29話:双方の気持ち
イチョウ並木を堪能した四人は、バスで最寄りの駅へと向かいそこから電車で秩父駅へと向かっていた。
電車の中で一条は樹に耳打ちする。
「それで樹。天宮さんのことはどう思っているんだ?」
「おまっ」
「いいから」
「嫌いではない」
「そう言った意味じゃなくてだな……」
一条は頭を掻きむしりながら、小声で言った。
「異性として好きなのかって事だ」
「……」
黙り込む樹に、一条は答えるように急かしてくる。
好きか嫌いかと言われれば好きだと言える。
「どうなんだ?」
「……好き……だ」
樹の言葉を聞いた一条は笑みを浮かべ頷いていた。
「告白はしないのか?」
「しても振られるに決まってる」
「そんな風には見えないんだけどね」
その発言に一条の顔を見た樹。
「え? それってどういう……」
「まずは告白してみるべきだって事だ」
ニッと爽やかな笑みを返す一条に、樹は考えさせられた。
一方天宮はというと、朝比奈と樹と一条には聞こえない声量でコソコソと話していた。
「まっしーはつっきーのことどう思っているの?」
「ふぇ!? ど、どどどうしてそんなことを!?」
顔を赤くして動揺する天宮に、朝比奈はニヤッと笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「つっきーのこと好きなんでしょ?」
「そ、そんな好きとか嫌いとか……」
「いいじゃん。つっきーには聞こえてないんだから」
「そ、そういう問題では……」
チラッと樹の方を見ると、どうやら樹も一条と話しているようだった。
「で? どうなの? 異性として好きか嫌いか」
「……き、嫌いではないです」
「まっしーの顔を見れば誰でも分かるよ?」
「そ、そんなこと──」
「だってまっしーの顔に、つっきーが大好きですって書いてあるもん♪」
プシュ~っと顔が一気に真っ赤になった天宮に、朝比奈は再度聞いた。
「それで? 好きなの?」
朝比奈の問にコクリと頷いた天宮。
それを見た朝比奈はクスクスと笑っていた。
「ど、どうして笑うんですか!」
「いや、別になんでもないよ。ただ……」
「ただ?」
「つっきーは優しい人だよ。それはつっちーだって知ってるよ」
「……はい。私も桐生さんの優しさはその、す、好きです」
俯いてしまう天宮。
「もしかしたら誰かに取られちゃうかもよ?」
「ッ!? そ、そんなのダメです!」
声を上げてしまった天宮。樹を含め視線が集まる。
「どうした?」
「桐生さん、その、な、なんでもないです」
「そうか?」
「はい……」
天宮の顔が赤かったが樹は気にしないことにした。
「なら早く告白しないとね」
「こ、告白って……私には……」
「出来るって。勇気だよ」
天宮は樹にフラれるかもしれないと思うと、告白は出来ないでいた。
それならと、ずっと友達のままでいよう、そう思っていた。そんな関係でいいのかと問われると、物足りない、と答えてしまう。
もっと親密な関係になりたい。気づけばそう思うようになっていた。
「勇気、ですか……」
「そうだよ」
告白は何回もされてきた。でも、恋愛など興味が無かった天宮に、自分から告白することは難しかった。
「やっぱり告白は……」
「まっしーなら出来るよ」
それでも不安で仕方がない。フラれたらこの関係が終わってしまう。そんなのは嫌なのだ。なら、このままいいかと言われると否、もっと親密になりたい。
なら勇気を振り絞ってするしかないのだ。
「が、頑張ってみます」
「そうだよ!」
そこで丁度秩父駅へと着き、一条と朝比奈とは別れるのであった。
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