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屋台の定番といえばこれですぞ!

「このチュロス、美味しいわね」


 ああああ、我も目の前のエモいシチュエーションが美味しすぎてたまりませんぞ! 雪川先輩が屋台で買ってきたチュロスを火蔵先輩と分け合って食べているなんて!


「でっ、では一枚失礼いたしますぞ!」

「どうぞ」


 我は今まで受けてきたフラストレーションを晴らすようにシャッターを切りまくった。チュロスが入った紙コップを持つ雪川先輩。チュロスに手を伸ばす火蔵先輩。恋人を横目で軽く微笑みながら見つめている雪川先輩。たっ、たまらん!! 撮影を許可してくれたお二人には感謝感激雨あられだ……。


 過度なイチャイチャは一切していないから林殿と中ノ瀬殿は手を出すことができない。気のせいかもしれないがとても悔しそうにしている。


「華視屋さん、良い写真は撮れたかしら?」

「ど、どうぞ御覧ください!」


 我はカメラを火蔵先輩に差し出した。


「さすが写真部、上手に撮れているわね。静流がいっそう輝いて見えるわ。ねえ、後でデータをくださらない?」

「はっ、はひっ!」


 じーん、とこみ上げてくるものがあった。女の子たちの写真は何枚も撮ってきたけど、データをくれだなんて言われたのは初めてのことである。


「ピーパー先輩、そろそろ自分の仕事に……」


 林殿が何とも不服そうな言い草で伝えてきたが、雪川先輩が遮った。


「もう少ししたら戻るから、それまで写真を撮らせてあげて。須賀野さんに何か言われたら雪川司令官の命令だと伝えなさい」

「……承知しました」


 雪川先輩もかつてはおっかない風紀委員長だったのに、今では慈愛に満ちた女神様のように見える。ありがたやありがたや……。


「あっ、静流! あれ面白そう!」


 火蔵先輩が指差したところは射的の屋台であった。出しているのは何故か器械体操部だが、今まで見たことがない出し物だからか人が結構集まっている。


 アホ毛の子がおもちゃの鉄砲で景品を狙って撃つと、「豪華賞品」と書かれた箱、大きさにしてタバコの箱ほどだが、命中させて倒した。それなのにアホ毛の子は頭を抱えてしまった。


「あー! もうちょっとだったのにー!」

「はい、ありがとうございましたー」


 法被を着たポニーテールの生徒が駄菓子をアホ毛の子に渡す。


「みなさん箱だけを落としてくださいねー。マッスルくん人形も倒したら無効ですよー」


 マッスルくん人形というのは巷で人気の児童漫画『マッスルくん』の人形で、はちまきをした筋肉モリモリマッチョマンの子ども、マッスルくんが両手を上に広げて天を支えるように立っているポーズを取っており、箱はその上に乗せられていた。マッスルくん人形は倒さず箱だけを落とさなければいけない、というのがこの射的のルールであった。


 みんな豪華景品を狙って箱に当たりはするものの、マッスルくん人形はマッスルな見た目に反して踏ん張りが効かず、弾みで一緒に倒れてしまう。これは無理だと悟ってか、弾が残り少なくなると無難な駄菓子の方を中心に狙いだした。こっちにはマッスル人形の土台が無く、駄菓子本体を倒すだけで貰うことができた。


 やがて火蔵先輩の番になった。


「豪華景品って何なのかしら?」

「この五つの中から好きなのを選んで頂けますよ!」


 法被の生徒が後ろに掲示しているお品書きを指差した。最新携帯ゲーム機、天寿製の最新化粧品詰め合わせ、市内で使えるスイーツ一ヶ月間食べ放題無料パス、駅前の高級スパ回数券一ヶ月分、松阪牛10kgまである。さすがお嬢様学校、豪華ですなあ。


「じゃあ、静流をスパに連れて行ってあげるわね」

「弾は六発です、まずレバーを引いて、先っぽにコルクを詰めて、引き金を引いてください。こんな感じで」


 鉄砲の撃ち方を実演してから、いよいよ本番だ。


「えいっ」


 一発目から豪華景品を狙うが外れ。二発目で命中したものの、当たったのがマッスルくん人形の方だったから一緒に倒してしまった。


「ああん、難しいわね意外と」


 火蔵先輩は諦めなかった。しかし健闘むなしく六発が無駄になってしまった。


「はい、残念でした。参加賞のティッシュですー」

「うーん、これでもアレをした後の処理に使えるからいいか」

「宮子、人の前で何を言うのよ……」


 顔を赤くした雪川先輩が交代する。


「私は堅実に行くわ」


 駄菓子狙いに終始したが、当たったのは一発だけ。手に入れたのは風船ガムとティッシュだった。雪川先輩はあまり納得のいっていない様子だったものの、火蔵先輩が頬を撫でて褒めた。すかさず我は連写。ああ、たまらん!!


「華視屋さんもいかが?」

「いえっ、我はもっと良いものを頂きましたのでっ!!」


 撮った写真を確認すると、駄菓子より甘い雰囲気がそこから漂っていた。ああ、幸せ……。


「ほう、楽しそうにしているな貴様」

「わっ、わわわ須賀野殿!?」


 鬼軍曹のご登場に、場の空気が一気に凍りついた。須賀野殿は意に介さず雪川先輩に向かって、


「不審者は退治しました。詳細な報告は風紀委員室で行いますので、戻って頂けますか?」


 答えたのは火蔵先輩の方であった。


「お説教ならやめて。この子は私が連れ出したのよ」


 須賀野殿は威圧的な声色で「説教ではない、報告だ」と苛立たしげに言い返した。


「あー、怖い、怖い。あなたも遊んでいったらどう? 射的、楽しいわよ」

「残念ながら貴殿ほど暇ではないのでな」

「ふーん、実はかっこ悪いところ見せたくないだけじゃないの?」

「何?」

「あなたよくエアガンを持ち歩いてパトロールしてるけど、中学時代に射撃競技で全国大会に優勝したこともあるらしいじゃない。その腕前を見てみたいわ」


 そう。須賀野殿は武道に長けているが射撃の腕前も半端なものではないのだ。我もその片鱗を直接目の当たりにしたからよく知っているが、後で調べたら火蔵先輩の言うように中学時代に全国大会で優勝したことがあり、スポーツ強豪校からも勧誘を受けていたという。なぜ誘いを蹴って射撃部のない星花女子学園に入ったのかまではわからなかったが。


「遊びにつきあってられるか」

「逃げるのね? 軍曹殿とあろう子が逃げるんだ。ふーん」


 刺々しい挑発。火蔵先輩はあからさまに須賀野殿のことを敵視している。雪川先輩が見かねて「ちょっと、宮子……」と止めに入るが、


「そこまで言うなら仕方ない。やってやろう」

「そうこなくちゃね」


 挑発に乗った須賀野殿が屋台に向かっていった。


「この『豪華景品』という箱を落とせば大当たりか?」

「は、はい。ただしマッスルくん人形は倒さず箱だけを落としてください。無事落としたら五つの中から選んで頂けます」

「承知した」


 須賀野殿は言った。


「しかし豪華景品はいらん。その代わり五回落としたら火蔵先輩、貴殿は縁楼寺で一週間ほど修行してもらおう」


 ひええ、出た! 縁楼寺の刑!

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