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カラスとセイレーン  作者: 真川紅美
カラスの意趣返し
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カラスの意趣返し

 そして、父に嫌味を言うべく、翌日の朝方、執務室を訪ねると、一人の男が父を訪ねていた。

「まったく、あなたは何を考えているのですか? わが息子をここの所属でもない、しかも、魔術師ギルドにも入っていないモグリの魔術師の下につかせて任務をさせるなんてっ!」

「それがどうしたのですか? 適材適所だと私は言っているでしょう? 息子ということを引いても、彼は古代魔法の研究家であり、それにおいても彼以上に古代魔法を扱える人間はいないと私が判断したから彼を呼び寄せて、任務をさせたのです。……それに、わが息子のことだ。危険に首を突っ込みたがる君の息子にくぎを刺してくれたでしょう?」

 扉から静かに入って、気配を殺して二人の言い争いを聞いていた。

「それに、本当にご子息のことがかわいいのであれば、古代魔法に首を突っ込むのはやめなさいと、なぜ、言わないのですか? 死にますよ?」

「そんなことなかろうが。たかが枯れ果てた遺産のどこが危険だっ!」

「あなたのような人がいるから、古代遺跡の探索を自由に許されないのですよ、バシュラールの当主殿?」

 そろそろ父の機嫌も悪くなってくるだろうと口をはさむと、私の気配に全く気付いていなかった二人がそろって私を振り返って目を見開いた。

「ノックもなしに失礼ではないか」

「お前が言うな!」

「私はノックをしましたよ?」

 双方向からの口撃に、レオン君とカイン君のお父上、バシュラールの当主がぜえぜえと肩で息をしながら私を見た。

「何用か!」

「あなたには用はありませんよ。師団長に任務完了の報告を」

「なっ!」

「そうか。ご苦労だった」

「いえ。あなたの期待通り、おバカな兄弟にはくぎを刺しておきましたよ」

「そうか」

 満足げにうなずいた父に私はため息をついて、完全にいない人扱いに憤り赤くなっている当主殿を振り返る。

「それと、私のことをモグリだというのであれば、とっとと魔術師のギルドへの承認してくださいよ。私は、魔法騎士学校を卒業してから、幾度となく門をたたいているのにそちらがカギをかけているから入れないんですよ? 聞けば、あなたのご子息、カイン君は、私と同じ魔法騎士学校卒ですぐに魔術師ギルドに入れたというではありませんか? それとは逆に、私や、ほか、魔法騎士学校卒の魔術師には申請を渋ったり却下したりと……。とんだ職権濫用だ」

「それは手前も!」

「だから、あなたにとやかく言われる筋合いはないといっているのです。……まあ、今度は断れない書状を持っていくので覚悟なさい。私も、あの方も、魔術師という権威を笠に着てのさばるだけのさばって、役にも立ってないデブは、切り捨てる気ですからね」

「おい、言い過ぎだ」

「いえ、私の言葉ではありませんよ。あの方です」

「あの方とは誰だ! 次第によっては承知しないぞ!」

「ほう? あなたが?」

 ぶるぶると贅肉を震わせて私を見上げる彼に、ため息をついて、封じている魔力を解いて、放つ。

「承知しないとはどうする気ですか? 魔術師の決闘を申し込むおつもりですか? たかが、八代しか続いていない若い家ごときが、我々に戦いを挑むと?」

 久しぶりに魔力の高揚を味わっていると、机をたたく音がして、すっと血の気が引く。

「ウィル。脅しすぎだ。これ以上脅して、失禁でもされたらどうする」

「ああ、それは汚いですね。すいません」

「バシュラールの当主よ」

 重い口調をとった父に、私の魔力に中てられ真っ青になった男はかくかくとした動きで振り返って見せる。

「これ以上、息子を刺激してやるな。これは、暴走すれば、私でも太刀打ちできない。命を危険にさらしたくないのであれば、早々に立ち去るがよい」

 魔力を乗せた声に、彼はおとなしく部屋を出ていく。雑魚の癖に、我らが一族に勝負を申し込もうなんて頭は大丈夫だろうか。

 ぱたんとしまった部屋にため息をつく。

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