ー悪魔の正体 3ー
お久しぶりです。今後ともよろしくお願いします。
元々、俺の周囲には奇怪な女が多かった。
産みの母然り、育ての母然り・・そして俺を救った赤い悪魔然り。
普通のとつく人間が少なかったと思う。継承権のない第四王子にまとわりつく令嬢は、俺の顔と金が目当てであったしなによりもそういう女たちはどこまでも頭が空っぽだった。
取扱いは容易い。優しく甘く、時に謎めいて・・俺はそんな人間を演じた。
第四王子だからといって野心がまったくないというわけじゃないとそう装えば面白いぐらいにバカが釣れた。
それを狩るのが俺の役目だ。
だが目の前の女の様な奴は初めて過ぎてわからなかった。
ついつい天然バカ王子に聞いてしまうくらいには、わからなかったのだ。
そして俺は、婚約を結んだとはいえ、まったくと言っていいほどあちらからの接触はなかった。1ヶ月程は二人での行動は控えてくれとそうこちらの国王からも言われてしまったのは意外だったが、その間に俺はいつの間にか毒を盛られていた。
食べ物ではない、ガスか、それとも魔術か・・そのどちらとも考えにくい。ただ、だんだんと倦怠感と吐き気、めまいが酷くなってきている。神経系に作用する薬だろうが、その摂取経路が分からないため食事もほとんど口に入れなかったがそれが余計俺の体力を削った。
そんな中で様々な茶会や夜会、パティ―に出たのは、意地だった。
俺はこんな事では屈しないという意思表示・・・ただ一つだけ気になるのは、レヴァンへの宣戦布告なら俺を病死にみせかけるようなこんな手を使わないでもっと手っ取り早い方法がある筈なのだ。
なのに、こんな手の込んだ方法を取るというのはどういう事だろう。
そこから考えられる相手があの悪魔の娘だった。
一応は婚約者だ。そして国王からの命令だったからと・・あの夜の冷酷な横顔が思い出された。
いや・・あいつは言った。あの言葉に嘘はないと感じたんだ。
だから賭けをした。1ヶ月経った後に・・俺は動いた。
そしてそれは確かに相手をこちらへと呼びだすきっかけになったのだ。久しぶりに会ったあいつは、あの日見た姿とは違い、やはり意図して母親を思い起こさせる姿をして俺の前に居た。
王妃主催の茶会に遅れて現れたココットは、どこまでも美しい所作でこちらへとやってくる。
久しぶりに見る彼女は、やはり日の光より月の光が似合う容姿をしていた。
彼女を大げさに迎え入れれば、その表情が一度固まったがそのすぐ後にはなにもなかったように、こちらへとやってくる。
その後は、腹話術で会話をしながら、互いに話して、彼女があの天然王子の言う本物のココかその確認のために秘密の庭園に連れて行ってもらえば、美しく整えられた庭園の裏手に無造作に造られた小さな庭がそこにあった。
小さいく花は少ない、あちらこちらに見覚えのある解毒作用のある薬草があったり、逆に猛毒の毒草もある。
見た目は小高い丘だが、そこに置かれた小さなベンチは子供の手づくりらしいものだった。
思ってたよりも美しい場所だったし、小さな小さな水たまりのような貯水所まであるのでここの花たちは随分恵まれているのだと思った。
互いが互いの本音を言うのはどうも骨が折れる事だったが、それでも相手の気持ちをしっかりと聞ける機会は今しかないと俺は思った。
俺は多分、この時を待っていたんだ。
思い通りにならない体、自身の立ち位置の不確かさ。
その全てをこいつに。
ダブリス国とレヴァン国。
その二つの違いは、大きい。そして国の在り方は、その国の王家の在り方とも重なる・・はずだった。
俺が知るダブリスという国は、とてもちぐはぐだった。
軍事力だけは無駄に大きいまま、国の食糧自給率は酷く悪く商業に対してもあまり明るくない。過去の戦績で得たものを遣い潰す事でなんとか成り立ってきたこの国をどうやってまとめているのかと疑問に思って、なんどか秘密裏に訪れた事だってあるくらいだ。
そして俺はひょんなことからこの国の第一王子と文通友達となった。
彼がダブリスの王子だと最初は信じられなかったぐらいに天然でどこか危なっかしい奴がどうしてあの国で王家として立っているのかそれが気になって仕方なかったから文通は今まで続いていたともいえる。
そしてその秘密が王家の姫が嫁いだホップキンスにあると知ったのは、つい先日の事だ。
それを本人からも確認を取れば、納得がいった。
そしてその戸惑いが滲む顔には俺への不信が透けて見えた。あたり前だ、まさか自身と同じような事を隣国の王子がやっているなんて思いもよらなかっただろうから。
まぁ、これはお互い様だろうけど。
まさか俺だって公爵令嬢が密偵なんて状況がおかし過ぎるだろうとわかるのだ。そう思いながら、彼女を伺うと彼女もまた俺を観察していた。
このままじゃ埒が明かないと俺は、自身の内情を僅かに見せた。まぁ、あんな国は侵略でも略奪でもなんでもされて構わない。今の王に抵抗の意志はないだろうしなによりもあの次男を殺してくれるならいい。
長男である王太子はまだ未熟だが王妃が教育を施してあるらしいから、なんとかなるはずだ。
次男だけをどうにかできればいい。
それだけを思って、彼女に“フォレス”の話をした。元々これが原因で出逢ったのだ。相手にとっても邪魔なものの一つだと思う。
そして俺の思惑は思いもよらず上手くいった。
彼女はその顔を母親そっくりに歪めて、微笑み俺に手を伸ばす。
契約だと。
悪魔の娘らしいその姿に誰もが魅了されるだろう。だが俺にはそれが虚勢であることがわかった。なぜならその瞳が曇っていたからだ。
あの日みた横顔には程遠いものに誰が惹かれてやるものか。
そして俺は、彼女のその手をとった。
お手並み拝見だ。そう思って彼女に俺は俺がこの1ヶ月で手に入れた情報を提供したのだ。




