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ホップキンス家の娘 15

離宮に移った私は、アレクシア王子とユーリ王子の護衛を他のものに任せて、出来るだけ早くというか護衛任務のために知っている城の秘密路を駆使して走った。


城内を歩む歩調は、近年まれに見る速さだ。つい癖で靴音を消して走っているので横を通るとびっくりされる。

すみません、幽霊じゃないのでそんな真っ青な顔をしないでください。

私が進んだ先は、先ほど侍女の人に教えてもらった第二公務室だった。

扉の前にはドロシーが居る。

母上について城に上がったのだろう、ならこの部屋に確実に母が居る。


「・・・お嬢様、護衛は?」


私の姿を目視した時から、纏う空気を鋭く変えた彼女の元へ私も急いで向かう。第一王子の護衛を無断で放棄しなければならない状況だと悟ってくれたのだ。

息を整えながら、そっと身だしなみを整える。


「今は他のものに任せてるけど・・もっと腕の立つ者をお願い」


「何かありましたか?」


彼女の言葉に私は今、正確な答えを渡せる程正常な思考を持っていなかった。

とにかくこの緊急事態を母に伝えないといけないのだ。


「ちょっと予想をはるかに超えた事態が起きてるの。お母様はここよね?」


「はい・・私が護衛に付きます。」


「お願い」


ドロシーの腕は、母も認めるものだ。彼女がついてくれるなら安心だと少しだけ息を吐く事ができた。

さてと・・どうしよう。

とにかく母と話さなければという一心で突っ走ってしまった自分に後悔しながらもなんとか手をあげ、分厚い木の扉をノックする。

響く音に相手の返事があり、私は一度自身を落ち着けるために深呼吸してから扉を開けた。


部屋の中央には執務用のテーブルがあり、彼女はその中央に位置する椅子に座っていた。

そして彼女を囲むように数名の侍従が居て、その後ろにお庭番の一人がいる。


「遅い・・・」


「申し訳ありません。」


母は私の姿を見初めた瞬間にそう切り捨てた。私が護衛を離れたと伝言魔法で既に知っていたらしい。


「あなたの役目を忘れたわけじゃないのね?」


「はい、少しお時間をいただきたいのですが」


「今、ここで、どうしてもなのね?」


「はい」


「わかりました。申し訳ないけど15分程時間をくれる?」


母の言葉に了承の意を唱えてその場の全員が部屋を出ていくまでに1分もなかった。

母の座る中央の執務机へと進む。彼女が書類から目を離す事はない。

母は、私の言葉を待っているのだ。しかも私が任務を離れた理由が自身の秤で間違っていた場合、私の嫁ぎ先は変わるだろう。


「母上、レヴァンの第4王子・・ニセモノかもしれません。」


そう切り出せば、鋭い視線をくれる。

彼女の中でこれは予測の範囲なのだ、私もニセモノを送られることを予測してないわけじゃない。


母に、視線だけでそれがどうかしたかと言われた気がした。母は、それぐらいは予測できたのに何故私がここに居るかと聞いているのだ。


「先日私がお渡ししたレヴァンでの任務報告書をお読みいただけてますか?」


「えぇ、読んだわ」


「そこに取り逃がした相手として書いた人間の特徴は、3つ。金色の瞳と・・そのものの口調、戦闘スタイル・・・戦闘スタイルはまだ確認することはできませんが、身のこなしはそれなりです。金色の瞳は瓜二つでした・・・そして声も」


「あなたが取り逃がした相手がそのユーリ王子のニセモノに酷似しているという事ね?」


母がそう先に結論を告げてくれる。


「はい」


「送られてきたユーリ王子が本物だという可能性もある・・・それとも影武者が密偵の真似事をしているのかしら、レヴァンは」


「その可能性もありますが、あの時あの男は我が家の毒を」


そう、私にとってそこが一番の疑問なのだ。

ホップキンス家だけに伝わる毒薬は、普通の人間なら10分もしない内に亡くなってしまうような猛毒であるからだ。

もしかしたら、ものすごく似た赤の他人かもしれないとまで思考が回っているのだ。


「・・もしもその男がいま、ここにいるレヴァンの王子ならまだ体のどこかにしびれや麻痺が残ってるわ。完全な解毒には1ヶ月はかかる。最初の対処を間違えれば確実に死ぬ代物だもの」


母は静かに手に持った書類を置いた。


「そう言えば、ニセモノだった場合はいいけど、本物の場合は、レヴァンの第4王子をあなたが殺そうとした事になるわね」


そこを指摘するんですね、母上。

うん、本物ならば嫌な冷や汗が出てくるぐらいヤバいです。ドレスが重い・・・中に仕込んだ様々な道具のせいだけじゃなく、これは気持ちの問題だ。

このまま倒れ込みたいぐらいに疲弊してきていた。私の中ではもう何がなんだがわからないのだ。


「もしかしたら、私の聞き間違いであるかもしれませんし・・・あの瞳を持つものが他にもいるかもしれない」


自身の勘違いである可能性もあるとそう告げる。


「あなたは、私の娘・・間違いではないでしょう・・とにかく、一度私も確認するわ」


彼女の疲れたような吐息が聞こえた。


「あなたは一度落ち着いて、自身の内を整理しなさい。そのような情けない姿では隙を突かれますよ、いいですね?1時間あげます。それまでに立て直しなさい・・今宵の歓迎晩餐会までの準備を整えて・・」


「はい」


母の言葉の真意は、相手がユーリ王子であってもなくても彼の護衛任務を放棄する事は許さないという事だ。晩餐会の準備というのは護衛任務の継続を意味していて、それまでには自身の中を整理して、どう動くかを決めておけというのだ。

本当にスパルタ。


「今宵のドレスは、赤にしなさい。・・あなたは私の娘だとわかるように」


そう言って母は再び視線を書類に戻した。

これで話は終わりという事だろう。所要3分だ。彼女にとって私の報告は予測の範囲内であったという事だが、それでも様子を見ると言ってくれたのだ。


「はい・・」


そして母は、許してくれた。私が彼女の娘であることを。

それだけでいい。

十分だった。












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