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―悪魔の正体 2―

周囲が忙しく少し更新が遅れますが、どうぞよろしくお願いします。

俺にとってあの人は、兄であり父であり・・師だった。

騎士の地位を持ちながら、何故か暗器まで操る人で母にとって彼は自身を守り愛してくれる最初で最後の人だった。


俺の名はユーリ、ユーリ・フォン・レヴァンだ。現国王と正妃から生まれた正当な第一王子だった。

過去形である理由は、面倒だから割愛するが、とにかく俺は、第一王子として生をうけたが、その生まれを側妃からと偽り第四王子として育てられた。


そう、俺には弟が一人いる。

彼は決して王位は望まないし望めない。その髪色もさることながら、その性質が彼の父と瓜二つだからだ。

弟が病弱という設定にしたのは、俺だった。

あいつが生まれる前にはあの人は死んでしまったから、彼を守るためにはそれしかなかった。王位なんて望ませない・・こんなくだらない国のためにこいつは居るんじゃない。

何がなんでも幸せにしてやる、その一心で俺はこの手を血に染めてきた。


「どうしてこんなんになってんだろう・・」


守るべき人はここには居ない。だが勅命に逆らえる程力もなく、俺の前には今現実とは思えない光景がある。

まさか今回の遊学が実母の裏切りが発端だなんて知りたくなかったし、まさかのセレン様までそれに署名していたのが解せない。でも確かに王家の印があったしなによりもよく知る署名に本物だとわかってしまった。

ウソだと誰かが言ってくれればいいがそうもいかないらしい。


俺がこの国に遊学という名目の人質とされるのは、古くからの習わしだと言っていた。あの人やっぱなんかたくらんでたんだなぁ。

『人質って怖いかしら?』とそう笑顔で聞きながら紅茶を飲んでたし。療養中の側妃でありながら楽しくお茶会なんて開いてくれたのはこういう訳だったのかとやっと得心が得た。

俺がこの国に来る直前に突然王宮に帰って来たと思いきや城内で茶会を開いたあの人にの考えは、やはり姉である正妃と同じで読み切れない事が多い。

彼女なりに最後の別れとしてくれたのだろう。


俺はいつも誰かに守られている。


ーーー

殺気立つ自身を抑え込む事がなかなか難しい。

一度は殺されかけた相手だったし、なによりもあっちとこっちでは、立場が違い過ぎる。

この少女は俺の事をどう思っているのか判断できない。

俺が殺されかけた相手は、公爵家の令嬢であの悪魔の娘・・・もう一度殺される事になる可能性だってあるのだ。とてもじゃないがこの国を信じることは俺には出来そうになかった。

歓迎のために開かれた夜会、そこにはあの悪魔と瓜二つの少女が俺の前にいた。出来るだけ隙を見せないように逆にあちらの虚をつくことを目的に言われていた場所に向かうのではなく、彼女の部屋を直接訪ねたのは失敗だった。

予想通りの反応を返す彼女は、やはりあの夜に自身の敵を薬で中毒死させた人間には思えない程の美を纏っていた。

真っ赤なドレスは確かに彼女の母親を連想させ、その容姿がさらにそれを助長させた。

あの日俺を助けた全身を真っ赤に染めた悪魔の姿が重なる。身の内に走る恐怖を誤魔化すために虚勢を張る自身の言葉は、とても女性にかけていいものではない。だがこれくらいの挑発にのるような相手なら俺の護衛としては役不足であると言えた。

だからこそ俺は確かめるために無礼な態度を装う。

もう裏の姿は知られているのだ、別にこれくらい・・そう思っていた時だ、刺客が現れたのは。

その刺客は、とても刺客とは言えないお粗末な相手で、予想はおおまかについた。

ここまで怯えながら命を狙われたことはなかったが、まさかそれが自害という思いもよらない方法での攻撃だとは思わなかった。

一瞬の隙・・それは確かに俺を守るために出来たものだった。それに気づいたのは俺が反射で動いた後だ。少女の手に鈍く光る刃を見つけ、それが小さな胸に突き刺さる数瞬を見逃す事はできなかった。

その瞳が流す雫が落ちる前に、床を蹴って拳を細い手首に当てて、服毒もあり得るとそう判断して、返す手で細い首に手刀を入れた。上手く入ったそれは、確かに少女の意識を刈取ったが、その数瞬もなく殺気が再び俺達を襲った。それは俺に向けられたものだったが、それは見事にドレスを纏った悪魔に制圧された。

恐ろしくも無音でだ。

絨毯が上質だった事もあるが、彼女はそれを高いヒールで動きにくいドレスで行ったのだ。

背筋に冷たい何かを感じたのはあの日以来だったが、確かにあの日俺を殺しかけたのはこの少女だと確かめるには、十分だった。

その後、何故か婚約についてあちらが提案してきた筈が隣の少女の顔色が王の宣言に真っ青になったのは見ものだった。

とにかく段取り通りにダンスをしたが、あまりの顔色に俺が一興を演じた。

周囲は俺と彼女の姿に釘づけだったが、俺はそれよりも会場内からいくつもの殺気を感じ、それの確認を急いだ、明らかに目の前の少女の家族が主な相手だったのは意外だった。ついさっき見事に敵を制圧した筈なのに、最初は脅えられているらしく俺のリードと僅かにズレていたダンスも言葉を交わせば、しっくりと収まり・・その心地よさにずっと踊っていたくなった。

数分の間を楽しんだ俺は、彼女を抱き上げる。

羽根のようとは言えない。ただ面白いくらいに簡単に腕に倒れ込んだ体はヒールによって俺より高い身長、細いとわりには随分と重い・・そして硬い感触。

どんだけ仕込んでんだかとそう呆れながら、俺が場を後にしようとすると2年ぶりに逢った赤い悪魔が怒りに燃えていたのはある意味それまで受けていた殺気がそよ風に感じる程のものだった。

部屋を移ししばらくの雑談を終え、俺は歓迎会に戻ったが、とにかくこの国での立場を確立するためにそして理解するために俺は奔走した。


まぁ、概ねわかったのは、俺は“狼の群れに入れられたの羊”という事。


分かりやすい反応を返す者、内に野心を持つ者。と様々でありながら、俺は自身の容姿を生かして一番懐柔がし易そうな相手達を相手にした。まぁ、比較的若いご令嬢たちだ。

彼女たちを利用するために出来るだけ愛想のよいそしてこの国の王子とは違う部分を持って彼女たちに近づく。

この国に正式に招待されたのは初めてであったが、俺の珍しい容姿を褒め称えながら、俺の傍にやってくる女たちを利用するのは、自国では慣れたものだったので、そう時間もかけずかなりの人数の女性たちとコンタクトを取る事ができた。

男性の方は、俺に近寄る相手のほとんどが多分俺の敵だろうとわかる。

対応は、工夫させてもらった。

とにかく、使えそうな相手なら、俺はなんでも利用するつもりだ、たとえそれが俺の寝首をかくような相手でもだ。


そう思っていたが、今目の前の少女は、とてもあの悪魔の娘とは思えない状態になっていた。

淡い金色の髪を緩く編み、若草色のドレスを纏い控えめにほほ笑む。

その少女があの悪魔の娘なんて誰が信じるんだ。周囲は彼女の部下である人間が数名固まっていて2人程が俺に殺気を放っている。

まぁ、理由は、さっきまでのご令嬢との事だろうとわかるが、まさかのタイミングだった。

昨晩一番話した相手だったが、まさか朝にこんな庭園で偶然に逢うなんて、明らかに罠だろうとそう思って対応したが、思い過ごしだったらしい。

少女はただただここに別れを告げに来たとそう言って微笑み、俺に庭を案内してくれた。

それだけだった。


そんな所を見られたのだ。

俺自身は、なにもやましい事がないがなんとなく婚約者である人間に見られるのは気まずい。つい言葉に棘が出てしまうが、それでもついつい目がいく。

淡いブロンドと金の瞳は昨晩とは違い、柔らかな印象のドレスとあいまって春の女神のようだ。

同じ容姿であるのに持つ色が違うだけでこんなにも印象が違ってくるのだろうか。


そんな彼女が俺の不調に気づいたらしい。

まぁ、原因もまた彼女だから笑えないが、俺の右上腕には未だに痺れのような鈍痛が残っている。1ヶ月以上前に解毒の作業をした時に自分でも驚くほど上手く出来た筈が、やはり悪魔の毒だったのか、後遺症のように右上腕に痛みが残った。そこには昔ヘマをして刀傷があるのだがそれが痛むのかと誤解するぐらいの痛みだ。

俺に手を伸ばす彼女は、少し迷うようにそれでも俺の状態を確認して針の治療を試みてくれた。

仕込み針であるこれに毒が仕込んであるなら俺は一瞬で死ぬであろう。

だから聞いた。

彼女の気持ちを。


真剣に俺の状態を計るその横顔は、あの夜に見たものと同じとは思えない程清廉で美しい。


「なぁ、俺に生きて欲しいか?」


俺の問いに確かに応えた彼女の瞳は俺をまっすぐに映していた。

その光に見惚れたのは俺の一生の不覚ともいえた。











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