■■2章-ルイ育成計画本格始動-■■⑤
ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。を連載して一カ月が経過致しました。
今日まで読んで下さった方が遂に7,000を超え、大変嬉しく思っています。
拙い処女作ではありますが、お付き合い頂いている読者の皆さま本当にありがとうございます。
お陰様で高いモチベーションを維持して、執筆させて頂いております。
これからも頑張って更新して行きますので、
最後までお付き合い頂ければ幸いです。
何卒よろしくお願いします。
2018/10/04 おおまか良好。
先ほどまでの何処か迷いを浮かべていた表情とは異なり、
しっかりとルーファスを見据えるルイ。
少し厳しい言葉ではあったが、しっかりとこちらの意を汲み、
自力で立ち直った心強い後輩の姿に、ルーファスは喜色を浮かべ目を細めた。
「はははっ、それでいいっす。俺っちはあーしろこーしろ言うのは苦手なんすよ。
だから、身体で覚えてもらうしかないっす。駄目な先輩と思って諦めるっす。」
「大丈夫ですっ。全力で先輩の技、盗みますからっ。」
「はははっ、どんどん盗むといいっすよ。」
三度目の投擲が牙を剥く。
動じる事なく影から訓練用の大剣を引き抜き、
じっと迫るナイフを見つめ、軌道を読み切ったルイは、上段から一気に振り下ろす。
先ほどまでと打って変わり、大胆な行動で投擲を阻止したルイに、
ルーファスは、一瞬呆けた顔を見せるも笑顔で頷いた。
「技を盗みたければ、どんどん俺っちを追い詰めるといいっす。」
そんなルーファスの言葉に、
ルイは微かな笑みを浮かべて返礼の代わりと言わんばかりに、
新たに短槍を抜き出し、渾身の力を込めてルーファス目掛けて投擲した。
迫る短槍を容易に鋼糸を繰り絡め取ったルーファスをルイは目を輝かせて見つめる。
「なに楽しそうな顔してるっすか、後輩ちゃんもこれくらいならすぐ出来るっすよ?」
さも可笑しそうに笑い、そう口にしたルーファスは、
次から次へとナイフを投擲し、その全てを制御下に置きルイを包囲して行く。
襲いかかるナイフの弾幕に、怯む事なく飛び込み大剣を振るい続けるルイは、
必死に頭を巡らせ、この状況を打破する方法だけを模索する。
何故、気配察知で感知する事が出来ないのだ。
そもそも気配察知で捉えられない等と言う事があるのだろうか。
答えを求め足掻き続けていたルイは、不意に魔法の訓練を終えた時の、
リズィクルが口にした言葉が脳裏に蘇った。
『くくくっ…さて、ルイは見ての通り無事だぞ?
貴様も幼子の様に隠れていないで、姿を見せたらどうだ。』
ルイは訓練中、ルーファスが側にいる事に全く気付けなかった。
だが彼女は、ずっと察していたかの様な態度を取っていた。
微かに抱いたその違和感にこそ、求める答えがある気がする。
リズィクルには出来るのに、技能を使える自分に出来ないのは何故だ。
(そもそも出来ない事を無理に強要する様な先輩じゃない…。
じゃあ、出来ないんじゃなくて、僕が気付いていないだけ…?)
思考を繰り返すも動きを止まる事はない。
迫るナイフ、絡め取ろうと周囲を蠢く鋼糸。
そして、淡々とルイが決定的な隙を見せるのを待っているルーファス。
マサルの武器を模した戦斧に持ち替え、身体全体を使いナイフを鋼糸ごと跳ねのける。
遠心力と重量のある戦斧の一閃は、全てのナイフと鋼糸を弾き飛ばし、
ルイの眼前に、ルーファス至るまでの道筋を拓く。
突如降って沸いた好機に、ルイは一気に加速してルーファスの懐に潜り込んだ。
「…いらっしゃいっす。」
笑みを湛えたままルーファスはそう告げて、笑みを深くした。
すぐにルイは、自身が危険地帯に誘い込まれたと知り、失策を悔いる。
(誘い込まれたっ!)
ルーファスに肉薄したルイは背後に、
打ち据えたのナイフが鋼糸に繰られ鎌首をもたげる気配を感じ取っていた。
だが、そちらにばかり気を取られてしまえば当然、目の前にいるルーファスを見失う。
刹那、迷ったルイは動きを止めてしまう。
そんな隙など見逃すはずはないと、
ルーファスは長い腕をしならせ、鉤づめと化したナイフをルイに振り下ろす。
――ギャリリリッ
冷静に手首を返し戦斧の腹で受け、身体ごとぶつけルーファスの攻撃を押し返す。
前方の対処を優先したルイの、がら空きになった背後迫る弾幕。
片手間で対応できる数ではないその荒波に、
ルイは短く嘆息しルーファスから視線を切って、弾幕と撃ち合う事を選択する。
そして、一言呟いた。
「あ…そういう事か。」
(まあ、背後からあんなにナイフが襲ってくれば放置は出来ないっすよね。
それにしても後輩ちゃん何か掴んだっすかね…。
さっきまでと、また一段階動きが良くなった気がするっす。)
あまりにも呆気なくこちらを見限ったルイの行動を見て、
ふとそんな考えが過ったルーファスは、安易に背後を襲う事を選択せずに、
ルイの背に数本のナイフを投擲して、景色に溶けて行った。
「…もうっ、置き土産の質悪いっ!」
ルイは声を荒げて影から剣を取り出し、
背後から迫るナイフを見る事なく叩き伏せて見せた。
「あらら、いい動きじゃないっすか。」
ルイに届かない程度の声量ではあるが、ルーファスは思わず感嘆の声を漏した。
濁流となって襲いかかる鋼糸とナイフの猛威に、再び包囲される形となったルイは、
その場でくるりと回転し戦斧を濁流に投げつけ動きを鈍らせた。
手元に残った剣を左手に持ち替え、弾幕に対し更に距離を詰め、
詠唱を口にしたルイは、影を繰り、再び短剣を取り出し逆手に握る。
(数はとんでもない事になってるけど、動きは少し単調になってる様な気がする。
速度も怖さも…ポンコツ師匠には遠く及ばないっ。)
剣を逆袈裟に振るい数本のナイフを弾き、
逆手に持った短剣でルイの死角から迫る鋼糸振り払う。
その間も、次々と迫ってくるナイフと鋼糸を1つ1つ丁寧に対処して行く。
夥しい手数の攻撃ではあるが、どれも軽く、そして遅い。
鬼気迫る圧力もそれらから一切感じられない。
(……先輩を捉えきれなければ意味がない。)
ルイは必死にルーファスの気配を探し出す。
きっかけは掴んだ。
あとは、精度を高めるだけ。
深く深くルイは集中力を高めて"その時"を待つ。
(……見つけたっ!)
刹那、くるりと反転して虚空に鋭い剣撃を一振り。
――ギィイン
つんざくような金属音と共に軽い火花を上げる。
虚空からルイの剣を防いだナイフ、そして徐々に溶けていたルーファスが姿を現す。
その顔には、先ほどまでの余裕の笑みではなく、少しだけ驚きの色が浮かんでいた。
「…これは流石に、驚いたっすね。」
「…当てるつもりだったのに。」
心底悔しそうな顔で、物々しい言葉を零すルイ。
「ははっ、物騒な後輩ちゃんっすね!」
ルーファスは鍔迫り合いを拒み、
軽く後ろに跳躍するとすぐさま手にしたナイフを投擲。
鬱陶しそうにナイフを弾き迫るルイを鋼糸を繰り牽制する。
(くそ…うまく捉えたのに、簡単に逃げられたっ。)
短剣を持つ手に素早く鎖を巻き付け、包囲する様に迫る鋼糸を横薙に振り払う。
質量を持たない鋼糸がいくらまとめて襲いかかろうと、
遠心力を加えた鎖は一気に鋼糸を蹴散らして行く。
束の間の間隙、ルイは少し離れた虚空を睨みつけ、一気に駆け出す。
微小な気配ですら感知することが出来なかったルーファスの気配がそこにある。
ここまで幾度も翻弄され続けてきたルイは、漸くそれを捉える事を可能にした。
それは、突発的に何かが開眼した訳でも、新たに技能を得た訳でもない。
ルーファスに背を向け、濁流に挑むと判断したルイは、
1つの可能性に思い至り、その最中、幾度も試行を繰り返していた。
"魔力障壁の多重展開に倣い、幾重にも気配察知を展開させる事が出来るか否か"。
これは、実際リズィクルがルーファスの気配を感知していた方法とは全く異なる。
だが、そんな事を知らないルイは、何度も何度も無心で重ねて張り続けた。
当然、初めての試み、すぐに成果は得られるはずはない。
試行錯誤する時間を得るためだけに、ルイはナイフと鋼糸の濁流に身を投じた。
回避するのでは無く、あえてその中に紛れ込んでしまえば、
ルーファスが突然背後から襲いかかる事はないのではないか。
ルイの思惑通りだったのか、ルーファスが鋼糸術をルイに経験させるためだったのか。
それは定かではないが、事実ルイはその限られた時間で、
多重展開の感知網を組み上げ、ルーファスの気配を捉えるに至る。
「もう逃がさないっ。」
気勢を上げて一気に蹴りかかる。
虚空から再び姿を現せたルーファスは、顎に迫るルイの踵を首を軽く傾けてかわす。
「あははっ!!凄いじゃないっすかっ!」
ルーファスは、可笑しそうに声を出して笑う。
ルイはそれに笑顔で応じ、足下から密かに迫りくる複数のナイフの群れを、
後ろに軽く宙返りして回避した。
「あら、昨日の後輩ちゃんの真似してみたっすけどね。
簡単にかわされちゃったっす。」
「…"過剰演出ですよ?"先輩。」
「あははははっ!こりゃ一本取られたっすねっ!」
危険地帯から難なく逃れたルイに称賛の拍手を送るルーファスに、
意趣返しだと言わんばかりに笑顔でそう口にした。
目に涙を湛えて腹を抱えて笑うルーファスの周囲に、
鋼糸が沸き上がり不気味に蠢く。
ルイは20程度までは律義に目で数えていたが、
増殖を止める様子もないので数えるのを止める。
「ははっ、ねぇ先輩?僕もそれだけ操作できるようになれますか?」
ルイは、興味津々と言わんばかりに目を輝かせ問う。
漸く笑うのを止めたルーファスはゆっくりと溶けながら答えた。
「後輩ちゃんは、せっかちっすねー。
訓練中に、事後の事を考える余裕なんてあるんすか?」
溶けゆくルーファスの放った言葉を受け、影から棍を抜き出す。
ゆったりと腰を落とし虚空を睨みつけ、深く、より深く集中する。
(もう…見失わない。)
束の間の静寂を破り、何度目かのナイフの群れがルイに襲いかかった。
ルイは、軌道を読み切り数本のナイフを掻い潜り、
ナイフに紐づいている鋼糸目掛けて棍を振り上げ絡め取る。
「…それは悪手っすね。」
ただ虚空を切り裂いた棍からは、なんの手ごたえも伝わってはこない。
漸く失策に気づいたルイの耳に、悪戯めいた呟きが届く。
「だって、それ。単純に投擲したナイフっすよ?
回避だけすれば良いのに、わざわざそんな物振りまわして遊んでるっすか?」
(おかしいっ、声は近くで聞こえるのに、気配がまったく感じられないっ!)
多重感知が失敗しているのか、ルイはすぐにその考えを捨てる。
じゃあ、何故再びルーファスを捉えられない。
困惑のあまり、一瞬ではあるがルイは動きを止めてしまう。
――トン。
「はい、終了っす。」
ルイの頭に手を置いて、優しい声音に戻ったルーファス。
未だに困惑から抜け出せないルイは複雑な表情で、
すぐ隣に立つルーファスを見つめる。
「いやいやいや、そんな顔しなくていいじゃないっすか。
俺っちもやっぱ師匠らしいとこ見せとかないといけないっすからね。
そんなことより鎖術に関しては、一本であれだけ扱えれば文句なしで合格。
気配察知(サ-チ)に関しては、正直驚いたっす。三戦目から抜群に良くなったす。
……でも、存在遮断と絶歩はどうしたっすか?
あの程度の速度のやり取りで、使えない熟練度では問題外っすよ。」
ルーファスの手厳しい総評にルイは跋が悪そうに頭を掻く。
指摘されるまですっかり、その存在を忘れていた。
「…なるほどっす。自分の手札を夢中のあまりすっかり忘れてたっすか。
エドっちとばかり訓練してると後輩ちゃんが、
ただ力任せのアホに育つっす…これは深刻っす。」
「…言葉もないです。」
眉根を顰めて呆れるルーファスの言葉は、
容赦なくルイの胸に突き刺さり、ルイは申し訳なさそうに顔を伏せる。
「はぁ…今後は自分に出来る事を、うまく組み合わせて行く事を意識するっす。」
さてさて、反省会は後で1人でやってもらうとして。
鎖の扱い上手くなったら教える約束だったっすからね。
これあげるから、練習して見るっす。」
アイテムボックスから、少し年季を感じる手甲を取り出し、ルイの両手につけていく。
先程まで、ダメ出し落ち込んでいたルイも、
途端に元気になって、興味津々に手甲を眺めている。
「鋼糸の訓練は、ちょっとした失敗で手を切っちゃう事あるっすから。
俺っちが合格出すまで、鋼糸の訓練は必ずそれを付けるっす。
それさえつけてれば、間違って手首削ぎ落す事もないっす。」
ルイは目を見開いて自分の手首を摩り、何度も頷いて見せる。
「まあ、最悪手首くらい吹っ飛ばしてもマサルがさくさくーって、
くっつけてくれるっすよ。そんな心配しなくていいっす。
俺っちも何度かお世話になってるっすからね。」
陽気に自分の手をひらひらさせて物騒な事を口にするルーファスに、
ルイは口を広げ驚愕に顔を染め上げる。
そんなルイを放置して、ルーファスは再びアイテムボックスを漁ると、
小さな箱を取り出してルイに手渡した。
「レオっちに、こっそり頼んで作ってもらった後輩ちゃん用の鋼糸っす。」
手渡された箱を開けると、黒くて細い指輪が10個奇麗に並べられている。
「鋼糸なんですか、これ?」
「レオっちお手製の鋼糸の魔道具っすよ。」
ルイの問いに、笑みを浮かべてその小さな魔道具を次々にルイの指に嵌めて行く。
両手の指の第一関節に当たる部分で、
魔道具は仄かに魔力を出し発光すると、
幼いルイの指にあわせてサイズ調整されて行く。
「指先に、ほんの少し魔力を流してみるっす。」
その言葉に戸惑いながらも頷いて、指先に魔力を灯すと、
黒く艶の無い鋼糸が人指し指の指輪から音も無く伸びて行く。
ルイは魔力を流し続け、どこまでも伸びて行く鋼糸に感嘆の声を漏らした。
「おお…。なんか…凄い。」
「うんうん、その気持ち凄くわかるっすっ!
俺っちも、これを初めてもらった時は、後輩ちゃんみたいにはしゃいだもんす。
これは魔力込める量で強度や長さが調整出来るっす。
どの程度でどの長さで、どれほどの強度になるかは色々自分で試すといいっす。」
ルーファスはそう口にすると、片手から3本だけ鋼糸を産み出すと、
周囲に散らばっていた投擲ナイフを回収して見せる。
「慣れるまでは、3本まで。様子を見て増やして行くっす。」
真剣な面持ちで、鋼糸を操作するルーファスを観察していたルイは、
小さく頷いて見せると、鋼糸を生成してルーファスを倣い自身の武器に向かわせる。
「うんうん、流石後輩ちゃんすねー。初めての操作でそこまで出来れば、
すぐにでも本数増やせるっす。
その調子で、鎖の時みたいに色々試してみるといいっす。
ただ怪我した場合はすぐに誰かに見てもらう事。
これだけは、俺っちと約束するっす。」
「はいっ、ちゃんと守ります!」
「いい返事っす。これでいちいち影から鎖出す必要は無くなったすね。
いちいち詠唱して取り出す武器は、暗器として失格っす。」
ルーファスが何気なく口にした言葉で、
鎖の訓練だと口にしつつも、
なかなか取り出す機会を与えなかった訓練の意図に気付く。
「体験すると忘れないっす。」
ルイの表情を見て、何を考えているか察したルーファスはそう口にして微笑む。
感情の機微を度々察する師匠たちの観察眼に乾いた笑いを漏らし鎖を見つめる。
鎖は鎖で扱いになれ愛着もある、手放すのに一抹の寂しさを感じていた。
すると詠唱はもちろん、魔力すら流していないのに影が鎖を飲み込む。
ルーファスは怪訝な顔でルイを見つめるが、
ルイ自身何が起きたかわかっていないようだ。
再び影が激しく蠢く、息を呑んで2人が見守る中、影は"黒い鎖"を吐きだした。
――ジャララララ…。
「なんすか?!」
「なんか出た……。」
ルーファス
「俺っちの暗器がどーこー文句言ってる割に、後輩ちゃんが使えるようにするって…。
後で戦闘シーンの描写に苦しむ事わかってるんすかね。」
ルイ
「あはははっ、一カ月前の文章よりは多少の上達が見られるって褒められて、
来月の自分に丸投げでもしようと考えてるんじゃないですか。」
ルーファス
「後輩ちゃん、なかなか手厳しいっすね…。」




