とある師団員の記述。
わが国の、国防を担う組織の中に、魔法騎士魔術師師団というものがある。
これは、本来違うギルドに入る、つまり別組織の一員である、魔法騎士と魔術師を同じ隊にぶち込んで、指揮を取り、時に前線、時に後方の支援を行う、切り札的な師団。
一般に、魔法騎士と、魔術師の仲は悪いことで有名だ。
魔術師は、魔法騎士のことを、筋肉バカと呼び、魔法騎士は魔術師のことを、頭でっかちのハゲができそうな連中、縮めて、ハゲ連中と呼ぶ。
こんな二者をまとめ、一つの隊に仕立て上げようと考えた先々代の団長はすごい方だと誰もが思っている。
そして、今の団長、先々代の孫息子であるディラン・ラインベルグ殿は、全団員の尊敬を集めていた。
「ねえ、ディラン団長の息子さんが今日来てたで!」
「あ? あのドラ息子?」
「そうそう。カラスいわれてる魔法騎士の出の魔術師みたいに細い人」
「団長が呼んだのか?」
口さがないその声を聴きながら、朝飯後の食堂がざわついていく。
「そうみたい。なんか、古代遺跡の調査に」
「そーか。なんで俺たちじゃやらしてくんねえんだろうな。古代魔法ってわからないことがあるのに……」
「息子さんがもしか研究しているのかもしれねーぞ?」
「んでも、研究は魔術師連中の役割だろうが? カラスさんは魔法騎士だろ?」
「そういや、セビルの港町の砦の軍師やってるみたいだぜ? 今」
「は? あのカラスさんが?」
団長の息子としか知らないために、広く出回っている彼のあだ名を連呼する我々に、ひっそりと入ってきた団長が小さく苦笑を漏らしていた。みんな気づいてねえ。
そして、団長は何事もなかったように朝食のパンを手に出ていき、団長がいることに気付いた隊員が放っていた緊張感が緩む。
団長がいることに気付かなかった奴は、まだみんなカラスカラスと、カァカァいっている。
「んでも、団長も人の親よねえ。カラスさんのことかなり優遇してるみたいじゃない」
「優遇ってそんなんしてるわけねえだろうが」
「だって、いまだに魔術師ギルドに入れてないらしいよ?」
「は? なんでよ?」
「いや……」
ちらりとあたりを見回して該当する者たちがいないことを確認してから、その情報を小耳にはさんだことがあるらしい魔術師の女の子はぽそぽそと告げた。
「バシュラールのハゲ親父が邪魔してるって」
「はぁ? あのおやじ、俺たちじゃなくて団長の息子さんにもやってるのかよ!」
「まず、そっからしょっ引かなきゃなんねえな!」
朝飯を食べながら話をして、一人が顔をしかめて顔をしかめる。
「つーかさ、ギルドに入ってねえっつーことは無収入なわけだろ? 最近だぜ? 軍師になったの」
一人の魔術師が、パンをちぎりながら声を上げる。
「え? じゃあ……」
「それまでどういう暮らしをしてたかっつーのが気になるところだ。だって……」
「まさか、団長のすねをかじってた?」
「いやいや、だってもうカラスさんだっていい年だろ?」
「……確かもう26、7だったはずだぞ?」
「魔法騎士学校上がってもう8年も経ってるじゃないか!」
「うわー」
同じ机についていた団員が一様に顔をしかめる。我々は、貴族の次男坊、三男坊など、実家に優遇されていない者たちが多い。そういうボンボンには風当たりが強く、やまにいびってやめさせたりもする。
「ここの団長って、ほとんどもう団長の家系が仕切ってるんだよな……?」
「……ってことは?」
「元ニートの下で働きたくねえよ……」
がっくりとうなだれた、朝の出来事だった。




