ笑ってグサグサと刺しに来ている。もっとも、須賀野殿は全く堪える素振りを見せなかった。


「承知した。では、すぐに終わらせてやろう」


 須賀野殿は法被の生徒に銃をよこすよう催促した。


「では、撃ち方の説明を……」

「必要ない。射的は子どもの頃に何度もやったことがあるからな」


 須賀野殿はレバーを引き、コルク弾を先端に詰めた。


 我はついおおっ、と唸った。両足を開きターゲットに対して半身の体勢で構える須賀野殿の姿はサマになっていた。ざわついていた野次馬も静まり返り、空気がピンと張り詰める。


 須賀野殿は引き金を引いた。おもちゃの銃なのに、パーンという銃声がしたような気がした。


 弾は「大当たり」の箱を支えるマッスルくん人形の真下、ひな壇に命中した。


「あらあら、もう後がなくなったわね」


 持ち弾は六発のみ。火蔵先輩は勝利を確信してか、雪川先輩を抱き寄せた。須賀野殿は意に介さず次弾を装填する。全く表情を変えることなく、淡々と作業を進めて再び構えた。


 二発目。コルク弾は「大当たり」の箱を撃ち落とした。マッスルくん人形を微動だにさせず。


「お、大当たりでーす!」


 法被の生徒がハンドベルを鳴らした。野次馬も拍手で讃える。だがこれを残り四発連続で繰り返さなければならないのである。いかに須賀野殿と言えども厳しいだろう、と我は考えていたが……やはり想像の上を行っていた。


 三発目も四発目も、まるで二発目のVTRを繰り返し見ているように、「大当たり」の箱だけがぱたりと落ちた。みんな精密機械のような正確無比な射撃に見とれていて、火蔵先輩もとうとう真顔になった。


「早く置き直してもらおうか」

「は、はい!」


 須賀野殿は五発目を装填しながら、法被の生徒に催促する。箱が置き直されるや否や引き金を引き、またもや箱だけを倒すことに成功した。


「すごい、四連続で……」


 じゃあ一発目は何で外したのかと思ったが、それはきっと銃のクセを掴むための試し打ちだったのであろう。たった一発撃っただけで自分のモノにするなんて、このお人はやはり人間ではない。


 とうとう最後の一発。これが大当たりとなった瞬間、火蔵先輩は懲役一週間……もとい寺での修行体験一週間が待っている。二泊三日の修行体験で別人格のようになり別れてしまったカップルがいたが、火蔵先輩といえども人格改造されてしまうのだろうか……。


 今は雪川先輩と真剣交際しているとはいえ、いまだに多くの信者を抱えている。もし火蔵先輩の身に何かが起きたら、また須賀野殿に危害を加えようとする者が出てくるかもしれない。雪川先輩が止めに入ったのも、恐らく先輩にもそういう懸念があったのかもしれなかった。


「須賀野さん、あなたの腕前はもう十分わかったからおやめなさい」

「静流、わたくしは覚悟できていてよ」


 火蔵先輩が首を横に振る。須賀野殿は耳を貸そうともせず、淡々とした流れ作業で最終弾を装填し、構えた。法被の生徒はハンドベルを手に持ち、野次馬も固唾を呑んで見守る。


 引き金が引かれた。雪川先輩の「だめ!」という声が響く。


 次に聞こえたのはコンッ、という軽い金属音であった。「大当たり」の箱は一ミリたりとも動かず、マッスルくん人形に支え続けられていた。コルク弾がそれてテントの骨組みに当たったとわかるまで時間はかからなかった。


「ざ、残念でした……」


 法被の生徒はほっとしたような残念がるような、どっちともとれる微妙な表情をしていたが、我も同じ気持ちであった。


「私の負けだ。約束通り、貴殿が一週間何をしようとも不問にする」


 須賀野殿は悔しがる素振りを一切見せず、銃をテーブルの上に置いて立ち去ろうとした。


「あっ! 豪華景品は!?」

「いらんと最初に言ったはずだが」


 法被の生徒に睨みつけてビビらせると、雪川先輩に「風紀委員室でお待ちしています」と言い残して、今度こそ去ってしまった。


「勝つには勝ったけど何だか釈然としないわね。もしかしてわざと外した?」

「あなたのことを相当嫌っているから温情を見せるとは思わないけど……」


 最後の一発だけは本当に不可解であったが、その答えはすぐに見つかった。


「うわわっ!!」


 法被の生徒が飛び上がった。


「しっ……死んでる!」


 恐る恐る拾い上げたコルク弾には赤いものがついている。それが血をたらふく吸ったと思われる蚊の死体だとわかるや否や、静まり返っていた周囲がまたざわつきだした。


「まさか、蚊を狙って……」

「ええ、そのまさかでしょうね。あの子は賭けには負けたけどわたくしに力をこれでもかと見せつけた……静流、あなたはとんでもない後輩を持ったわね」


 火蔵先輩は笑い出した。こんな神業を見せつけられては、笑うしかないであろう。


 ちなみに蚊が吸った血は我のものであったらしい。場が鎮まった途端に腕にかゆみを覚えだし、喰われた箇所がぷっくりと腫れていたのに気づいた。


 *


 星花祭一日目は若干トラブルがあったようだが、致命的にはならず終えることができた。


 生徒たちは休むまもなく二日目の準備に追われ、風紀委員もミーティングでトラブル報告と反省点を話し合った。その中に我も参加させられて、自分の仕事の範囲内では異常がなかったことを報告したが、須賀野殿から特に指摘等は無かった。


 それから須賀野殿が明日の警備計画について話を始めた。


「駅から学校までの交通整理は警備員と教員が行う。客が敷地内に入場したら走ったり、必要以上に騒いだり、その他安全に支障をきたす行為をしないようにしっかり監視しておくこと」


 ここで犬塚殿が手を上げた。


「何だ、犬塚?」

「今日は早速面倒なヤツが来たけど、明日になったらアレみたいなのが大勢来るかもしれないよ? ちゃんと対策を考えといた方が良いんじゃないの」

「ぬかりはない。助っ人として橘桜芽と御神本沙羅先輩に協力してもらうことにした。二人で警備員10人分の働きはするだろう」

「あれ? あんたあの人たちのこと嫌ってたのに?」

「人間としては嫌いではない。部活の勧誘がしつこいだけでな」


 須賀野殿はあらゆる武道に通じているので武道系の部活から熱烈な勧誘を受けていた。しかしどういうわけか断り続けて、どの部活にも所属していない。


 このお人はあちこちで暴れまわって有名人となっている割に、ミステリアスなところが多い。まだ我も、誰も知らない須賀野守がいるのであろうな。そう思った途端に、持ち前の好奇心が、にわかに須賀野殿の方に向き出した。鬼のように恐れられてはいるが、プライベートではそうではないかもしれない。校内のイチャイチャを取り締まっておきながら自分はこっそりと恋人を作っているかもしれない。見てくれは良いのだし、狂気が発動しなければ相手の一人か二人は見つかってもおかしくはない。相手のことを意外と大切にしそうだし、身に危機が訪れたら自分の体を張って、名前の通り守ってやるのかもしれない……。


「おい貴様ッ! 何をニヤついとるッ!!」


 須賀野殿の怒声で、妄想の世界に飛んでいた意識が我の肉体の中に強制送還された。


「はっ、はひーっ!! ごめんなさいなのだーっ!!」

「ここが戦場だったら真っ先に死んどるぞッ!」


 狂気モードに移行しつつある須賀野殿。我はひたすら謝るしかなかった。


 しかし、ここまで後輩に怒鳴られる先輩は我ぐらいなものであろうな……軍隊だと年下の上官は珍しくないが、ここは女子校なのに。

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