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―閑章 2ー

青々と生い茂る森の木々の隙間、木漏れ日が彼を照らす姿は、とても綺麗でさっき見た牡鹿のような雄々しささえ感じる。

背を伸ばして進む足はとても慣れているようで僕と違って頼もしい限りだ。


「ユーリはどうして旅をしているの?」


「あぁ・・俺は探してるものがあるんだよ」


「探してるものかぁ、・・僕はねぇ、家出をしてみたら、上手くいっちゃった感じだよ」


「い・・家出って・・お前やっぱどこぞの坊ちゃんか?」


「そうだねぇ・・あっあのきのこは」


「食えねぇよ・・っていうかさっき飯食べただろう。」


どんどん森を進む背を追いかけながら、僕は他愛のない会話と初めての森を楽しんでいた。

だって・・多分明日ぐらいには、もう僕は城に連れ帰られるだろうから、今の内に外を楽しもうと思考を変えたのだ。


「えーもしもの時のために常に食べ物を探しながら森を歩けって従姉妹が言ってたんだ」


「こんな適当な林に生えてるものは、そんなにいい食べ物にならない」


「何言ってるの・・食べれる事に感謝しないと」


「なぁ・・お前って何者?」


「うん?だからアレックだけど・・ってわあああ」


足の置き場が悪く転んだ。

結構な勢いで転んだのに痛みはない。誰かが僕の左手を握ってくれているからだ。


「だからっ!食い物探すより足の置き場を見ろってこれで5回目だぞっ!!」


そう言われて思いっきり頭を叩かれた。初めての経験だ。

それでも彼が本気で僕を心配してくれているのが分かるから、ごめんと言うと彼は静かによしと言って僕を立たせてくれた。良い人だなぁ。


「ねぇ・・その探し物ってどんなものなの?」


「えっ・・」


「高価なもの?それとも貴重なもの?綺麗なもの?・・探してるんだから大切なものなんでしょ?」


「まっまぁ・・・」


「そっかぁ、見つかるといいね」


「おう・・ほらもう少しだからってなに・・左足どうかしのか?」


バレちゃった。昨日の宿屋で確認したが足に大きなマメが出来てしまっていたのだ。多分そのマメがつぶれてしまっているだろうとわかる。

こんなになるとは思わなかったが・・それでも気づかれないようにしたのに鋭いなぁ。


「大丈夫・・多分」


「あのなぁ・・いいから手を出せ」


「えっ」


そっと手を貸されて、僕はそのまま大きな岩に座らされた。


「足・・脱いで」


「そんな大げさだよ」


「さっさとしろっ」


結局は彼から怒られて、怪我の手当までしっかりしてもらう事になった。

僕ってやっぱりダメな奴みたいだ。ココットならこんな風にはならないんだろうなぁ。

いつも僕を守ってくれる従姉妹は、多分僕よりもずっと大変なことをしていて、僕や国のためにその身を削ってくれている。

遊学中の彼女が少しでも楽しい思い出を作ってくれればいいなぁ、キズの手当をされながらも僕は従姉妹の事を考えていた。


「なぁ・・お前がさっきの道を行くって決めたのはなんでだ?」


「えっ・・馬屋のおじさんがあの道が近道だって」


「・・そうか」


「うん・・あっありがとう。痛くなくなった・・魔法?」


「バーカっ・・違うっほら・・もう歩けるだろう。行くぞ・・後1刻もあれば新しい山道だ。」


「うん」


僕らは結局、新しい山道を見つけ、次の村までは一緒に旅をした。日が沈み始めた頃、やっと着いた関所で別れた僕は、馬を借りていた馬貸し屋に向かった。馬を逃がしてしまったのだ、その弁償をしないといけない。

昨日の契約書には、馬を逃がした時は、1200ギレドを払えって書いてあった。

僕の持っているダブリスの硬貨では厳しいが隣国のフェルべス金貨が2枚あるからそれで足りるだろうと急ぐ。

でもこれで最も高価な硬貨が無くなってしまうし・・やっぱり明日にはこの家出も終わりだろう。

そう落ちんだ僕が貸し馬屋さんに入ろうとした時、何故か1刻前に別れた筈のユーリが僕より先にお店に入ってしまった。

彼は、これからまた違う村にでも向かうのかなぁと思いながら、そっと扉に手をかければ開いた隙間から会話が聞こえた。


「はぁ・・・お前らが山賊と繋がってるなんて思いもよらなかったよ」


声はとても低く良く響いた。


「なっなんのことだ?」


「ニュアルの馬屋がダブリスだけじゃなくレヴァンにも進出してから随分と山賊の被害届が届くようになった。まぁこっちは、元が山賊の奴もいる国だからダブリスじゃ被害届さえ出さないんだろうがレヴァンでは違う。調べてみれば共通の馬屋を利用してたんだよっ!」


ダンっと大きな音がした。


「ぐっ・・偶然だっ!くだらねぇ・・いちゃもんをつけるな小僧がっ!」


「そうか・・旅慣れない奴や、人数が少人数の行商人の場合だけ同じルートを紹介し、わざと力の弱い老馬を渡す。しかも無駄に年季がある分馬は自分でここまで戻ってくる・・馬の弁償代金も手に入って随分と儲かってるらしいなぁ」


「っうるせぇっ!そんなの」


「お前が酒場でそう自慢げにしゃべったのは酒場のディーアって女が教えてくれたよ。・・こっちは役人にも話してあったんだよ。」


「どっ・・証拠はあんのかよっ!クソがっ」


ダンッと勢いよくまた音がした。多分テーブルを叩いたんだ。


「お前さぁ・・山賊共にも馬貸してやってんだろう?」


「はっ?そ・・そんな訳」


「間抜けだな、馬飾りぐらい外しておけバカが」


彼がそう言って何かを男に叩きつけた。


「レヴァンからの行商を狙ったのは積荷の価値があるからだろうが・・いい加減にしろっ!討伐には誰が来るか楽しみにしてろっ・・お前らニュアルの馬屋は手形を抹消だ」


「っ!てめぇのようなクソガキがなんだってんだぁ!!」


ダミ声が響き、ビリビリと鼓膜を刺激した。


「レヴァンの人間だよ。ここにある手形は抹消した。レヴァンでは二度と商売出来ねぇしさせねぇよ」


ユーリってレヴァンの人だったんだぁ。そう素直に驚きながら、僕はこのまま聞いては居られずに部屋に入っていた。


「っ誰っ」


「ユーリっ!!」


僕を見て驚いたらしく彼の注意が反れたのがいけなかった。店の主人である男がユーリに襲いかかったのだ。その後はあまり覚えてない。

ただ夢中で手元にあった木の実を投げて、それに驚いた相手をユーリが殴り倒すまで5秒もなかったと思う。


「お前なあああああ」


そう怒りながらこっちにやってくるユーリには怪我はなさそうだった。


「あ・・ごめん?」


「危ないだろうっ!しかもあの木の実は食えねぇって言っただろうがっ!」


思い出のために取っておいただけなんだけどなぁ。


「うん・・でさっきの話が本当なら、ちょっと待って欲しいんだ」


「お前何時から聞いてたんだよ」


「えーーっと・・」


「・・・おい」


「その・・手形の破棄を待って欲しいんだ」


「なんで?・・・お前には関係ない話だろう」


彼がそういいがら、いつの間にか縄で店主をしばっている。憲兵は呼んであるのかなぁ。

とにかく手形の差し押さえは止めないと、彼の言葉をそのままにしたら、ニュアルの馬屋の看板を上げる全ての馬屋がレヴァンとの取引が出来なくなってしまうからだ。


「関係は、あるよ」


そう僕が最初に馬を借りたおじさんとおばさんは、何も悪い事なんてしてなかったと思う。

僕が一人旅だと告げれば、他のギルドや商団を紹介してくれようとしていたのだから。


「なんで・・こいつらのせいでお前は山賊に襲われたんたんだぞ?」


「多分・・でもこのニュアルの馬屋系列の馬屋はダブリス国内に36店舗もあるんだ。その中のうち山賊と手を組んでいるのはごく一部の人間だけだよ。しかも元々たくさんの荷台を引いてたくさんの馬と共にこの国にくるレヴァンの行商の人たちにとっては、ニュアルはそれなりの商売相手だ。今君の判断だけで破棄されるべきじゃないと思う」


「ニュアル以外の馬屋だってあるだろうが・・」


「元が行商から出来たのがニュアルの馬屋だよ。他の馬屋は、貴族とかが自身の馬を育てる時とかに下げ渡したり、売ったりした馬を利用したギルド間で出来た小さな馬屋が多い。ニュアルは自分たちが元が行商だから馬の管理がとてもうまいんだ。・・・ここと・・後数件のために彼等とレヴァンの取引を取りやめにされるのは、多分レヴァンの人たちも困ると思うし、良心的な対応をしてくれた他のニュアルの馬屋さんたちにも迷惑だ。」


「お前って・・本当に何者だよ。」


「・・僕はアレックだよ。ちょっとだけダブリスに詳しい普通の子供だ」


「そうかい・・・でダブリスではどういう対応をしてくるかで俺もどうするか決めるって事でいいか?」


「・・・そうして・・・でユーリってもしかしてレヴァンの間者?」


「・・・お前ねぇ」


「間者さんかぁ・・かっこいいね」


「・・・・もういい」


その後・・ニュアルの馬屋にやってきた役人に仔細を説明してから僕はそっと王家の紋章がある短刀を見せた。その時に二人程失神してたけど・・まっ面白かったからよかった。

僕の権限がどこまで使えるかはわからないけど・・やっぱり僕の家出はたった2日で終了した。

内密でと硬く言い含めたけど結局この村で一番の宿屋を取らされて、そこにユーリと一緒に泊まる事になった。

最初は嫌がってたけど・・僕が一人だと騙されるかもと言ったら神妙な顔で頷かれたのは解せない。

ーーーー


「ユーリって間者じゃなくて王子様だったし」


あれから2年・・僕と彼は文通相手になった。

僕がそう言うと本当に嫌そうに僕を睨む姿は2年前と変わらない。ココットも気に入ると思うなぁ・・彼女は綺麗なモノが好きだから。


「ただの子供が王子だったんだろう?・・お前の手紙の消印が可笑し過ぎるし・・しかも王家の紋章入りの便箋使うなよ・・アレックが愛称になるなんてダブリスの第一王子しかいないからこっちは焦ったぞ」


「僕の事王子って知っても文章変わらなかったからびっくりしたけどね」


「まぁな・・書いてある内容が異常事態だったけどな」


「そうかなぁ」


「先ず・・食えるか食えないか教えてって手紙に木の実を詰め込むな。とんでもない手紙が届くこっちの身になれ」


「でも律儀に返してくれたでしょ。君が王子様だって知ったのは一年前にレヴァンに行った時だったけどね


「そうだったな・・その場でダンスを申し込まれたし・・あの瞬間お前がアレック本人だと確信したよ。この天然」


「僕のダンス下手だった?」


「いや・・・あの後第二王子やバカ王からドレスを贈られて色仕掛けをして来いって言われた屈辱は忘れねぇよ」


「わー・・それはそれは・・あっそう言えば・・どうしてあの時助けてくれたの?」


「は?」


「だから初めて逢った時に・・僕を山賊から助けなくたってユーリはよかったよね?」


「守れるって思ったから・・手を伸ばすことをためらわなければ・・ただそれだけだ」


これは多分、僕が彼にココットを任せようと決めた瞬間だった。

だって君はココとよく似てて・・そして違ったから。


だから・・君は僕の親友だよ。ユーリ。








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