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―閑章 1ー

「相変わらず・・・綺麗だねぇ」


「っぶ」


僕の言葉に紅茶を飲もうとしていた彼は思いっきりむせこんだ。

熱かったのかなぁ。


「だから・・お前は、もう少し考えてから口にだせっていっただろうが」


そう僕の事を叱った彼は、あいも変わらなず・・その金色の瞳を眇める。

もったいないなぁ・・。ずっと見てても飽きないのに。


「おい・・・そのボーっとこっちを見るのをやめろっ」


彼は出逢った頃から変わらない。僕はこの人に憧れる。

きっとあの日、あの瞬間に僕は重ねたんだ・・僕が守られてきた、守るべき人に。

彼は良く似ていた。



2年前・・僕は彼に出逢った。

互いが互いに王子なんて身分を持つとは知らず、ただ一人の人間として彼と出会えた軌跡に心から感謝したのだ。


ーーー

14歳になって次の日。

唐突に僕は家出を試みてみた。


あまりに上手くいきすぎたのだ。・・・多分これは、アイエス叔母様が許してくれた一度のチャンスだと思った。

王家の通路を使って、ただただ無心に動いた結果・・僕は、城下をぬけて山道を彷徨っていた。


「足が・・痛い」


服はエリオットの部屋にあった物を拝借したから、それなりに見える筈だが・・妙に視線が痛かった街中をぬけて必死に足を動かした。小高い山・・多分ここはまだ王都内だ。

丘をぬけて関所をぬけて行けば、近くの村まで確か馬で2刻だ。

ここまでで結構時間がかかっている、非常時用に用意してある硬貨は、隣国4国のもの全てあるがそこまでたくさんはないし・・この家出がどれくらい許されるかもわからない。

多分僕にはわからないように、護衛がついているかも・・いや追跡魔法かなぁ。

僕は僕の立場をそれなりに自覚しているが、それでも今日のこの経験は必要な事だと思った。


なんとか半刻後には関所の近くにある貸し馬屋に入れた僕は、ちょっとおじいちゃんの馬を手に入れる事ができた。隣村の同じ印の馬屋に返せばいいなんて、便利っと感動していたら馬貸しのおばさんから心配されてしまった。


「あんたみたいな綺麗な子は、一人じゃあぶないよ・・せめてどこかの行商のギルドに混ぜてもらいな」


「えっ・・でも」


「追われてんのなら尚更だよ」


「いや、追われては」


「なら」


「ちょっと友達に会いに行くだけなので」


「その友達には連絡してあんのかい?それとも友達は病気か何かかい?」


「まぁ・・あのはい。その僕ってそんなに弱そうですか?」


そう聞くとおばさんからは、頷かれ、この人の叔父さんであろう人からは、知り合いのギルドが通るまで待てとまで言われてしまった。

だが急ぎだと伝えると叔父さんからは、危ない山賊が最近出た場所を教えてもらって、叔母さんからはもしもの時に食べてと携帯食をもらってしまった。お礼のお金を払おうとしたら、馬を大切にしてくれればいいと言われたのでそれに頷いて、僕は明るい内に関所を出る事ができたんだ。


国民の優しさに触れるのは嬉しい限りだ。

結局は、隣の村までは問題なく行けたがその後が問題だった。宿屋さんのご夫婦が僕を見て迷子だと思い保護されそうになったからだ。なんでかなぁ。

とにかく馬を返して、宿のおばさんに通常の半額以下泊めてもらえた。まぁ保護の意味もあると思うけど、無事王都をぬけれた事にとても浮かれていたんだ。

翌日・・山賊に襲われるまでは。


「おいおいおい言ってた通りかわいいじゃねぇか」


「?」


「お前らっ顔はキズつけるなっ高く売るんだからな・・味見は、まぁ俺がやった後にな」


絵に描いたような山賊さんだった。皮をなめしたらしい上着と薄汚れた服が包むのは、隆起の大きい肉体だったが近衛の人と比べると実用性はなさそうに見える。

しかも声のかけられ方から僕を女の子と間違えているらしいとわかり、手綱を持つ手を一度確認した。


僕ってそんなに女の子らしく見えるかなぁ。洋服は普通だと思ったけど。

一応忍ばせてある短刀とナイフを確認しながら・・借りている馬を落ち着ける。相手は山賊で親玉っぽい人と二人だけが馬に乗ってる。

人数は10人ぐらいだし・・負けはしないだろうけど。全員を捕縛するのは・・無理かなぁ。

そこまで考えているうちに矢が射かけられた。


これくらいと思ったのがまずかった。普通の馬は、矢を射かけられるなんて事がないのだ。訓練のされた馬ばかり相手にしていたのが仇になった。

借りていた馬が制御を失い、僕を落とすのはしょうがない事だった。


なんとか受け身を取ったが、馬は逃げてしまい、体を起こしたそこにはニヤニヤと笑う男たちが僕を囲んで近づいてくる。

どうしようかなぁ・・・統率はなさそうだ。


なんとか隙を見て逃げようと思った時に、どこかから何かが跳んできた。

見事にそれが相手側の親玉さんと他二人の馬に当たり、暴れ出す。


「えっ」


「おい」「うわあああ」「くそっおちつけっ!!」


「御頭っ」「っちょぎゃ」


制御を失った馬が暴れる。

その合間をぬけて誰かがこっちに走ってきた・・・なんだと警戒すれば、僕と同じくらいの大きさだ。


「何やってんだ!来いっ!!」


そう声が掛けられ、僕はその言葉に従って山道を縫って走り抜けた。

しばらくは何も考えず走っていたが、それがまずい事だと気付いたのは、走ってから20分以上経ってからだった。


「あっ迷子になっちゃった」


足を止める事が怖いから・・ずっと歩き続けるけど、これはまずいかも・・。

そう恐怖にかられながら、従姉妹の言っていたことを思い出そうと必死になった。

彼女の家は特殊で・・というか伯母上がすごい人だから7歳くらいから山にハイキングにいくんだと言っていた。

その時に培ったたくさんの事をたまに教えてくれるのだ。


「たしか・・木の年輪が」


ない・・・そうだよねぇ。年輪で北と南を確認できると教えてもらったけどそれも無理。まず年輪がないし切る道具もない。

次・・苔っ・・苔がある方が北っ。必死に首を動かしてみれば苔と一緒に川も見つけた。

飲み物は大丈夫・・しかも川があるという事は、頭にある地図をなんとか照らし合わせれば山道に戻れるっと安心した時だった。


僕のすぐ傍に小鹿が居たのは。


「あっ鹿だぁ・・・本物・・かわいい」


そういえば、鹿を狩って食べたって言ってたなぁ。

いや・・僕捌けないし・・こんなにかわいいの食べれないよ。ココ。

従姉妹についそう心で反論した時、かさりと茂みから音を聞いた僕は、慌ててそっちに視線を向ければ、見たこともない大きな牡鹿がこちらを睨んでいた。威嚇するように蹄を鳴らしこちらに近づいてくる。


あっこれはまずいと思いながら・・少しずつあとづされば、思いっきり転んだ。

その瞬間鹿が突進してくる。

ヤバいっと体を固くした時、やはりさっきと同じように何かが投げられ、鹿の目に命中した。

鹿が怯んだ時、また声がした。


「お前なにやってんだっ!こっちだ」


声のする方に走れば、やっぱりさっき助けてくれた男の子がいた。

心臓が痛い。なんとか彼の元まで行けば、抱き込まれた。


「うわっ!!」


「静かにしてろっ・・あの子鹿が怪我してんだ。肉食獣がこっちにくる可能性がある・・あの牡鹿はそれを懸念してるんだ」


そう耳打ちしてくれるので、僕はそれにしたがった。

しばらくの沈黙があって・・やっと安全を確保できたらしい彼が僕を見た時、また僕も彼を見る事が出来た。

僕を映したその瞳はとても美しい金色をしていた。


「綺麗・・・」


「は?」


「綺麗な瞳をしてるね」


「お前・・大丈夫か?」


「うん・・あっ助けてくれてありがとう。」


「あぁ・・なぁ、お前って何者だ?」


「?」


「いや・・だから世間知らずの坊ちゃんが何してんだよ」


「ぼっちゃんって僕の事?」


「そう・・・さっき転んでたな。怪我でもしてんの?」


「・・・・足は痛いけど、大丈夫。そうだっ!さっきの鹿かわいかったね」


そう同意を求めれば、ものすっごい顔で擬視された。

綺麗なのに・・もったいない。


「なぁ・・お前って天然?」


「・・・天然?うん、人工物じゃないよ。」


「わかった」


なんでそんなショックみたいな顔してるの?あの顔ってよくココがするのに似てる。

そういえば・・家出するってココットに言わなかったなぁ。

怒っちゃうかなぁ。

従姉妹は現在隣国に遊学中だから手紙を書いて報告しよう。僕家出しましたって・・驚いてくれるだろう。


「で、お前は何のためにあんな所に一人でいたんだ?」


「あんな所?普通の山道だよね」


「あそこは、山賊のテリトリーの中で一番のあな場だ。大きな通りから離れてはいないが、開けてないし、馬に慣れない奴が行くには少し手間取る。お前見たいなのがカモになるんだよ」


「カモ・・・鴨って鳥ですか?」


「ごめん、なんでもない。でとにかくお前の名前は?」


「僕?僕はアレック」


「俺は、ユイール」


ココットの兄であるロレンスからつけられたあだ名はここで役に立った。まさか本名はいえないから。


「とにかくあっちの山道じゃなくて、もう一つの方の山道に行くぞ。そっちなら多分山賊はでないし・・っておい。何してんだ」


「えっ・・綺麗な木の実があったから拾ってみた。一緒に食べよう」


「バカ・・・それは毒がある」


「えーーそうなんだぁ、じゃあ焼いて食べようか」


「焼いても食えないっていうか、お前もう少し人の話を聞け」


「うん・・ゆいー・・・言いにくいからユーリね」


そう僕が言った時、目を真ん丸に開いた彼がしばらくの間固まったあとに僕に手を差し出した。


「次の街まで連れてってやる・・お前もう少し警戒心を持て」


「うん・・あっじゃあコレ・・馬屋のおばさんにもらったから一緒に食べよう」


「・・・あぁ」


僕らはピクニックみたいに楽しく食事をしたんだ。




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