表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/38

手を組む事 26

私達よりも随分と優秀な情報収集能力をお持ちのようで、彼からもたらされた情報は私も掴んでいない事だった。

って言うか・・銀の帆って確かうちで2番目の魔法ギルドの師団じゃないの。

商業ギルドと併設していて荷物の護衛をする事もあったり、魔法の内包した装飾品を売ったりしている。


「怪しい奴って・・」


「吟遊詩人なんて今でもあるなんて面白いよなぁ・・」


「吟遊詩人・・・あのハープを持って物語を語る?」


「・・いやハープかはわからんが・・ここ5年程で有名になった奴が一人いる。」


「5年・・ですか」


調度それくらいのタイミングだ、中流貴族の中にフォレスが出回り出したのは。


「まぁ、俺が調べられたのはごく一部で・・ご令嬢もご婦人も口が堅い・・・後はお前次第だなぁ」


嫌味かしら・・一々とムカつくなぁ。


「私次第?」


「情報収集は、女性だけじゃ偏る。俺も一応まだ男も誘惑出来るんだが・・お前がやった方が早いだろう?」


なんだろうか・・・バカにされてる?

そう思いながらも彼の意見は的を得ているのでどうにもならない。

そう、その吟遊詩人というのが女性をターゲットにしているのなら、もっと私の元に情報が集まってもおかしくない。

これでも公爵令嬢であるのだ。

ならその吟遊詩人というのは、女性だけをターゲットにしているのではない。そして中流階級という所が何となくだが曲者だ。


「わかりました・・・お時間を・・3日程いただきます。」


「3日・・かかり過ぎだ。奴が来るまでにそれなりに情報が欲しい」


「5日後なら」


「5日後にギニア子爵の四男の誕生会だぞ?明日までにそれなりに集められるだろう・・お前なら」


ギニア子爵・・つい先だって子爵位を買った男だ。

目の前の人と最初にコンタクトを取った相手だとも記憶していた。


「俺をどうしたいのかわからんが、誕生会に呼ばれたよ、自身には3人の娘がいると自慢してたなぁ」


武器商でもある彼は、奥方以外にもう一人愛人を囲っていてその愛人の方が3人の娘を産んでいる。本妻には男児を愛人には女児を産ませる事が出来た不思議な男だった。


「そうですか・・」


「その四男がお前にご執心だと聞いたが?」


「・・・そうで・・初耳ですね」


初耳だよ・・っていうかこういうのをよく婚約者に言えるなぁ。

色仕掛けをしろなんて。


「2日だ・・それまでに俺は俺で準備する・・お前が手を組むと言ったんだ。俺につけてる監視は俺の手足にするぞ、いいな」


「・・わかりました。2日でどうにかしますが・・あまり変な動きをされてどこぞで殺されてもしりませんよ」


護衛だと言っているだろうが。

イライラしながらもそう忠告すると彼はまるでなにもないかのように楽しげに笑った。


「俺を殺せるのは赤い悪魔ぐらいだ・・」


たいした自信の持ち主だなぁ。


「わかりました。では・・2日後に同じ時間にもう一度ここでお会いしましょう・・・」


たった2日で有力な情報を得るために私は思考を巡らせた。


ーーーーー


だから・・・嫌なのだ。


「・・・あの・・ココット様?」


「いえ・・何も・・その手を離して下さらない?」


偶然を装いギニア子爵自身とお茶を共にして10分。

もういい加減にしてほしい。何故握手し手を離さないのよ・・10秒超えたらセクハラよ。

たった2日しかなかったが、ギニア子爵は王都に居た事が幸いした。

なんとか彼が贔屓にしている店を見張らせて偶然を装いお茶に招かれる事に成功した。

これでなにも得られなかったら絶対許さない。


「っすすみません!私としたことがっ・・そのこちらは我が領ではその有名な菓子なので・・早く他のも持って来い」


傍についている侍従にそう命令する男は、見た目だけは、優男だった。

武器を取り扱う事が多い事業主で野心家であるこの男とあいさつするのは、実は2度目だ。

そして私の家がダブリス国軍の中心となる家・・・彼が武器商である事からこうなることはわかっていた。


「・・本日は・・どのようなご用向きでしょう?」


「いえ・・ただちょっと」


「お気に召すような商品があれば、此度の取引は勉強をさせていただきますよ」


下卑た笑いだった。男が広げる紙に書かれた様々な設計図には剣も盾も・・魔法道具もある。

まだ10分だ・・テーブルを埋める紙の数はおかしくないだろうか。


「これは?」


「御眼が高いですねぇ・・フェルベスにはまだ流通していないものでして・・中々ですよ・・風魔法を込めたものですが・・殺傷能力はとても高い」


「そう・・」


「楽しみですねぇ・・ホップキンス家からのお声を待っておりました・・・こちらも、お急ぎであれば半月いただければそれなりに数を揃えられます。試し用ならこちらにご用意いたしますが」


「いえ・・大丈夫よ・・今日はちょっと」


「もしや娘がなにかやらかしましたか?」


だから、違うってば。

まぁ、子爵は珍しく愛人に産ませた女児たちも分け隔てなくというか・・存分に彼女たちを利用していた。


「いえ・・・・そうでもなくて先日、私の婚約者から教えていただいたの」


「ご・・誤解です。我が娘はあなた様の婚約者を奪おうなどとは」


「だから、お聞きになってっ!!!」


「はい・・」


「その・・・ユーリ王子が、そちらの四番目の」


「あぁ、バレットの誕生会ですな・・・あれが無事に成人の18を迎えるので、ユーリ王子にももしお暇ならとお誘いをさせていただいたのです。こちらの文化をお知りになられたいと言われてましてそれに他の貴族の方々にも交流を持ちたいからと」


「そうなの、でその・・その席に私まで行ったら迷惑よね?」


私が招かれるには子爵というのは少し低すぎる地位に位置するのだ。それこそ強いコネが必要になる。


「いえいえいえいえっそそんな・・」


「彼と婚約者になってまだ・・・1ヶ月ちょっとで・・そのどう交流を持てばいいかわからないの」


そう言い淀んでみれば、男の顔は下卑た笑みを一瞬だけ浮かべた。

分かりやすい人で助かる。


「そうだったのですねっ!ならっどうか我が家のパーティーをご利用してください。」


わかりやすいってば・・せめて隠せ。

彼の顔には、私とユーリ王子の仲があまりすすんでないなら、自身の娘を王子に近づかせて、私自身には息子をと書いてあった。

そして私とユーリ王子の仲を裂いてしまい、レヴァンとの戦火の種をとまで考えているのだろうと想像できる。

彼は、武器商人だ。もし自身の娘がユーリ王子と上手く行ってもそこは親としてどうにでもすると考えているのだ。

失意の私の前に自身の息子がいてその息子を通してホップキンス家との繋がりを持とうとまで考えている。もしどちらも上手くいかなくて、私とユーリ王子の仲が良くなれば、その機会を与えたのだからと言ってくるのだ。


「よろしいの?その・・私がいると・・その皆が楽しめないのでは」


「そのようなこと、ありませんよ。我が息子は、喜びましょう。他の方々もお家が釣り合わないので今までお話も出来なかった方も居ますが・・・その・・そこは無礼講としていただければ」


「かまいませんっ!その・・後・・お願いがありますの」


私の言葉に男の顔がニヤリと嫌な笑みを浮かべた。


「なんなりと・・」


「・・そのユーリ王子から聞いたのだけど・・その銀の帆のギルドからその客人を呼ぶと」


「あぁ、ブラドの事でしょう・・彼は有名でして」


彼が予想もしてなかったという風情で応えてくれる。


「そうなの?」


「伯爵位ぐらいの方なら誰もが知っている歌い手ですよ。あの声はなかなかですが・・そのどうも容姿がネックでして」


「容姿?」


「そうです・・なにやら遠い昔に大やけどを顔に負ったとかで顔の半分が銀の仮面に覆われております。」


「そうなの・・それはかわいそうに」


「えぇ、声と彼の持つ魔法道具が奏でるおとぎ話を謳ったものはなかなかです」


「あなたがそこまで言うのだから、素敵なのよね?」


「はい・・ブラドを紹介しましょうか?」


「いいの?」


「お任せ下さい。・・そのでは後日当家より招待状を送らせていただきましょう。ユーリ王子と連名でよろしいでしょうか」


「えぇ・・そうだわ、誕生会ならなにか贈り物を用意しておきます。ユーリ王子とお話して決めますけどよろしいかしら?」


「そっそんな滅相も」


「いいえ・・誕生会ですものね。楽しみにしてるわっ」


私がそう告げれば彼は恐縮しながら、私にそう告げた。その後いくつかの世間話をしながらも、ブラドという男についてそれなりに情報を得た私は、それを元に他のお庭番たちを支持して他の家にも探りを入れたのだった。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ