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従兄弟もまたダブリス 14

近づく相手を警戒しながらもそれをおくびに出さず、そっと彼等の到着を待つ。

馬蹄の音が響き、石畳をゆったりとやってくる彼等の心の内はきっと私達が想像つかないものだろう。


数名の騎士を引き連れて現れた相手は、とても不思議な色合いの髪をしていた。

濃い藍色の髪の間に銀糸が僅かに雑ざっているのだ。

太陽の光を内包するとキラキラと光る。少し濃い肌色で褐色とまではいえないが不思議な雰囲気を持つ少年はこちらまで乗ってきた青馬から優美に降り立って、私達の元へとやってくる。

彼の横に付いていた騎士たちが彼の後ろに控える。

淡い水色の衣装は彼の容姿を引き立たせる、金色の瞳と飴色の肌・・・とても美しい。


正統派王子とは違う。

うちの王子と対になりそうな容姿だとも思う。陰陽と言うべきか・・だがなんだろう、張りつめた弦のような・・その体躯からかレイピアを思わせる鋭さがあった。

こっちの朗らかゆったり天然ちゃんと別物だ。


「ようこそ、いらっしゃいました。(わたくし)はダブリス・ユエ・アレクシア・・あなたがユーリ・フォン・レヴァン様ですね?」


「出迎え痛み入ります。・・・はい、レヴァンより参りました・・ユーリ・フォン・レヴァンと申します。」


15歳にしては少し低めの声が耳をうつ・・・いやこの声は。

私の中にある記憶がリフレインする。あの月夜・・とそしてグレスを失った旅籠での一幕。

記憶と重なるそれを必死に否定した。


影武者なの?いやそれよりも・・・この男。


「お待たせして申し訳ありませんでした。まさか王族御自らの御出迎えを戴けるとは思っておりませんでした。・・・そのそちらのご令嬢は?」


「っ・・・」


少年が視線をくれる。あの金色の瞳だ。

疑念と疑惑・・もし目の前の男があの黒衣の男なら、これは罠だ。アレクシア様を守らなければならない。


「彼女は、私の従姉妹かな」


「従姉妹?」


流石天然王子、隣国の王子に向かっての説明が従姉妹ですか。


「ココ・・・」


自己紹介をとそう告げられて、私はそっと間合いを取って彼等の方へと頭を下げる。

手袋の下にはナイフを隠して。


「お会いできて光栄です、ユーリ王子。私、ココット・ホップキンス・ダブリスと申します。以後お見知りおきを・・」


状況が掴めない今、私はただただ平静を装って彼等に微笑ながら令嬢の手本である礼をする。


「こちらこそ、随分と可愛らしい方だ」


おっとそんな形容は初めてだ。みなさんまず最初に可憐、美しい、艶やかと私を表する。

まぁ、今日のドレスが大人しめのもので菫色であるからだろうと思いたい。


「まぁ、ありがとうございます。」


私の容姿は良くも悪くも母に良く似ている。大人びたと表現される事が多い。


「私の自慢の従姉妹なんだ、仲良くしてください。それと・・・あなたがダブリスに居る間は、彼女が世話をしてくれるっていう話だったんだけど・・・」


さて・・・再びの爆弾投下。

母上、そのような話をされた記憶がありませんが、どういう事ですか。

しかも相手はニセモノです、多分。

この瞳と声が私の記憶違いであって欲しいのですが、ちょっと厳しい。だってさっきから向けられているのは明らかな殺気です。

随分と分厚い猫をお持ちでいらっしゃるようだが、その猫から洩れている。


「そうなんですか・・・あっそう言えば先日送っていただいた書簡にありましたね、あなたからの一筆の意味は彼女ですか?」


何を書いたのっ?


「そうですよ・・ねぇ、もうそろそろ口調戻していいかな?どうせ城に入ったら君と気がねなくしゃべるのは少なくなりそうだし」


「いいよ。そこの従姉妹殿や俺に着けられた監視がその口を閉ざしてくれるなら」


「大丈夫。僕のココは自慢だって言ったよね」


「そうか・・・、じゃいいな。久しぶりだな、アレク」


「そうだね、ユーリ。痩せた?」


「うん?まぁ、ちょっとな・・お前は相変わらずだな。よく殺されずに居られるな」


「酷い、・・僕だってこれでも王子様ってだけじゃないんだ。ちゃんと護身術も学んでるんだよ?」


・・・。目の前の状況がのみこめません。

そしてそんなに近くに寄らないで、もしもの時に守れないから。


「お二方はご友人なのでしょうか?」


そう口に出したのは、このままでは私はここで茫然と時間と思考を無駄にしていくような気がしたからだ。

とにかく情報が足りない。

そしてもし王子がユーリと呼ぶこの男が本物の第4王子であるというなら。私は、どうしたらいいのだろうか。


「そうだよ、ココ。ユーリとは5年前から文通友達なんだ」


文通って・・乙女か王子。

ちょっと頭痛がしてる、しかもだ相手からはとんでもない殺気を感じますけど。


「以前みんなに内緒でちょっとだけ旅に出た時にね・・偶然に助けてもらったんだ、かっこよかったなぁユーリ」


「褒めてもなんもないから・・俺は第四だから持参金とかもない。」


「なにそれ、僕のお嫁さんになってくれるの?」


「・・・・お前ってそういう所あるよな」


「なにが?」


「だから、家出を体験してみようと勝手に城を出て野党に襲われそうになって、野党を倒そうとしたら野生の牡鹿に襲われる所とか?」


知らないぞ、それ。

っていうかなんだ内緒で旅にって・・・うちの従兄弟が不良になっている。

もしかして私の知らないこの人が居るのかもしれないと思いながら、はたと気づくのだ。

この男もまた従兄弟(・・・)であるという事に。

ダブリスの悪魔の血を持つものに一般人が居るか・・・・否だ。


ちょっと哀しい現実を知ってしまった気がする。


「・・・王子・・・後程お話があります。」


そう告げる事しかできなかった。

とにかくまず頭を整理したい。とにかく時間を下さい・・いろいろと認めたくない事、確認しなければならない事が在り過ぎて混乱してしまった。


先ずは、家出体験については説教だ。

そう心に決めながらもなんとかユーリ王子を観察する。

殺気はまだ向けられたままだが、それでいい・・。


「お話が長引きそうですね・・・もしよろしければ、これからお時間を取りましょうか?」


「えっいいの?彼の歓迎会とかあるでしょう?」


「大丈夫です。私ももう少しお話を聞かせていただきたいので・・・ね、アレクシア様」


「あっ怒ってるね、ココ」


そう嬉しそうに笑う所に困ってしまう。

だって結局は私は、この従兄弟をダブリス国とおんなじくらい大切だからだ。

私はそう彼等に告げた後、従者と侍女に一度彼等を離宮の方へ案内するように伝えた。

護衛として配置していたお庭番たちにも支持を出す。

今夜は、ユーリ王子の歓迎舞踏会が行われる。


それまでに彼との時間を取らないといけない。

切実に。

そして母とも。


私の中での優先順位をなんとか組み上げて、護衛役を私以外には誰が出来るかを考える。

もしもの時にあの青年・・いや王子を相手に完璧に対処できる者を数名思い浮かべ、侍女に母へと伝言を頼む。

母との時間も必要だと考えると頭が痛いが、とにかく私は必死に思考を回しながら、仲良く話ている王子二人を伺う。

私はホップキンスだ。



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